Nさん、ありがとう!
子供の頃。
爺さんの家の庭は陰気で暗く、
だから、明るい花が欲しかった。
『陰気で暗かった』のは、
もしかして、家族の状況や、
もちろん、頭のおかしい爺さんの言動・行動にも原因はあるのだろうけれど、
考えてみれば、
あの頃の木造平屋建て住宅の庭は、
どこもそんなもの、だったようにも思う。
M君夫妻、Kちゃん、みんな、ありがとう!
物置を抜けた先の庭。
…柿の木、沈丁花、
花の咲かないキンモクセイ。
黒みがかった光沢の、
硬い緑の葉を持つ樹木。
夏には、湿った地表一面に、フキがびっしりその葉を広げ、
その陰には茗荷。
今になればそれは、
やはりそれぞれに美しくはあったのだろうけれど、
その頃私は、それが好きではなかった。
だから、明るい色の花が欲しかった。
花屋の、店先で目をひいた君子蘭。
名前がかすかに、何かを期待させる、福寿草。
大人の頭で考えれば、やはりそれはどう見ても、
明るい花どころか、
あの暗い庭にぴったりの部類のものなのであるが、
今ほど多くは園芸種が売られていない時代のことである。
あの暗い庭が育てた
私の目のせいもあるかもしれないが。
とにかく、君子蘭は無事、私のものとなった。
小さな、小さな福寿草も。
今は好きではない、それらの花たち。
そういえばあの庭には、唯一、
例外として、明るい花があったな。
薄いピンクの、雨にひときわ輝く薔薇。
蔓をあちこちに伸ばしては、
数えきれない花をつける。
…まだ、フリージアやポピーや、
スイートピーすら目新しい時代。
君子蘭のオレンジは、それは明るく輝いて見えた。
弟妻よ、ありがとう♪
…好きな花。
好きな花は、きっと、
思い出と結びついている。
とても小さな頃。
狭いアパートの前庭には、
母が大事に育てた、
白い牡丹やスズランが、
見事な花を咲かせていたが。
今、私が好きな花は…
これからも、それは、変わってゆくのだろう。