不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Apparizione della Madonna a San Bernardo di Filippino Lippi

2007-01-09 01:51:51 | アート・文化

依頼主はPiero di Francesco del Pugliese
(ピエロ・ディ・フランチェスコ・デル・プリエーゼ)。
元々はフィレンツェのPorta Romana(ロマーナ門)の近くにあった
Marignolle alla Badia(マリニョッレ・アッラ・バディア)
に収蔵されていた作品で
1529年のCarlo V(カール5世)によるフィレンツェ包囲の際に
ローマ門周辺が略奪の危機に晒される前に
修道士たちによって城壁内のBadia Fiorentina
(バディア・フィオレンティーナ)へ移された作品。

「聖ベルナルドへの聖母マリアの出現」をテーマに描かれた作品は
1486年のFilippino Lippi(フィリッピーノ・リッピ)の手によるもの。

F_lippi_san_bernardo

聖ベルナルドは1090年にフランスの裕福な家庭に生まれ、
恵まれた環境で勉学に励み
22歳のときにベネディクト会派に入信し
ブルゴーニュの修道院で修行。
1115年にClairvauxの新修道院の修道院長に就任。
就任当初は非常に厳しい教えで修道士たちからの苦情も多く
やがて修道士の声を聞き入れ、徐々に姿勢を軟化。
しかし生涯に質実・勤勉な態度は変わらなかったようです。
若くしてシトー派修道会(Ordine Cistercense)を創立。
多くの書物を残したことでも知られ「Cantico dei Cantici」では
彼自身の精神世界の観想的次元を表現した
訓話を書き記しています。
またその生涯で聖母マリアにまつわる訓戒も数多く残しています。
1153年没。
個人的に聖母マリア信仰の傾向が強かったようで
スランプに陥った際に聖母マリアの幻に遭遇。
幻想の聖母マリアに励まされて、スランプを乗り切ったとされます。

フィリッピーノ・リッピの作品の中では
前景で大きく聖人と幻想の聖母マリアが描かれ
背景では修道士たちが空に輝く光を見つけるという構成。
非常にプライベートな「幻影」のシーンを描いた前景に対して
背景の修道士たちには聖母マリアの姿は見えず
神々しい光だけが見えている設定。

勤勉であった聖人をよく表しているのが
岩の間に無秩序に置かれた書物と
切り株に支えられる質素な書見台。
それから白い修道士服の下に見える麻の服。
質実簡素。

聖母マリアの脇に広げられた書物のページは
ルカの福音書の「受胎告知」の部分。
幻想を見たとき聖人はまさに「受胎告知」について
書き進めているところだったのです。
天使に囲まれて現れる聖母マリアは蒼白で上品。
聖人の疲労衰弱ぶりを反映させているのだとも言われます。
この聖人のシンボルとして頻繁に描かれる
「鎖に繋がれた悪魔」が画面右端の岩の陰に描かれています。
この悪魔は聖ベルナルドの
「いかなる誘惑にも負けない精神力の強さ」を表しています。

画面の左右に分かれて描かれる
美しい天使と醜い悪魔の対称も見事。
悪魔が鎖を銜えてすごく悔しそうにしている表情も必見。
本当に悔しがっているように見えるのですよ。

Badia_fiorentina_s_bernardo_01
フィリッピーノ・リッピのこの作品を飾る額縁の下部には
「何かに疑問が生じたら聖母を思い浮かべよ。聖母の名を呼べ。」
とラテン語で表記されています。
聖母信仰の強いフィレンツェにはさもありなんな一句です。

Apparizione della Madonna a San Bernardo di Filippino Lippi
Badia Fiorentina
Via Dante Alighieri
Via Proconsoloのバルジェッロ美術館前の正面扉からも入場可
入場料:無料

美術館ではないので照明などの考慮が足りなくて
ちょっと残念な展示なのですが
気軽に観に行けるのでお勧めです。

logo_albero4 banner_01