電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ブラームス「交響曲第4番」を聴く

2009年08月09日 06時07分01秒 | -オーケストラ
今回の広島旅行には、妻と一緒ですのでノートパソコンは持参せず、文庫本と携帯型CDプレイヤーを持参しました。色々と考えた末に選んだCDは、ブラームスの交響曲第4番の1曲だけ。ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団の演奏です。

亡父が被爆した当時の悲惨で過酷な経験を、実際にはその一部なのでしょうが、広島で追体験してきましたけれども、平和記念資料館の展示の中で、思わず救われるような思いのエピソードも知ることができました。ろくな医薬品すらなかった当時の日本に、一万人分の患者の一ヶ月分をまかなえるほどに多量の医薬品や包帯等を集め、救援活動を行ったスイス人医師ジュノー博士(*)の想像力と行動力、人道主義には、思わず心打たれるものがあります。

広島への往復の車中、何度も繰り返して聴いたブラームスの4番の交響曲。まったく違和感がありませんでした。この曲には、よく諦念が指摘されますが、私には、(結婚は諦めたかもしれないけれども)、音楽の歴史と信念に基づく祈りと慰謝と希望とを感じずにはいられませんでした。1985年、ブラームス52歳の作品。むやみに楽観もしないが悲観もしない、そういう精神的な強さを、セル指揮クリーヴランド管の演奏は、決然と表しているように思います。

第1楽章、アレグロ・ノン・トロッポ、ホ短調、2分の2拍子。哀切な表情をたたえた音楽ではありますが、感情に流されることはありません。底流には、50代の中年男らしい、強い意志があります。
第2楽章、アンダンテ・モデラート、ホ長調、8分の6拍子。弦がピツィカートを刻む上に、木管が印象的な主題を奏でます。チェロがなんとも魅力的な旋律を歌い、弦楽パートが美しく絡みます。ティンパニに続く弦楽合奏の格調の高さは、なんともいえません。
第3楽章、アレグロ・ジョコーソ、ハ長調、4分の2拍子。決然とした、堂々たるスケルツォ楽章の始まりです。明快で活力のある表情の中に、力感が感じられます。この演奏では、ティンパニは迫力を持って大活躍しますが、トライアングルはこれ見よがしに鳴らしてはおりませんで、バランスの取れた、効果的なものとなっています。
第4楽章、アレグロ・エネルジーコ・エ・パッショナート、ホ短調、4分の3拍子。冒頭の主題が何度も何度も多彩に繰り返し変奏される音楽です。バッハの、そしてバッハ以前の音楽を研究し、情熱と技法を注いだパッサカリアなのでしょう。感傷的な孤独感や虚無的な眼差しよりはむしろ力感あふれる強い意志を感じる、堂々たる演奏です。

このCDは、1966年10月28日に、クリーヴランドのセヴェランス・ホールで録音され、1984年にリミックスされたものです。CBS SONY 00DC 203~6 という型番の4枚組「ブラームス交響曲全集」中の一枚。ジョージ・セルという指揮者とクリーヴランド管弦楽団というオーケストラの、代表的な演奏の一つと思います。

参考までに、演奏データを記します。
■ジョージ・セル指揮クリーヴランド管
I=13'24" II=12'56" III=6'43" IV=10'37" total=43'40"
■ブルーノ・ワルター指揮コロンビア響
I=12'55 II=11'46" III=6'26" IV=11'16" total=42'23"

(*):ジュノーさんって、だあれ?~広島県医師会のホームページより
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