電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

藤沢周平『日暮れ竹河岸』を読む

2009年08月19日 05時59分08秒 | -藤沢周平
文春文庫で、藤沢周平『日暮れ竹河岸』を読みました。帯には「最晩年の記念すべき名品集~人の世の光と翳をえがく19篇」とありますが、内容は二つに分けられます。
一つは、1枚の絵を主題とし、1月から12月までの季節に対応した「江戸おんな絵姿十二景」、そしてもう一つは、広重「名所江戸百景」からの7編です。

「江戸おんな絵姿十二景」は、グラビア雑誌のページにあってもおかしくない、短いもの。場面はほとんど変わりません。ドラマティックな物語性はうすいのですが、文字通りの掌編、印象的なスケッチというべきものでしょう。「十三夜」などは、となりの鍛冶屋の女房がたずねてきて、やがて亭主が帰ってくる、それだけです。しかしその中で、近所の女たちの噂話や人間関係、妊娠の徴候、夫の帰りが遅いことへの疑いと不安の解消という、ゆれ動く気分が描かれます。

初出は、「江戸おんな絵姿十二景」が昭和56(1981)年~57(82)年、<広重「名所江戸百景」より>は1991年から96年にかけて執筆・発表されたものです。作者の没年は1997年ですので、最晩年というのは<広重「名所江戸百景」より>に収録された「品川州崎の男」「桐畑に雨の降る日」などでしょう。帯のコピーは少しばかり誇大というべきかもしれません。
コメント (2)