電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ジュール・ヴェルヌ『気球に乗って五週間』を読む

2009年08月28日 06時22分48秒 | -外国文学
音楽CDもそうですが、本もタイミングを逃すと入手が困難になってしまうものです。発売されることを承知していながら、当時の懐具合の問題で入手しそこねたものなど、後にたいへん口惜しく思い出されます。例えば、集英社の『ジュール・ヴェルヌ全集』。

『海底二万マイル』や『十五少年漂流記』などは、各社の文庫で読むことができますし、『地底旅行』『チャンセラー号の筏』『神秘の島』など主だったところは、各社から発行されている翻訳で読むことができます。しかし、当時の『ヴェルヌ全集』が文庫で再発売されないものかと念願しておりました。それも、どうやら一度刊行されたことがあるようなのです。当方がパソコンに夢中になっている間に、貴重なタイトルを含めて、文庫化されたことがあるらしい。古書店の文庫の棚を見ると、そんなことがうかがえます。しかし、本書は歴とした改訂新版第一刷。劇画風の表紙は当方の感覚とはずれておりますが、手塚伸一訳の本文は読みやすいものです。



さて、本作品は、未知の大陸であったアフリカを気球で横断し、断片的な地理上の発見を跡づけようという冒険の物語です。知性的な探検家サミュエル・ファーガソン博士と助手のジョー、そして博士の親友の狩猟家ディック・ケネディが、二重構造の気球ヴィクトリア号を「操縦」して、アフリカ東海岸、インド洋に面したザンジバル島を飛び立ち、アフリカ西海岸セネガル川まで飛行する旅です。

未知の世界への冒険の船出が、現地でいつでも供給可能な自然エネルギー=風力に頼る帆船であるように、気球の旅もまた風まかせです。ただしヴェルヌは、電池やバーナーによって水素を加熱し膨張させ、垂直方向の移動を可能とし、気流に乗って飛ぶ操縦法を「発明」しています。

これ、ちょっと考えると合理的なようですが、実はここに一つだけ問題があり、五週間の飛行に必要な電力をブンゼン電池から継続して得ることが可能なのか、ということが説明されておりません。炭素と亜鉛アマルガムを電極とし、硫酸に二クロム酸カリウムを加えたブンゼン電池では、亜鉛極板の質量の減少分だけの電力を取り出すことができますが、哀れなフランス人牧師を発見救助するためアーク灯に使った電力も相当のものでしょうし、ちょいと無理っぽい。

まあ、そんな理系的ツッコミはわきに置いておくとして、ジュール・ヴェルヌの冒険空想科学小説第一作は、たいへんに面白いものです(^o^)/
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