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① ""70億年前の巨大銀河団形成の現場""
天体写真・2016年5月10日
銀河は宇宙のなかでしばしば群がって存在しており、その群は ※A 銀河団とよばれています。この画像は、宇宙が誕生してからちょうど半分の時代、すなわち今から約70億年前の大型銀河団の姿を捉えた写真の一部(1パーセント)です。一辺はおよそ450万光年に相当します。
赤く見える銀河の大半はこの銀河団に属する銀河で、主に3つの塊になって存在しそれらが画像の左上から南西方向に鎖状に連なっています。これらの塊はお互いの重力で引き合ってやがては合体して1つの大きな銀河団へと進化すると考えられ、今その前段階を目撃しているのです。
② 銀河古代都市のパノラマ
すばる望遠鏡を用いて、銀河団の形成とその中での銀河の進化をパノラマ式に描き出す研究プロジェクト(PISCES:代表、兒玉)の一環として撮られたこの画像は、宇宙年齢が現在の約半分であった、約70億年前の大型銀河団の中心部の姿です。画像の一辺はおよそ450万光年、すなわち我々の銀河系からお隣りのアンドロメダ銀河までの距離の約2倍に相当します。
わずかこれだけの空間に数百の銀河がひしめいています。赤く見える銀河の大半は、この銀河団に属する銀河で、主に3つの塊になって存在し、それらが北東(画像の左上)から南西(右下)の方向に鎖状に連なっていることがわかります。 これは、銀河の塊がこのような鎖状構造に沿って重力で引き合って集まり合体し、より大きなシステムへと進化していくという、まさに巨大銀河団の形成現場を見ていると考えられます。
すばる望遠鏡はユニークな大型カメラの活躍によって、数々の独創的な成果を上げてきました。銀河団のような巨大な天体の研究もその1つです。現在この7倍もの視野を誇る新しい超大型カメラが動き出しており、このような遠方宇宙の大規模構造の研究がますます飛躍的に進むと期待されます。
文:兒玉忠恭(ハワイ観測所)
③ ※A 銀河団は今でも成長中、基本法則を発見 (Astoro Arts)
銀河団の多くは成長が止まった落ち着いた状態にあると考えられてきたが、ハッブル宇宙望遠鏡の観測データなどを元にした研究で、銀河団は今も成長中であることが明らかにされ、成長の様子を表すシンプルな法則が発見された。
【2018年4月27日 大阪大学】
銀 河団は1000万光年ほどの範囲の中に銀河が数百個から数千個集まった、宇宙最大の天体である。銀河団には太陽の1000兆倍もの質量が含まれているが、そのほとんどはダークマターのため、電磁波による観測では銀河団の大きさや質量を正確に測定することは難しい。
銀河団の大きさや質量を測定する方法の一つに、 ※B 重力レンズ効果を用いるというものがある。銀河団の重力はレンズのような役割を果たし、銀河団の背後にある天体からの光を曲げるので、背後の天体の形が歪んで見える。この変形の度合いを精密に測定すれば、レンズとなっている銀河団の重力場がわかり、そこから大きさや質量を知ることができる。
ハッブル宇宙望遠鏡とすばる望遠鏡を用いた「CLASH」プロジェクトでは、20個の銀河団の重力レンズ効果から、それぞれの銀河団の精密な大きさと質量が求められた。
銀河団の多くは成長が止まった落ち着いた状態にあると考えられてきたが、ハッブル宇宙望遠鏡の観測データなどを元にした研究で、銀河団は今も成長中であることが明らかにされ、成長の様子を表すシンプルな法則が発見された。
【2018年4月27日 大阪大学】
銀河団は1000万光年ほどの範囲の中に銀河が数百個から数千個集まった、宇宙最大の天体である。銀河団には太陽の1000兆倍もの質量が含まれているが、そのほとんどはダークマターのため、電磁波による観測では銀河団の大きさや質量を正確に測定することは難しい。
銀河団の大きさや質量を測定する方法の一つに、重力レンズ効果を用いるというものがある。銀河団の重力はレンズのような役割を果たし、銀河団の背後にある天体からの光を曲げるので、背後の天体の形が歪んで見える。この変形の度合いを精密に測定すれば、レンズとなっている銀河団の重力場がわかり、そこから大きさや質量を知ることができる。
ハッブル宇宙望遠鏡とすばる望遠鏡を用いた「CLASH」プロジェクトでは、20個の銀河団の重力レンズ効果から、それぞれの銀河団の精密な大きさと質量が求められた。

ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した、おとめ座方向の銀河団「MACS J1206」の中心部。変形して見える背景の銀河も多数写っている(提供:NASA/ESA)
大阪大学大学院理学研究科の藤田裕さんたちの研究グループでは、このデータとX線天文衛星「チャンドラ」で得られた銀河団中の高温ガスの温度データを統計的に調べた。その結果、すべての銀河団のデータが「(温度)=(重さの1.5乗)/(大きさの2乗)」という単純な法則に従っていることを発見した。
さらに、スーパーコンピューターによるシミュレーションや理論解析を行ったところ、この法則が成り立つ原因は、観測された銀河団が現在も周囲の物質を引き込んで成長しているためと考えられることが明らかになった。銀河団は常に成長期にあるということを強く示唆しており、大多数の銀河団の内部構造は成長が止まった壮年期特有の状態に対応すると考えられてきた従来の説とは大きく異なる結果である。

左)成長期の銀河団。銀河やダークマターが次々落下し、内部の銀河の運動も活発で温度も上がりやすい。(右)壮年期の銀河団。銀河やダークマターの落下は少なく落ち着いた状態(提供:大阪大学プレスリリースより)
今回発見された法則を用いて観測を補うことで、多数の銀河団の性質が測定可能になり、銀河団や宇宙そのものの進化史を明らかにできると期待される。
④ ※B 重力レンズ (wikipedia)
重力レンズ(じゅうりょくレンズ、英語: gravitational lens[1])とは、恒星や銀河などが発する光が、途中にある天体などの重力によって曲げられたり、その結果として複数の経路を通過する光が集まるために明るく見えたりする現象。光源と重力源との位置関係によっては、複数の像が見えたり、弓状に変形した像が見えたりする。重力レンズ効果とも言われる。また、リング状の像のものはアインシュタインリングと言われる。
★ 重力レンズとは
アインシュタインの一般相対性理論では、銀河などの質量を持つ天体 (一般に物体)があると、その影響で時空が歪みます。背景の天体から 電磁波がやってくると、その歪んだ時空を通過することにより、電磁波の 進む経路が変わります。こ観測者から見ると、電磁波いろいろな方向から 視線に入り込んでくるため、あたかも重力源(この場合は銀河)がレンズ のような役割を果たしているように観測されます。これを重力レンズ効果 と呼びます(図5)。
図6に示した例は、銀河団が重力レンズ効果を引き起こしている場合です。 この銀河団(Abell 2218)は約21億光年彼方にあります。背景にある、 もっと遠い所にある銀河の像が、重力レンズ効果でアーク(弓)状に 見えています。銀河団にはダークマターがたくさんあるので、非常に 顕著な重力レンズ効果を発揮します。これを「強い重力レンズ効果」 と呼びます。
(強い重力レンズ効果の概念図。[STScI] )

(強い重力レンズ効果の例)

21億光年彼方の銀河団Abell2218に付随する ダークマターの重力によって、この銀河団の背後にある、より遠方の銀河が 重力レンズ効果を受けてアーク(弓)状に見えている。[STScI]
一方、弱い重力レンズ効果と呼ばれるものがあります。それは銀河団などの 顕著な構造がなくても、銀河が適当に集団化していると、その背景にある銀河 から放射される電磁波は弱いながらも重力レンズ効果を受けます。
その場合、 強い重力レンズ効果の場合のように、銀河の姿がアーク状に見えることはあり ませんが、少しだけ変形して見えます(図7)。これを「弱い重力レンズ効果」 と呼びます。
視野に見えているたくさんの銀河の形状を統計的に調べて、どの 方向にどの程度の質量があるかを調べることができます。コスモスでは、この 弱い重力レンズ効果を使って、ダークマターの空間分布を調べたことになります。
(弱い重力レンズ (WEAK LENS) 効果)

弱い重力レンズ (WEAK LENS) 効果。(上)ランダムな銀河分布。 (下)上図のランダムな銀河分布に対して、弱い重力レンズ効果が効いている 場合の銀河の見え方の例を示す。銀河の形状がレンズ効果で歪んでいることに 注意。(Jason Rhoads @ Caltech
⑤ 初めて観測、重力レンズによる超新星の多重像 (AstoroArta)
93億光年彼方で起こった超新星爆発が、重力レンズ効果により4つの像となってハッブル宇宙望遠鏡で観測された。超新星がこのような形で観測されるのは初めて。今後もう1つの像が時間差で出現すると予測されており、数年後の“答え合わせ”も楽しみだ。
【2015年3月6日 HubbleSite】
しし座の方向50億光年彼方の銀河団「MACS J1149.6+2223」の中に、その向こうにある93億光年彼方の銀河に現れた超新星が4重の像となって発見された。銀河団の強い重力がレンズのように超新星からの光をゆがませ、本来の20倍も明るい像を見せている。こうした重力レンズ効果による多重像は、遠方の銀河やクエーサー(明るい銀河核)のものは多く観測されてきたが、超新星のものは初めてだ。

銀河団とそれに属する楕円銀河(枠内)の重力によって、さらに遠方の超新星が4つの像となって観測された(矢印)(提供:NASA, ESA, and S. Rodney (JHU) and the FrontierSN team; T. Treu (UCLA), P. Kelly (UC Berkeley), and the GLASS team; J. Lotz (STScI) and the Frontier Fields team; M. Postman (STScI) and the CLASH team; and Z. Levay (STScI))
ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた4つの像は数日~数週間の時間差で現われたが、これはそれぞれの像が異なる経路をたどって地球に届いたためだ。ダークマター(正体不明の重力源)が多い場所を通過する像は、重力レンズ効果の影響を大きく受けるので地球までの距離が長くなり、遅く到達するのである。
今回の発見をした米観測チーム「GLASS」は、同じ超新星の別の像が20年前に現われたはずで、さらに別の像が今後5年間で銀河団のどこかに現われるだろうと予測している。この予測は銀河団に含まれるダークマターのモデルから導かれたもので、数年後に答え合わせをすることでこのモデルをさらに洗練させることができる。
今回の超新星はノルウェーの宇宙物理学者Sjur Refsdalさん(1935~2009年)にちなんで「レフスダール」と命名された。Refsdalさんは1964年、時間差で現われる超新星の重力レンズ像を利用して宇宙の膨張を調べるという手法を初めて提唱した。天文学者たちが半世紀もの間待ちわびた発見により、またひとつ宇宙の謎の解明に大きく近づくことが期待される。