(© Asahi Shimbun Publications Inc. 提供 関東以外でも、愛知や大阪、長野など計40都道府県で風疹患者の報告が出ている。写真は記者に予防接種を打つ下川院長(撮影/写真部・小山幸佑) )
① ""5人に1人は免疫がない 風疹患者の多くは「予防接種空白期」の30代から50代の男性""
2018/10/20 10:43
風疹が再び大流行の兆しを見せている。風疹患者の多くは30代から50代の男性で、「予防接種空白期」と重なる。「無自覚な感染者」になってしまうリスクがある。
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2013年の流行以来、減少傾向にあった風疹が、再び猛威を振るっている。昨年の風疹患者の報告数が93人なのに対し、直近1週間(10月1~7日)で135人、18年の累計患者数は10日時点で、1103人になった。
地域別に見ると、東京都362人、千葉県216人、神奈川県132人、埼玉県78人と、関東を中心に患者が増えている。特筆すべきは風疹患者の多くが男性、それも働く世代が中心になっていることだ。男性患者は女性患者の約5倍で、30代から40代が男性全体の62%を占めた。筆者(37)もその世代の一人だ。
18日、風疹の予防接種を受けようと、東京都目黒区のゆうてんじ内科を訪ねた。予防接種には、風疹単独のものと、はしかと風疹の混合ワクチンがある。法律に基づいた定期接種ではないため、基本は自費だ。単独なら数千円、混合なら1万円前後と、決して安くはないが、自治体や会社の補助がないか確認するといい。例えば目黒区は、条件はあるが、風疹の免疫の有無を調べる抗体検査の費用と、抗体が不十分だった場合には予防接種の費用も全額補助している。ただ、検査の結果が出るまでに2~4日かかるため、ゆうてんじ内科の下川耕太郎院長は「免疫がある人に再度接種しても問題はなく、忙しい世代は検査せずに受ける人が多い」と話す。
風疹ではどんな症状が出るのか。国立感染症研究所は、主な症状として「発疹、発熱、リンパ節の腫れ」を挙げる。下川院長は「全身に小さな粒の赤い発疹が出るのが特徴です。主にせきやくしゃみなどのしぶきによって感染します。感染力が強く、インフルエンザウイルスの3~5倍程度とも言われます」。
なぜ、患者が特定の世代に集まるのか。左図の通り「生まれた年により予防接種の機会差がある」(下川院長)からだ。男女共に定期接種となったのは1979年4月2日以降。それ以前に生まれた男性は、一度も予防接種を受けていない。筆者も該当する87年10月1日生まれまでは中学生のときに医療機関で個別接種する方法だったが、ワクチン接種が敬遠された世代で、接種率は低い。感染症流行予測調査(16年度)によれば、30代後半から50代の男性の5人に1人は風疹の免疫を持っていない。
「風疹にかかっても15~30%の人には症状が出ません。インフルエンザほど高熱にならず、発疹にかゆみもない。故に、働き盛りの世代が無理してでも会社に通い、無意識に感染を拡大させる恐れがある」(下川院長)
予防接種の重要性を訴えるのも、患者本人だけの問題ではすまないからだ。岐阜市の可児(かに)佳代さん(64)は01年、自身がかかった風疹の影響で長女を亡くした。妊娠初期(20週ごろまで)の女性が風疹にかかると、赤ちゃんが目や耳に障害を持って生まれる可能性がある。先天性風疹症候群といい、2050グラムで生まれた長女は心臓病を患い、目も見えず、耳も聞こえない状態だった。可児さんは現在「風疹をなくそうの会『hand in hand』」の共同代表として、風疹の啓蒙活動に取り組んでいる。
「風疹は大人の病、特に30代から50代の男性の病気です。妊婦さんと、妊婦さんの周りのパートナーや家族だけが予防しても、周囲に無自覚な感染者がいれば、妊婦さんを守れません。『結婚しないから』などと、他人事の男性には自覚を持ってほしい」
17年に報告のあった風疹患者の約15%が海外で感染した輸入例だった。日本人が海外に行くだけではなく、外国人労働者の受け入れも進んでいる。可児さんはこう指摘する。
「外国人の行き来も増えるなか、国内にとどまらない予防接種の体制づくりも必要でしょう」
企業の中には、社員が予防接種しやすいよう、独自の対策を行っている会社もある。
IT大手のヤフージャパンは風疹が流行した5年前、全社員・契約社員を対象に、上限7千円まで風疹予防接種の費用を助成する制度をつくった。今年は風疹の拡大を受けて9月5日、同社のグッドコンディション推進室が制度利用をあらためて呼びかけたところ、10月18日までに96人が接種した。
プラント大手の日揮は昨年、神奈川県の風しん撲滅作戦の要請を受けて、ワクチン接種が不十分な世代の男性社員で希望した100人を対象に、勤務時間内に社内にある健康管理センターで抗体検査を実施。抗体が不十分だった31人は会社が費用を負担して予防接種を受けられるようにした。今年は新入社員と海外赴任者を対象に風疹、麻疹の抗体検査を実施し予防接種の費用を負担している。
こうした対策は、「大企業だからできるんだろう」と考える人もいるかもしれないが、「小規模だからこそ、制度化しなくても簡単にできます」というのは岐阜県関市などで3店舗展開するウラタ薬局取締役の浦田悠宇(ゆう)さん(35)だ。22人の社員、パート社員が風疹やインフルエンザなどの予防接種を受けてきたら、領収書を会社に提出すれば全額助成。勤務時間中に抜けて接種に行くのも認められている。
「風疹にかかればしばらく出勤停止になってしまう。ちゃんと予防接種を受けられる環境をつくることは、スタッフにも会社にもメリットがあります」(浦田さん)
(本誌・澤田晃宏、深澤友紀)