(NASAの探査機インサイトのソーラーパネルを展開する技術者たち。)
米コロラド州デンバー、ロッキード・マーティン・スペース・システムズのクリーンルームにて。インサイトが火星表面に降り立つと、このような外見になる。(PHOTOGRAPH BY LOCKHEED MARTIN, NASA, JPL-CALTECH)
① ""火星着陸へ、NASAの探査機インサイトを解説""
地震を調べることで、火星の成り立ちと進化を解明へ
2018.11.23
🌸 地球上では地震と呼び、月では月震と呼ぶ。では火星なら?「火震」になるはずだ。と言っても、火星がどれくらいの頻度で揺れたり震えたりするのか、どれほどの揺れになりうるのか、誰にもわかっていない。
しかし間もなく、その謎の扉が開かれるかもしれない。2018年5月5日にNASA(米航空宇宙局)が打ち上げた最新の火星探査機「インサイト」が、米東部時間の11月26日午後(日本時間27日午前)に、火星に着陸する予定だからだ。
これまでの数々の火星ミッションと違い、インサイトは火星の地表を走り回って探検することはない。かわりに「インサイト(洞察)」の名が示す通り、探査機は火星の奥深くに目をこらし、この惑星内部の活動を描き出そうと試みる。この成果は、さらに遠くの天体で起きていることを知る手がかりになるかもしれない。(参考記事:「火星地図200年の歴史、こんなに進化した15点」)
「惑星内部で起こることは、地表での活動はもちろん、大気にも影響を及ぼします」と語るのは、インサイト・ミッションで研究の副責任者を務めるNASAジェット推進研究所(JPL)のスザンヌ・スムレッカー氏だ。「惑星の居住可能性を調べるには、全体的な地質学的進化をどうしても解明する必要があるのです」
🌸 インサイトはどこに着陸するのか?
探査機は、火星の大気圏をパラシュートで降下し、エリシウム平原に着陸する。地表に見るべき点は特になく、赤道付近にあって日照時間が長いためソーラーパワーの探査機には都合がいいという理由で、この地点が選ばれた。
NASAマーシャル宇宙飛行センターのレネ・ウェーバー氏は、「インサイトの主な目的は惑星の内部を調べることなので、着陸地点の表面がどう見えるかはそれほど重要ではありません」と話す。(参考記事:「火星に巨大津波の痕跡見つかる、異論も」)
着陸した探査機の目指す場所は?
どこも目指さない。歴代のローバー(探査車)たちは、つまずいたり、転がったり、クレーターをよじ登ったりしてきたが、インサイトは1カ所にとどまる。その仕事は、基本的にはできる限り静止したまま、火星自体の動きをこれまでよりも詳しく検知することだ。
🌸 惑星の中をどうやってのぞく?
確かに、最も鋭い目を持つ探査機でも、惑星の内部を見るのは簡単ではない。そこでインサイトは、いくつかの装置を使って火星の地下をのぞき込む。例えば、地面を約3~5メートルの深さまで掘削する探知器で、惑星内部の放射熱を測定する。また、フランスの宇宙機関が開発した超高感度の地震計は、ごくわずかな地震でも検出するよう設計されている。
「地震計は非常に高感度なので、装置の部品が大気によって動くだけでノイズの原因になります」とウェーバー氏は言う。その感度の高さゆえに、風など地表の現象による振動も、データに混ざる厄介なノイズとなる。こうしたノイズを避けるため、地震計には大掛かりな真空包装によるシールドが必要だ。その真空シール部分に漏れが見つかり、探査機の打ち上げ日は当初の予定から26カ月延期された。だが今は、ミッションに不可欠なこの機器は準備万端だとチームは自信を持っている。
火星着陸から2~3カ月後、インサイトは火星の表面に地震計を直接降ろす。その後、全てが順調なら、探査機と実験装置は惑星の鼓動や突発的な振動を記録していく。期間は地球の2年(火星の時間ではおよそ1年)にわたる予定だ。
(クリーンルームでNASAの探査機インサイトを制作するエンジニアたち。2015年の組み立てとテスト段階の様子。(PHOTOGRAPH BY LOCKHEED MARTIN, NASA, JPL-CALTECH))
🌸 「火震」はどうして起こるのか?
地球上では、地震は地殻活動かマグマ活動によって起こる。前者のほとんどは表層の巨大なプレートが滑ったりずれたり、別のプレートの下に潜ったりして発生し、後者は火山に関連して発生する。しかし地球と異なり、火星の表層はプレートに分かれていない(少なくとも、そのような証拠はない)。(参考記事:「【解説】地球のプレート運動、14.5億年後に終了説」)
それでも、火星には地殻活動がある。つまり、火星の地殻がゆがんだり折れたりする断層があり、内部から立ち上る高温物質のプルームが、太陽系内で最大級の火山を作り出している。タルシス三山と呼ばれるこの火山群は、数十億年前から存在している。
「地球には何十億年も持続している火山系はありません」とスムレッカー氏は話す(月もやはり構造プレートがないが、地震はある。そのほとんどは月を引っ張る潮汐力の結果だが、隕石の衝突で起こるものもある)。
★ NASAの探査機インサイトが打ち上げを前に折りたたまれ、着陸機に背面板が降ろされる。この背面板と遮熱板が共にエアロシェルとなり、探査機が火星大気圏に突入する際に着陸機を保護する。(PHOTOGRAPH BY LOCKHEED MARTIN, NASA, JPL-CALTECH)
🌸 火星の地震、大きさはどのくらい?
誰にもわからない。ミッションの主目的の1つは、火星の地殻活動がどのくらい活発かーーつまり、揺れの頻度、大きさ、揺れがどこから来るのかを明らかにすることだ。月と同様、隕石衝突によって起こる振動はもちろん、惑星が冷えるにつれて発生する振動や、さらにははるか昔のマグマがガタガタと立てる音などを探査機が感知することをチームは期待している。
「隣の惑星で、過去100万~1000万年間に火山活動があったというのは」とスムレッカー氏は言う。「地質学的に言えば昨日と同じです」
火星の地震は、地球と同様にマグニチュードで測定されるが、火星で起こるマグニチュード5の地震が地球上と同じように感じられるとは限らない。重力や岩石組成が異なるためだ。
「火星の地震活動度は、おそらく地球と月の中間ではないかと考えています」とウェーバー氏は話している。
🌸 なぜ火星の地震を気にする必要があるのか?
誰も火星の溶岩洞の中に家を建てたくはないだろうし、その洞穴が地震のときに頭上で崩れ落ちるのも望んでいないだろう。当然だ。しかし、これは将来ありうるシナリオなのだ。(参考記事:「2020年、NASAの火星生命探査はこうなる」)
★ 米カリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地に届けるため、NASAの探査機インサイトが輸送機に積み込まれる。コロラド州のバックリー空軍基地にて。(PHOTOGRAPH BY LOCKHEED MARTIN, NASA, JPL-CALTECH)
火星で地震が起こる頻度やマグニチュードがわかれば、この惑星の地殻活動の活発さが明らかになる。それだけでなく、火星の進化についても手掛かりが得られる。しかも地震を調べれば、研究チームはこの星の内部を直接描き出すこともできるだろう。地震波が伝わっていくときには、密度や組成が異なる物質の中を通り、時には層と層の境界ではね返ったりもする。こうした波は、地震計に届くまでにどんな物の中を通ってきたのかという情報を携えているのだ。
「いったん地震の発生を確認できれば、地震波の通り道の周囲にどんな構造があるのか知ることができます」とウェーバー氏は説明する。「本当に、いったん火星に着陸すれば、ただ何回か地震を記録するだけでいいんです!」
こうした波を十分にとらえて情報を読み解くことで、科学者たちは火星の地殻の厚さ、マントルが層をなしているのか否か、核の大きさ、核が液体か固体かを突き止められるだろう。火星では、これらの層は地球のように対流やプレートテクトニクスによって混ざり合っていないため、内部には初期の歴史と組成の記録が残っていると科学者たちは考えている。
「私たちが解明を進めようとしている大きな疑問の1つは、溶けた状態の惑星が、内部の層がある状態へとどう変化するのか、ということです」とスムレッカー氏は話す。
★ 火星に着陸した探査機インサイトの想像図。(PHOTOGRAPH BY LOCKHEED MARTIN, NASA, JPL-CALTECH)
1つの探査機がそんなにたくさんの仕事をするの?
誰でも驚くはずだ。インサイトからのデータは、火星を周回している別の探査機が調査した大気中のメタン情報と関連付けられる可能性もある。火星のメタンは地質学的に生成されていると推測されているものの、生物学的に生成されている可能性もあり真相はわかっていない。スムレッカー氏によれば、エクソマーズ計画のトレース・ガス・オービターと呼ばれるこの探査機が、インサイトが調査している地域でメタンを検出すれば、メタンは非生物由来だという主張を補強するかもしれないという。
探査機は数台のカメラ、電波科学実験装置、気象センサーなども積んでいる。また、インサイトが火星の大気圏を降下し、着陸する際には、情報を中継する2機の小型衛星、キューブサットが後を追ってくる。
いつの日か、火星の地震を地球人に知らせてくれるアプリが登場するかもしれない。火星で暮らす訓練をしている人々のために。
☆彡 やはり男のロマンです!!
★ インサイトの探査行