(アルマ望遠鏡、最高周波数帯バンド10)
① ""アルマ望遠鏡、最高周波数帯バンド10での初成果:巨大星誕生現場に見つかった糖類分子と宇宙噴水""
2018年11月22日 |研究成果
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した「猫の手星雲」と、その一角(NGC 6334I)で捉えられた分子輝線。アルマ望遠鏡とハーシェル宇宙望遠鏡の観測結果を比較すると、アルマ望遠鏡のほうがおよそ10倍もの数の分子輝線を捉えていました。 オリジナルサイズ(809KB)
アルマ望遠鏡が、計画された中で最高の周波数帯(バンド10:およそ850ギガヘルツ、波長に換算するとおよそ0.35ミリメートル)で得た、初の科学成果が発表されました。日本で製作した高性能受信機により、これまで見ることのできなかった天体のふるまいが、次々と明らかになっていきます。
恒星の周りや星間ガスに存在する分子は、それぞれの種類や周囲の温度に応じて、固有の周波数の電波、すなわち分子輝線を放ちます。周波数が高い電波の領域では、比較的高温の状態にある複雑な構造を持つ有機分子を観測できます。これまで観測できなかった周波数帯による観測は、天体の新しい側面を明らかにします。
② しかし、このような周波数の電波は、地球の大気に含まれる水蒸気の影響を強く受けます。アルマ望遠鏡が置かれた南米チリのアタカマ砂漠は世界で最も乾燥した地域ですが、それでも最高周波数帯で観測が可能なのは全観測時間の1割ほどです。また、最高周波数の電波を受信することは既存の技術では不可能でした。新たな超伝導素材を用いたバンド10受信機が国立天文台の主導で開発され、新しい観測の窓が開かれたのです。
今回、さそり座の星形成領域「猫の手星雲」の一角にあるNGC 6334Iが、アルマ望遠鏡により最高周波数帯で観測されました。この天体はさまざまな観測装置で調べられてきましたが、アルマ望遠鏡はこれまで知られていたよりも10倍以上の数の分子輝線を捉えることに成功しました。その中には、砂糖の仲間のうち最も単純な構造を持つグリコールアルデヒド分子からの輝線もありました。輝線の数はあまりに多く、どの分子が出しているのか分からない輝線も多数あり、これからの研究が待たれます。
受信機開発チームを率いた国立天文台の鵜澤佳徳(うざわよしのり)教授は、「私たちが開発した受信機を使った初の成果が出たと聞いて、とてもうれしく思っています。この受信機は、超伝導素子開発に20年以上取り組んできた私の研究のひとつの集大成であるとともに、一緒に開発をやり遂げた開発チームメンバーや、チリ現地での試験観測を担当した多くのスタッフの努力の結晶でもあります。今後も、この受信機が新しい宇宙の姿を届けてくれることに期待したいと思います。」と述べています。
(猫の手星雲)
※ 命名にピッタリ合っています。
☀ AstroArts
宇宙に浮かぶ肉球は、大質量星の誕生現場
【2010年1月25日 ESO】
日本では「出目金星雲」と呼ばれる散光星雲NGC 6334は、猫の肉球にも見えることから、英語では「猫の手星雲」と呼ばれている。天の川銀河の中でもっとも星形成が活発な領域の1つで、大量のちりやガス、そこから生まれた大質量星によって複雑な構造がつくられている
ラ・シーヤ天文台の2.2m望遠鏡がとらえたNGC 6334の画像が公開された。NGC 6334は、さそり座の方向約5500光年の距離に位置する、直径約50光年の星雲である。その形から、国内では「出目金星雲」と呼ばれるが、猫の肉球にも見えることから、英語では「Cat's Paw Nebula(猫の手星雲)」と呼ばれている。ちりとガスが複雑に入り組んでおり、多数の大質量星が生まれているが、ちりに隠されてその姿を見ることはできない。
この星雲は、1837年にイギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルによって初めて記録された。その後登場した大きな望遠鏡によって、ハーシェルがガス雲の明るい部分(画像左下)だけを記録していたらしいことがわかった。
星雲が赤く見えているのは、青や緑色の光は星雲と地球の間にある物質によって散乱されたり吸収されたりしてしまうからである。赤い光は主に、高温の若い星からの放射で輝く水素ガスが発している。
NGC 6334は、天の川銀河の中でもっとも星形成が活発な領域のひとつで、数万個ほどの星が存在すると考えられている。年齢が数百万歳とひじょうに若く質量が太陽の10倍ほどの青く輝く星が、ちりの奥深くに隠されていている。
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この星雲でとくに目を引くのは、右下に見える泡状の赤い構造である。これは、一生の終わりに近い星が大量に放出した物質か、またはすでに爆発した星の残骸ではないかと考えられている。