(アンドロメダ瞬)© HARBOR BUSINESS Online 提供 一体誰得なのか
(アンドロメダ瞬)
① ""新作「聖闘士星矢」アンドロメダ瞬の女性化はなぜ炎上しているのか ""
2018/12/12 17:53
「聖闘士星矢」(以下、「星矢」)TVシリーズが3Dアニメとしてリメイクされ、2019年夏にNetflixで配信されると報じられた。
だが、男性主要キャラである「アンドロメダ瞬」の性別が女性になっていることで衝撃が走っている。
脚本を担当したEugene Son氏は、自身のツイッター(※削除済み)にて理由をこのように述べた。
「男女平等の現代において、全員男性のチームにすることは良くも悪くも、視聴者が何らかの声明であると解釈する可能性がある」(意訳)
これに対し、「むしろジェンダーレスに逆行している」「作品を理解していない」と批判が殺到。女性的なキャラクターをそのまま女性化する、女性が足りないからとりあえず配置するという場当たり的な措置が作品や女性を愚弄していると、ファンの中で不満が広がった。
一方、原作者の車田正美氏は過去、「星矢」についてこのような見解を述べている。
「車田作品もメディアミックスと関連するようになってから久しいが、それでも時折『原作とちがう』という意見を耳にすることがある。
たしかに各メディアにおいて漫画家やプロデューサー、それぞれの担当者などの思い入れで、内容的にも大きく変わることもあるだろう。
しかし、何より彼らは車田作品を子供の頃に愛読して育った世代だ。作品に対する情熱は、誰にも負けないと自負している。だからこちらも安心して『わが子同然』の原作を託せるのだ。
もはや、車田作品がひとつのブランドというのであれば、のれん分けした作品が、原作者の手をはなれてどんどん遠いところへ行ってしまうのも仕方のないことなのかもしれない。
ただ、ファンのみんながこれからも色ンなテイストの車田作品を楽しんでくれればそれでいいのだ」
そうした寛大なはからいのもと、もはや「星矢」は公式に二次創作が許されたかのごとく、新たな解釈による派生作品が次々と生まれ、誕生から30年経った今もその勢いは止まることを知らない。
時に、九谷焼の皿やボクサーパンツ、入浴剤などの“珍グッズ”まで登場しネタと化す光景も見られるようになった。
🌊 パチンコ台でもシリーズであります。
また派生作品において、男性キャラクターが女性化されたのはこれが初めてではない。
2014年にCG映画としてリメイクされた「Legend of sanctuary」では、聖闘士の中で最上位である黄金聖闘士の一人、蠍座のミロが赤毛の美しい女性キャラクターに改変されていた。
元のキャラクターは筋骨隆々とした美丈夫で、その面影は微塵もない。一度は動揺が広がったが、意外性があったのと、作品の大筋に影響がない範囲での改変だったせいか受け入れられた。
そんな中、今回のアンドロメダ瞬の女性化はなぜ、許されなかったのか。車田氏ももちろん承知しているはずだが、ファンの怒りは収まっていない。
アンチテーゼとしてアンドロメダ瞬の兄、フェニックス一輝を女性化した「#一輝姉さん」のタグが出回る始末だ。
◆作品自体が多様性の宝庫である聖闘士星矢
そもそも「星矢」は1985年の連載当初からすでに多様性の宝庫だった。美形キャラは最後まで生き残り、ブサイクは瞬殺されるという明らかな区分けはあるものの、ステロタイプの男らしさ、女らしさ以外の多様なあり方を作品内に同居させていた。それは国籍や思想信条にまで及んでいる。
ジェンダーの多様性については、「男性プリキュア」が話題になるよりはるか昔に達成していた。その体現者としてアンドロメダ瞬のほか、蜥蜴座のミスティ、魚座のアフロディーテがいる。
二人ともアンドロメダ瞬同様、男とは思えないほどの美貌を持ち、ミスティについては全裸で夕日を浴びながら「神よ、私は美しい」と見開き2Pを使って言い放つ。御し難いナルシストではあるが武人としての行動に女性的要素はなく、主人公の星矢を最後まで追い詰める。
魚座のアフロディーテは美女のような外見に、武器が「薔薇」であるため誤解されがちだが、これも作者が(おそらく)無意識に置いた“トラップ”。言動は、他の男性的なキャラクターと何ら変わることはない。
主人公・星矢の師匠である女聖闘士の魔鈴も、女性性はきわめて薄いが職務に忠実で、随所で要の活躍をする。
原作終了後のスピンオフ「冥王神話」に至っては、最強である黄金聖闘士初のゲイ(?)キャラまで登場させている。
アンドロメダ瞬も然り、「少女のような外見をしているが、男として存在している」ことに意義があった。男性性の権化のような兄が、弟を同性として認め愛情を注ぐ姿も、それを強調した。
「ステロタイプでなくても良い」――それが作品の持つ重要なメッセージ性の一つであるのは間違いなく、アンドロメダ瞬はその一翼を担うキャラクターであった。
しかし、アンドロメダ瞬を女性化させることは、逆にポリティカル・コレクトネスというステロタイプに嵌る結果となっている。
また、こうした「性別のわからない美しい男」がマッチョな男と肩を並べる光景がすんなり受け入れられてきたのも、古来より続く男色文化の素地によるものと考える。そうした日本独自に育んできた要素も、女性化することで台無しにしてしまう。
たとえ商業的な配慮であったとしても、ファンの怒りを買って当然かもしれない。
同時に、アンドロメダ瞬の性別が男であることによって成り立っていたいくつかのサイドストーリーも失われてしまう。
瞬に思いを寄せる姉弟子の女聖闘士ジュネが単なる同僚になってしまうし、そして兄の一輝が修行地で心の支えにしていた瞬に瓜二つの少女・エスメラルダの立ち位置も原作とは異なるものになってしまう。
それに作中、女聖闘士は仮面を被る掟があるにもかかわらず、女性版のアンドロメダ瞬だけ「大人の事情」で免除されている。あまり勝手をしてくれるな、というのがファンの心の叫びだろう。
◆30年たゆまず拡大し続ける「星矢」というビッグバン
だが、所変われば解釈など一瞬で変わってしまうのも事実だ。
Eugene Son氏に対し「原作をちゃんと読んでいるのか?」という批判もあったが、原作を読んでいても、バックグラウンドや文化理解度には限界があり大幅改変されてしまうのは致し方ない部分もある。筆者は、ファンの多い南米からヨーロッパ、そして北朝鮮に至るまで各国の星矢ファンと交流してきたが、日本人のファンのように「多面的な」解釈をする人はほぼいなかった。
たとえば、どの国籍のファンと話していても、黄金聖闘士で最強は誰かという話の次に必ず議題に上がるのが魚座と、作品最大のヒールである蟹座についてだ(わからない人には申し訳ない)。
特に魚座についてフランス人とメキシコ人のファンは「魚座はオカマだ。なぜなら、女みたいだから」と一刀両断、唯一の北朝鮮のファンは独自に深読みし「魚座はあれで同性愛者を表現しているが、作者が気を使って明言していないのだ」と言っていた。
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海外のマッチョイズムにおいては、「女のような外見=ゲイ」という単純な図式が根強く残る。日本の古参のファンとしては「何もわかっちゃいない」と苛立ちを覚えるだろうが、かといってゲイではない根拠も作品には明示されておらず、反証はできない。
だいたい、日ごろ男性キャラ同士のBLという“超解釈”を繰り返すファンも似たようなものである。公式キャラクターの性別変更に文句を言うべきではないのかもしれない。
このように「星矢」はファンが想像力を挟む余地が無限に存在する上、作者自身が多くを語らず、原作のコントロールを手放している以上、「正解」にも多様性があると考えて良いだろう。それは、「星矢」の持つメッセージ性とも矛盾しない。
“車田ブランド”オーナーとして、どのような形であれ作品を愛してくれれば良いと話すのみ。作品の最後でも、愛こそが全てであると説いている。
何より冷静に読むと「なぜそうなったのか」と問わざるを得ないツッコミどころが最低でも2ページごとに現れ、議論のネタに事欠かない。「だからこそ、30年も人気が続いている」と語るファンも多い。
無数の星が集まって一つの銀河を織りなすかのごとく、ファンの様々な解釈や思いの総和で形作られているのが、聖闘士星矢という作品なのだと理解したい。
今後はさらに、ハリウッド実写化という最大の難所が控えている。過去、数々の名作漫画がハリウッドリメイクによって駄作以下に成り下がっていることから、ファンの杞憂も大きい。再び紛糾が予想されるが、30年経って今だ拡大し続ける「星矢」というビッグバンにおいては、それも些細な出来事なのかも知れない。
【安宿緑】
編集者、ライター。心理学的ニュース分析プロジェクト「Newsophia」(現在プレスタート)メンバーとして、主に朝鮮半島セクションを担当。日本、韓国、北朝鮮など北東アジアの心理分析に取り組む。個人ブログ