じじい日記

日々の雑感と戯言を綴っております

つる のはなし 1

2020-01-30 13:19:04 | 盗作童話
昔々のその昔し、冬になると白鳥がたくさんやってくる村があったんだと。


いや、その村には大きな湖があって白鳥が越冬するのに都合が良かったんだとさ。






ある年の秋の頃にふらっと現れ、村はずれの湖のほとりに小屋を建てて住み着いた権太ちゅう男がいたったんだと。


そこは、夜には白鳥がたくさん集まって寝てるところの近くだったんだとさ。


その年はいつに無く寒い冬だった。


権太は囲炉裏の薪を秋の頃にたくさん割って積んであったんだけれども、寒いもんでどんどと焚いちまってさっぱりと無くなったんだと。


あいやぁ、薪採って来なくては寒くてたまんねぇな、と言って、権太は雪ばかき分けて山に入ったんだと。


そんで橇ば引っ張って湖のほとり回って山に入っていくと、なんだか鳥がギャーツコ・ガーツコと騒いでいたんだと。


権太、わさわさと駆けつけてみれば怪我した白鳥にカラスが掛かっていたんだと。
そこで権太は棒切れ振り上げて「これカラス、白鳥ばいじめんでねぇ」と大声でぼったくったんだと。


そんで、カラスが逃げた所さ駆け寄ってみれば、ばたらばたらと暴れて飛べねぇ白鳥が権太のまなこ見据えて「助けてけろ」と訴えだんだと。


いや、ここだけの話だしだども、権太が湖の淵に小屋建てたのはわけがあったんでがすと。
じつは、権太は夜中に白鳥ば捕って羽っこむしって鶏肉にして隣の村で小銭稼いで暮らし立ててだんだと。


そんな権太だけんど、涙溜めた白鳥のまなこば見てしまったら切ねくてはぁ「しょうがねぇな、拾って帰んべない」と、手ぬぐいで羽ばくるんで背負い籠に入れて小屋さ連れ帰ったんだと。


まず、権太の心算では、面倒になったら肉にして売ってしまえば良いと思っていたんだっけ。
それでも、芋や野菜くずをやってるうちになついた白鳥に情が移った権太は白鳥に「つる」と名前をつけて可愛がったんだと。


そりゃそーだわ、元気になった白鳥は権太のそばから片時も離れねぇで付いて回るんだも、誰だってめんこいと思うさな。


そんな権太だつたけれども、夜になると相変わらず白鳥の寝込みを襲っては肉にして売っていたんだっけ。


そして春が近くなって湖の氷も緩んだ頃、権太と一緒に薪採りに出た「つる」がばさばさと羽ばたいて湖で群れている白鳥の中に混じったんだと。


したらば「つる」が来るのを待っていたかのようにして他の白鳥がくぉ~くぉ~と声をあげ、一斉に飛び立ったんだと。


それは白鳥の北帰行だったんだね。


権太は白鳥のことはよく知っていたから、元気で国に帰れなぁ~と群れとともに飛び立つ「つる」に声をかけたんだと。


さて、また寒い冬が来て、湖には白鳥が渡ってきたんだと。


権太は春から秋は湖で魚を獲って暮らしていたんだけれども、白鳥が来たらまたあの猟を始めたんだと。


そして、冬も本番になった吹雪の寒い夜、権太の小屋を訪ねるものがあって、とんとんと戸を叩き「もーしもーし権太さん」と呼ぶおなごの声がしたんだと。


コメント (2)
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つる のはなし

2020-01-30 13:07:15 | 盗作童話
前号までのあらすじ


村はずれの湖のほとりに住む権太は、夏は魚漁、冬は白鳥を獲って暮らしていた。
とある冬の日、権太は薪拾いの途中で一羽の怪我をした白鳥を助け「つる」と名付け介抱した。
やがて春が来て白鳥は北の国に帰える時期が来た。
「つる」は他の白鳥の群れとともに北の国へと旅立った。


年が変わった初冬の吹雪の夜、権太の小屋の戸を叩く者があって、若いおなごの声で「もーしもーし権太さん」と呼ばれたんだと。




続きはここからだない。


権太は吹雪か風のいたずらか空耳だろうと囲炉裏の火に当たって酒っこ飲んでだったと。
そんでも、またすぐに「権太さん居たんだべし、中さ入れてくれろ」と女の声がしたもんで、慌てた権太は太い薪を一本掴んで立ちあがり「なんだぁ~狐かムジナが化けやがったか」と心張り棒を外して戸を開けた、と。


そしたら、真っ白いべべ着た若い娘っこが立っていたんだと。
それを見た権太はあっぱ口(方言でぽかーんと開いた口)開けて立ちすくんじまったんだと。
その訳は、言うまでもねえ事だけんど、娘っ子があんましめんこがったもんで"どでん"したんだなぃ(どでん=動転)。


そんで突っ立っている権太に娘っこは「権太さん、外は寒いっけ中さ入れてくれろ」と語ってきょとんとしてた権太のまなこ見つめたと。


吹き込む雪の冷たさで我に返った権太は「あいや、あの、おめが狸だかムジナだかはわからねぇども、まずは凍えっちまうから中さ入れっちゃ」と促したと。


雪っこ払って小屋さ入ったおなごは上がり框さ三つ指ついて「権太さん、去年の恩返しに戻ってきたつるでやんす、どーかここに置いてやって下せぇ」と語ったんだと。


そんで、わけが分からねぇままに腰ば抜かした権太につるは微笑みながら「んだらば権太さんよろしくお願いしやす、今日からここに置かせてもらいやす」と語ったと。


そしてつるは白いべべば脱いで小さな風呂敷包みから出した野良着みてぇなのに着替え、竃ば起こしなんでかんで支度ば始めだったと。


つるが支度をしたのはささやかな祝言の膳で、どこから持ってきたもんだか、小せえもんだが昆布や鯛までが乗っかっていたんだとさ。


そんでも権太はまだ心の中で「狐だべがムジナだべか、いやあの鶴なわけがねぇ、食い物だってどーせ葉っぱかどんぐりだべ」と、もじゃらくちゃらの気持ちでいたんだけれども、うまそうな匂いにつられてご馳走を口に運んでしまった、と。


つるはというと、傍に座り酌などしつつ「あれまぁ、そげにこぼしてはぁ~」と権太の口元を拭うなど、すっかり夫婦気分であったんだとさ。


さて、食ったし呑んだしで夜も更けて、囲炉裏の奥の間に床をとったつるが「権太さん、そういうことなんで今夜から枕ば並べさせていただきてぇと思うすが、なにぶんにもおら"おぼこ"だもんで、よろしくお願ぇします」と語って行灯の火ば落としたと。


まあ、あとは語るもんではねぇで、ほれ、男とおなごだもの、そういう事だったんだべぞ。


そんなわけで権太とつるは仲睦まじく暮らしていたんだども、やっぱしなぁ、権太は漁師で食ってるもんだで夜の白鳥狩りは止められねぇのす。


ある日の事だったと。


つるが「権太さん、わたしが魚ば獲ってくっから夜の狩りば止めてけらんねぇべか」と語ったんだとさ。


それを聞いた権太は困ったつうか、つるが本当に白鳥の化身だとは信じきれずにいたもんだし、で「やんだ、おらおなごに食わせてもらうほど甲斐性無くはねえし、おめ冬の湖でどーやって魚捕るってか」と言ったんだと。


つるは心底悲しそうな顔をしていたとさ。


その夜はあんまし口もきかねぇで床に入った権太だったども寝付かれなくてはぁ、つるが寝息ば立てているのを見て籠背負って道具持って夜の漁に出たんだと。


んで、夜中に小屋さ戻った権太は、獲った白鳥ば籠に入れて転がして寝床にもぐろうとしたっけ、つるが居ねぇんで魂消たと。


「あいや、つるだら俺とこ"ごっしゃいで"(方言で怒って)隠れっちまったんだべか」と、心配した権太は、また蓑ばかぶってそこら中探しまわったんだとさ。


そんで、なんぼ探してもつるは見つからねぇで、憔悴した権太は寝もしねぇで朝を迎え、籠の中で静かに震える白鳥ば茹で釜に浸けて羽ばむしるべと、竃に火ば焚べたんだと。


いい位の時間が経って釜の湯がぐらぐらと煮立ったのを見計らった権太は籠の中の白鳥ばむんずと掴んで引っ張り出し、放り込もうと釜の上さかざしたんださ。


そしたらば、かたかたと震えていた白鳥が小さな声で「権太さん」と鳴いたんだと。


へっ、なんだと、とどでんした権太はへなへなと力を失って白鳥ば釜の中に落としてしまったんだと。


煮えたぎった湯に落ちたつるは「くわぁっ」と短く鳴いて息絶えたんださ、哀れだなぃ。


そんで鶴の声聞いて魂消た権太は慌ててつるを拾い上げたんだけれども後の祭りさは。




もはやつるが鳴く事はあるはずも無いで、ぐたっとしたつるば抱きしめて権太は泣いたと。
泣いて、泣いて、三日三晩泣いたっけ権太ぁ気が触れっちまったんたべなぃ。


蓑ば着て傘かぶって外さ出て行ったんだとさ。


そして、湖さ行くと沖の方に群れている白鳥に向かって「つるぅ~ つるぅ~」と呼んで回ったんだと。


そんな事ばしていたら群れの中の一羽が「くわぁっ」と鳴いたんだない。
それを聴いた権太は「つる」と一言言うとわらわらと湖に入って行ったんだとさ。


あとは語らねぇでも分かりすぺは。
氷が張ってる湖だものなぃ。


まんず、そういう事で、村はずれの湖でそんな事があったつう昔語りよ。


コメント (1)
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