昔々のその昔し、冬になると白鳥がたくさんやってくる村があったんだと。
いや、その村には大きな湖があって白鳥が越冬するのに都合が良かったんだとさ。
いや、その村には大きな湖があって白鳥が越冬するのに都合が良かったんだとさ。
ある年の秋の頃にふらっと現れ、村はずれの湖のほとりに小屋を建てて住み着いた権太ちゅう男がいたったんだと。
そこは、夜には白鳥がたくさん集まって寝てるところの近くだったんだとさ。
その年はいつに無く寒い冬だった。
権太は囲炉裏の薪を秋の頃にたくさん割って積んであったんだけれども、寒いもんでどんどと焚いちまってさっぱりと無くなったんだと。
あいやぁ、薪採って来なくては寒くてたまんねぇな、と言って、権太は雪ばかき分けて山に入ったんだと。
そんで橇ば引っ張って湖のほとり回って山に入っていくと、なんだか鳥がギャーツコ・ガーツコと騒いでいたんだと。
権太、わさわさと駆けつけてみれば怪我した白鳥にカラスが掛かっていたんだと。
そこで権太は棒切れ振り上げて「これカラス、白鳥ばいじめんでねぇ」と大声でぼったくったんだと。
そんで、カラスが逃げた所さ駆け寄ってみれば、ばたらばたらと暴れて飛べねぇ白鳥が権太のまなこ見据えて「助けてけろ」と訴えだんだと。
いや、ここだけの話だしだども、権太が湖の淵に小屋建てたのはわけがあったんでがすと。
じつは、権太は夜中に白鳥ば捕って羽っこむしって鶏肉にして隣の村で小銭稼いで暮らし立ててだんだと。
そんな権太だけんど、涙溜めた白鳥のまなこば見てしまったら切ねくてはぁ「しょうがねぇな、拾って帰んべない」と、手ぬぐいで羽ばくるんで背負い籠に入れて小屋さ連れ帰ったんだと。
まず、権太の心算では、面倒になったら肉にして売ってしまえば良いと思っていたんだっけ。
それでも、芋や野菜くずをやってるうちになついた白鳥に情が移った権太は白鳥に「つる」と名前をつけて可愛がったんだと。
そりゃそーだわ、元気になった白鳥は権太のそばから片時も離れねぇで付いて回るんだも、誰だってめんこいと思うさな。
そんな権太だつたけれども、夜になると相変わらず白鳥の寝込みを襲っては肉にして売っていたんだっけ。
そして春が近くなって湖の氷も緩んだ頃、権太と一緒に薪採りに出た「つる」がばさばさと羽ばたいて湖で群れている白鳥の中に混じったんだと。
したらば「つる」が来るのを待っていたかのようにして他の白鳥がくぉ~くぉ~と声をあげ、一斉に飛び立ったんだと。
それは白鳥の北帰行だったんだね。
権太は白鳥のことはよく知っていたから、元気で国に帰れなぁ~と群れとともに飛び立つ「つる」に声をかけたんだと。
さて、また寒い冬が来て、湖には白鳥が渡ってきたんだと。
権太は春から秋は湖で魚を獲って暮らしていたんだけれども、白鳥が来たらまたあの猟を始めたんだと。
そして、冬も本番になった吹雪の寒い夜、権太の小屋を訪ねるものがあって、とんとんと戸を叩き「もーしもーし権太さん」と呼ぶおなごの声がしたんだと。