何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

山も魂も永遠

2015-06-11 18:15:14 | ニュース
<御嶽山 本格的捜索に向け先遣隊派遣へ>6月10日 17時38分NHKより一部引用
戦後最悪の火山災害となった御嶽山の噴火で、長野県の災害対策本部は、来月下旬にも予定している行方不明者の捜索再開を前に、10日、調査隊を派遣して山頂付近の状況を確認しました。
去年9月に起きた御嶽山の噴火では57人が死亡し、今も6人の行方が分からないままとなっています。
長野県の災害対策本部は10日朝、およそ8か月ぶりに、警察や消防、火山の専門家、それに岐阜県側の担当者などおよそ50人からなる調査隊を御嶽山に派遣しました。
調査隊は昼すぎまで頂上付近の状況を調べ、このあと対策本部がふもとの木曽町で記者会見しました。
この中で調査隊のメンバーらは山頂付近には火山灰が深いところで70センチほど積もっていることや、雪どけ水でどろどろになっているところもあることを明らかにしました。
そのうえで、長野県の野池明登危機管理部長は「警察や消防などそれぞれの組織がさまざまなデータや数値を収集し、有効な調査ができた。 これらを整理、分析、評価して本格的な捜索の前に先遣隊を派遣したい」と述べました。
対策本部は先遣隊を派遣したあと、梅雨明け後の来月下旬にも本格的な捜索を再開することにしています。



桜島も近年かなり活発に噴火しているが、一般に噴火が注目を集めたのは昨年9月27日に突如起こった御嶽山の噴火からかもしれない。
標高3000mを超える山だが、途中までロープ―ウェイで行けるため本格的登山者だけでなくハイカーも多いこと、噴火が起こったのが頂上にいる人数が一番多い正午前であったことが災いし、甚大な被害が生じたこともショックだったが、ちょうどNHKだかが取材に訪れていたこともあって、火口間近の映像や逃げ惑う人々の生々しい姿が映し出されため衝撃が大きく、胸が痛んだ。
あれから8か月がたち、残され山で一冬越された方々の捜索が始まろうとしている。

あの当時は、衝撃的な映像ばかりが心に刺さり他の何かに思いめぐらすことは出来なかったが、8か月経ち
残された方々が御家族の元に戻られることを心から願う時、思い出す詩がある。

「氷壁」(井上靖)
岩壁を攀じってる最中にナイロンザイルが切れたという実際に起こった事故をモデルに書かれた小説で、映画にもドラマにもなっているものだが、小説のなかで滑落死した小坂が好きだった詩として紹介された「モシカアル日」(デュプラ)を思い出した。

「モシカアル日」  デュプラ

モシカアル日、
モシカアル日、私ガ山デ死ンダラ、
古イ友達ノオ前ニダ、
コノ書置ヲ残スノハ。
オフクロニ会イニ行ッテクレ。
ソシテ言ッテクレ、オレハシアワセニ死ンダト。オレハオ母サンノソバニイタカラ、チットモ苦シミハシナカッタト。
親父ニ言ッテクレ、オレハ男ダッタト。
~中略~
女房ニ言ッテクレ、オレガイナクテモ生キルヨウニト。オ前ガイナクテモオレガ生キタヨウニト。
息子タチヘノ伝言ハ、オ前タチハ「エンタソン」ノ岩場デ、オレノ爪ノ跡ヲ見ツケルダロウト。
ソシテオレノ友、オ前ニハコウダー
オレノピッケルヲ取リ上ゲテクレ。
ピッケルガ恥辱デ死ヌヨウナコトヲオレハ望マヌ。
ドコカ美シイフェースへ持ッテ行ッテクレ。
ソシテピッケルノタメダケノ小サイケルンヲ作ッテ、ソノ上ニ差シコンデクレ。

厳冬の穂高の「氷壁」に攀じ登る主人公魚津と小坂のような本格的登山家ばかりではなく、週末に御嶽山に登る人々が「モシカアル日」ほどの気持ちだったとは思えないが、それでもこの詩を思い出したのは、避難小屋から生還された方々が「家族へ残す言葉を考えながら救助を待っていた」と話されていたのが強く印象に残っていたのかもしれない。
が、あの日の空は抜けるように青く美しく、「モシカアル日」というよりは、登山者は噴火の瞬間までは「一日の王」を楽しまれていたに違いない。
尾崎喜八氏「山の絵本」の巻末で、一番好きな詩として「一日の王の物語」(ジョルジュ・シェーヌヴィエール)をあげていて、山を歩けば誰もが「一日の王」になると書いている。

花を愛で、鳥のさえずりに耳を澄まし、渓谷のせせらぎを歌と聴きながら山を歩く。

『彼は行く。ゆっくりと。しかし物見高い眼や鼻や耳はすっかり解放しながら。山を歩くことは彼にとって、自然の全体と細部とをできるだけ見、愛し且つ理解することであって、決して急用を帯びた人のように力走することではないからである。それがために一日の行程を、二日かかるとしても構わない。またそのために、都会へ帰って幾日かを穴埋めのために生きるのであっても構わない。
彼は遭遇ランコントルを愛する。天与の遭遇が有ればよし、さもなければ自分の方から求めて行く。この発見の道は必然に迂回する。』

登山者と太陽を遮るものは何もない尾根から山頂へ、山頂からまた尾根へと歩いて、日が傾き里へと下りてくれば、かくなる感慨に包まれる。

『かくて貧しい彼といえども、価無き思い出の無数の宝に富まされながら、また今日も、一日の王たることができたであろう。』


御嶽山の災害はあまりに突然で、残された方々にとってショックは大きく心の傷が癒えないであろうこの時期に、永遠の「一日の王」となられたという言葉を捧げるのは無神経かもしれないが、「岳 みんなの山」(石塚真一)によると、「名山名士を出だす」というそうなので、やはり永遠の「一日の王」となられたと、御霊の安らかならんことを祈っている。


・・・・・こう書いていると、次のようなニュースが入ってきた。
<浅間山、火口2㌔以内を規制=噴火警戒レベル2に引き上げ―気象庁>時事通信 6月11日(木)15時40分配信より一部引用
気象庁は11日、群馬・長野県境の浅間山(2568メートル)について午後3時半に火口周辺警報を発表し、噴火警戒レベルを1(活火山に留意)から2(火口周辺規制)に引き上げた。レベル1でも火口から500メートル以内は立ち入り禁止だが、その範囲が約2キロ以内に拡大される。
浅間山では4月下旬から山頂直下のごく浅い所を震源とする火山性地震が増加。さらに火山ガスの二酸化硫黄の放出量が6月8日の1日当たり500トンから同11日は1700トンに急増した。


「平成」とは「地平らかに、天成る」からきているのではなかったのか。
天も地も平らかに成ることを、心から祈っている。