何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

岐路に立つ、国 ②

2017-12-21 22:00:00 | 
「ディストピアに向かう国①」より

今月のワンコのお告げ本は何かな、と書架を回っている時、目に飛び込んできたのが、
「海に向かう足あと」(朽木祥)だったんだよ ワンコ
背表紙にある作者の名前は(申し訳ないけれど)知らなかったので、
躊躇いながら本を手に取ったのだけど、表紙を見て俄然興味が湧いてきたんだよ ワンコ
装画 牧野千穂  装丁 須田杏菜

本書を読む前はね、この表紙を、ただ美しいと思ったのだけど、
二度目に読んだ時には、そこに物憂げなものを感じ、
も一度読んだ時には、美しいと信じたいと思ったんだよ ワンコ
だから、この装画と装丁は素晴らしいね ワンコ

さてさて、「ディストピアに向かう国」で、本書のことに少し触れたけれど、
’’ディストピア’’というのは、本書の帯にある言葉なんだよ ワンコ

「海に向かう足あと」の帯より
『村雲佑らヨットクルーは、念願の新艇を手に入れ外洋レースへの参加を決める。レース開催の懸念は、きな臭い国際情勢だけだった。クルーの諸橋は物理学が専門で、政府のあるプロジェクトに加わり多忙を極めていた。村雲達はスタート地点の島で諸橋や家族の合流を待つが、ついに現れず連絡も取れなくなる。SNSに“ある情報”が流れた後、すべての通信が沈黙して...。いったい、世界で何が起きているのか?
被爆二世の著者が「今の世界」に問う、
心に迫る切ないディストピア小説』

一読した時、リズムがつかみにくい本だと感じたのは、
読み始めるなり、
ラブラドールは三歳児程度の知能があり30語は理解できる、と書いてあった所為もあるんだよ
ワンコだって、この評価は頭に来るだろう ワンコ
でも、問題はそこではなく、
この帯だけで、本書が向かう先がほぼ読めてしまうのに、なかなか本題に入らず、
まどろんだようなテンポで、ヨットクルー6人の中年の恋愛話や仕事の愚痴や仕事のない愚痴が続いて・・・
いや、ワンコ
最近寛大な私は、別に中年の恋愛を云々しているわけではないんだよ、
まして仕事の愚痴も仕事がない愚痴も大いにアリだとは思うのだけど、
美しい海と美味しい料理の描写をベースに恋愛話と愚痴がつづく、まったりとしたテンポが、
なんとなく読みづらかったんだよ ワンコ

でもさ、その間にも、ちょろちょろと、
テロや協調性のない国が台頭する怖さや、破壊措置命令と相互確証破壊の現実や、
急性放射線が人間の身体を内側から破壊する「朽ちていった命」という記録についてや、
ドイツ元大統領の「過去に目を閉ざす者は、現在にも盲目になる」という言葉などか書かれていて、
でもって、
こんな社会に我が子を送り出すなんてトンデモないので、子供を持たない選択をする夫婦の話もあるんだよ

云うまでもなく、それらは全て伏線で、
最後に起る、取り返しのつかない事態の際の、怒りの言葉に繋がるんだよ

『だけど、俺達にとっては、いきなりなんかじゃない。
 俺もお前も、お前らも、ぼんやりとでも分かってたんだろう。
 こんな日が来るかもしれないって』(『 』「海に向かう足あと」より引用)

取り返しがつかない事態になって初めて人は、嘆くんだよ
『我々がやってきたことの報いだな・・・歴史にも学ばず、警告にも耳を貸さず、
 現実に起きていることに目を閉ざしてきた、その結末という事か』
『 - 結局、我々は「より良いこと」を選択せずに、ここまで来てしまったのだ』

こんな人間がいない世界こそが、理想郷なのかな ワンコ
それとも、気づかないだけで理想郷は目の前にあるのかな ワンコ
それとも、困難に立ち向かう心こそ理想郷だと云うのかな ワンコ
本書には、ユートピアと題する恐ろしい詩が記されているんだよ ワンコ

「ユートピア」(W・シンボルスカ)より
こんなに魅力があるのに、島には誰も住んでいない
砂浜に散りばるかすかな足あとは
ひとつ残らず海に向かっている
まるで、ここから立ち去って
二度と帰らぬために
深みの中に沈むかのよう
底知れぬ生の深みのなかに沈むかのよう


本書の帯の’’ディストピア’’は、つまり この詩と対になっているんだよ
これで思い出したのが、
子供の頃に愛読した「わが青春のアルカディア」(松本零士原作 尾中洋一・小説化)の一節だよ

『人が人として最も美しいのは、
 他人の痛みを、自分の痛みとして、感じている時
 人が人として最も醜いのは、
 他人を踏みつけにして、自分を立てようとする時』


ここに、ユートピア(アルカディア)とディストピアが端的に示されているね ワンコ
そして、昨日(20日)のニュースは、ディストピアの極みだね ワンコ
本書にもう一つ記されている、同じくW・シンボルスカの恐ろしい詩については、
又つづくとするけれど、
ねぇワンコ 取り返しのつかない事態は、本当にどうしようもなく取り返しがつかないのかな
もう少し考えてみるよ ワンコ
それが、ワンコからのお告げの宿題だもんね ワンコ


ディストピアに向かう国①

2017-12-21 01:44:42 | ひとりごと
ワンコ ワンコの日のためにワンコはお告げの本を教えてくれていたのに、
それを読んでもいたのに、
またワンコの日ワンコの時間に報告できなかったよ
ごめんね ワンコ

言い訳を書くとね ワンコ
お告げのお礼と報告書、少し書きかけてはいたんだよ
でも、考えがまとまらないまま、時間が過ぎてしまったんだよ 
「これが今月のお勧めだ」とワンコのお告げを感じた時は、
読んだことのない作家さんではあるけれど、その表紙に心惹かれ、
大いに期待して読んだんだよ ワンコ

「海に向かう足あと」(朽木祥)

本書「海に向かう足あと」は、
朽木作品初心者の私にはリズムがつかみにくいもので、
ワンコお勧めの本でなければリタイアしかねないものだったのだけど、
再読すると、
リズムがつかみにくい文体に、作者の意図があるのではないかと思うようになり、
どう報告しようか、書きあぐねていたんだよ ワンコ
でさ、いつものように時間マジックのお世話になろうと姑息なことを考えていたのだけれど、
今日(20日)、ショックなニュースがあり打ちのめされ・・・・・
そこで気が付いたんだよ ワンコ
ワンコが、今月この本をお告げしてくれた本当の意味に

だから時間マジックは使わず、ショックを受けている今この瞬間の気持ちを綴るよ ワンコ

今はさ、本書の内容を書く元気はないけれど、
今日という日に、痛いほど心に突き刺さった本書の言葉を記しておくよ ワンコ
それは、
もはや取り返しがつかない事態となり、皆が慌てふためいている時、ある登場人物が言い放つ言葉なんだよ
『だけど、俺達にとっては、いきなりなんかじゃない。
 俺もお前も、お前らも、ぼんやりとでも分かってたんだろう。
 こんな日が来るかもしれないって』(『 』「海に向かう足あと」より引用)

ワンコ 今日は、もうこれ以上何かを書く元気がないよ ワンコ
ただ、ワンコがこのタイミングで本書を勧めてくれた意図は、よく分かったよ ワンコ

ほんとにね、去年のあの夏の日から、こうなることは予測がついたのに、
こんな日が来るかもしれないって、どこかで分かっていたのに、
事実を直視せず、見て見ぬふりをしてきて、このザマだよ ワンコ

もうさ、いいかげん疲れたね ワンコ
もうさ、いいかげん願えど慕えど想えど、どうしようもならない世界からは身をひき、
せめて、この手痛い経験を、自分自身の糧にするしかないのかな ワンコ
そのために、本書をお告げしてくれたのかな? ワンコ
何もかも手遅れにならないようにと・・・・・
ワンコ つらいね ワンコ

そうそう 本書の心惹かれる表紙を掲載できるように準備もしていたのだけれど、
今日の この嫌なニュースと一緒に載せるのは躊躇うような、物憂げでありながら美しい絵だから、
次回に、本書の内容と併せて掲載させてもらうね ワンコ