アポロ神は本当のことを言うと信じられていたのに、クスートゥスに対してはうそを言います。
この劇の最初の大切なパレーシアステスの場面の次に来るものは、3つの部分に分かれます。
第一の部分は、イオンとクスートゥスの間の誤解に関するところです。クスートゥスは、神殿を離れると、イオンに会いますが、アポロ神の答えだと、自分の息子と信じられる人こそ、イオンだということになります。満面の笑みを浮かべて、クスートゥスはイオンに近づくと、イオンにキスしたいと思います。イオンは、クスートゥスが誰かも知りませんから、ましてや、なぜクスートゥスが自分にキスを求めてくるのか分かりませんから、クスートゥスの行動を誤解し、クスートゥスは自分とセックスしたいんだと思います(若いギリシャ人として、もし男が自分にキスしたいと思う場合は、セックスしようとすると見なしたでしょう)。このイオンの性的解釈が、クスートゥスの行動のせいだとみなす、大抵の解説者は、この場面を「喜劇」だと言います。これはエウリピデスの悲劇では、割とあることです。とにかく、イオンはクスートゥスに「もしも、あなたが私に嫌がらせを続けるならば、あなたの胸を弓で射抜きますよ」と言います。これは、オイディプス、テーベの王、すなわち、ラーイオスが父親とは知らずにいる点で、『オイディプス王』に似ています。そして、オイディプスも、ラーイオスに出会ったことの意味を取り違えます。諍いによって確実になるのですが、ラーイオスはオイディプスに殺されます。しかし、イオンの場合は、その反対です。クスートゥスはアテネ王で、イオンが自分の息子ではないことを知りません。イオンもクスートゥスがまさかクスートゥスが自分の父親と思っている、などとは夢にも思いません。だからこそ、アポロ神のウソのせいで、私どもは欺瞞に満ちた世界に突き落とされます。
アポロ神のウソのせいで、この劇を見るものは、この場面の最初に、欺瞞の世界に突き落とされ、欺瞞の世界を追体験することとなります。
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