エリクソンの小部屋

エリクソンの著作の私訳を載せたいと思います。また、心理学やカウンセリングをベースに、社会や世相なども話題にします。

「本当のこと」を言う勇気

2015-09-27 03:51:56 | エリクソンの発達臨床心理

 

 
子どもの頃のセンス・オブ・ワンダーほど大事なものはございません 
  愛着障害について、「威圧的な指導は禁忌」とされていることが、アメリカ精神医学会で、愛着障害の子どもを臨床している人たちの間で共有されていると言います。...
 

 

 一昨日のブログ(「信者にならない方が良い」という司祭)に、「本田哲郎さんが教えて下さるように、ヘビのように感性鋭く、ハトのように単刀直入にハッキリ言葉にしながら、生きたいものですね。」と記しました。ご存知かと思いますが、新約聖書の「マタイによる福音書」第10章16節「蛇のように賢く、鳩のように素直になりなさい」のところを、私なりに 翻訳し直したものです。

 この聖句を手掛かりに、いつも心理臨床の中で考えていることを、皆さんにお伝えできればありがたいと思いました。今日はその後半戦です。

 この聖句の後ろ半分は、「鳩のように素直になりなさい」と「素直」と出てきますが、本田哲郎さんの教えによれば、この「素直」と訳されているギリシア語 ακεραιοι アケライオイは、否定の接頭辞 α と「混じる」を意味する κεραιοι を合わせた言葉なので、「混じり気がない」ということで、本田哲郎さんによれば、「相手に合わせてしまう素直ということではなく、正しいと思ったことをそのまま口に出す、飾り気のない率直ということでしょう。」と言います。これはまさに、「パレーシア」παρρησιαでしょ。

 子どもは「大人の常識」に囚われませんから、ハッキリした物言いになる場合がよくありますでしょ。ある低学年の女の子は、同級生のいたずらな男の子が、だいぶ落ち着いてきた時に、私が「◎◎君と、(その女の子の)お父さんは、どっちがよくなったかなぁ」と訊けば、「◎◎君の方」とハッキリ。そのお父さんは、だいぶ子どもっぽい人で、自分の失敗を子どものせいにするような人だったのですが、パパの成長もまだまだだったみたいですね。

 また、有名なところでは、「裸の王様」の最後に出てくる子どもでしょ。王様の姿を見て「裸だぁ」と包み隠さずに言い放ったのは、子ども特有の「飾り気のない率直さ」の賜物ですね。

 「ヘビのように感性鋭く、ハトのように単刀直入にハッキリ言葉にしながら、生きなさい」。これは、イエスがこの世に遣わせた弟子たちに贈った言葉ですよね。今様に言い換えると、「感性鋭くとらえた事実を、率直に言葉にして、生きなさい」ということですね。この言葉は、真実に生きたいと願うすべての人に当てはまります。特に仕事柄、真実が大事な仕事をする人には、いっそう大事になりますよね。ジャーナリストも然り、伝道者然り、私どもクリニカルサイコロジスト、心理臨床家然り、学者然り、保育者然り、教員然り、児童施設職員然り…。特に私どもの仕事に引き付けて申し上げると、子どもが言葉にできずにいる真実を、心理臨床家である私どもが、ハッキリと言葉にすることです。これは、その真実が極めて苛酷なことであっても、言葉にできずにいた真実をハッキリ言葉にすることは、その真実を受け止め、やがて乗り越えていくためには、必要不可欠のことだからです。その点を強調しておきたいと思います。いわば、「生死を分けること」なんですね。大げさに感じる人も少なくないと思いますが、私自身の体験に照らしてみても、とても大事でしたし、心理臨床の場面で出くわした人に照らしても、そのくらい大事なことなんですよ。

 さきごろ神戸でありました心理臨床学会で、少し話ができました、西村洲衞男さんも「本当のことを言うと治る」と単純に話してくれました。でも、「本当のこと」が重たいと感じる場合、言いそびれるのが人間の常ではありませんか? それを言う勇気は、日々の内省と信頼を育むプロセスの中にある訳ですね。

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「自分で決める」とガマンの間 | トップ | 自由だからこそ、新しいもを... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿