ヴァン・デ・コーク教授の The body keeps the score : brain, mind, body in the healing of trauma 『大切にされなかったら、意識できなくても、身体はその傷を覚えてますよ : 脳と心と身体がトラウマを治療する時どうなるか?』
第2章。「心と身体を理解する,革命」,p.37の,第3パラグラフ,4行目から。その前もご一緒に。
薬理学の勝利
薬理学が精神医学に革命をもたらすのに,そんなに時間がかかりませんでしたね。様々な薬のおかげで,医者たちは「自分も結構やれるもんだなぁ」と自信をもたらしましたし,お話しセラピーに勝る道具を手にしました。様々な薬のおかげて,医者たちは,収入を得てがっぽり儲けました。製薬産業から補助金がガッポがっぽと来るので,私ども医学教育をする者には,エネルギッシュな大学院生と高価な研究器具とで溢れ返りました。精神医学教室は,病院の地下室にあることが相場でしたが,精神医学教室の地位とフロアーが,共に上がりだしました。
この変化の象徴の1つは,マサチューセッツ州立精神衛生病院でもありました。そこでは,1990年代はじめに,病院のプールに蓋をして,研究所にするスペースを作りました。また,室内のバスケットボールのコートが,真新しいクリニックのいくつもの診察室に早変わりしました。何十年もの間,医者と患者は,プールに水しぶきを上げて,民主的に一緒に遊んできましたし,バスケートボールのコートでは,ボールをパスしてきました。体育館で何時間も患者さんと一緒に汗を流したのは,病院研修生だったころのことです。体育館は,私ども医者も患者も,身体の良い状態を実感する実感を回復する場でしたし,体育館は,私ども医者と患者が直面させられていた深い悲しみの中にある,救いの小島でしたね。いまや,その場所は,患者が「良くなる」場になってしまいました。
薬が革命的に変化が,たくさんの約束を伴って始まったことから,その革命的変化の終焉も,良かったことと同じくらいの弊害を伴っていたのかもしれませんよ。病気は脳内の化学物質のバランスがおかしいから生じるんだから,特定の薬によって,バランスを取り戻せば,治るはずだという理論が,広く受け容れられましたが,それは病院関係者ばかりではなくて,マスコミや一般の人もそうでした。多くの病院で,薬がセラピーに取って代わりましたし,背景をなす発達トラウマの課題には目もくれずに,症状だけを取りました。抗不安剤のおかげで,日々の暮らしをしていくのに役立つ,という点で,世界が変わりました。睡眠薬を飲むのか,それとも,ちょっとの間眠るために,グデングデンに酔い潰れるまで毎晩お酒を飲むのかを選ぶなら,選択の余地はないでしょ。ヨガ教室,トレーニングをする習慣,単に耐え抜くことを通して,自分の力でうまくやろうとすることに疲れている人にとって,薬を飲むと,ホッとできて救われた思いをする場合が多いんです。様々なSSRIは,トラウマを負わされた人が自分のいろんな感情に捕らわれていることから解放してくれるのに役立ちます。ところが,様々なSSRIは,あらゆる治療において,補助的なものと考えるべきです。
PTSDの患者さんたちに薬を試すたくさんの研究をした後で,分かったことは,精神病薬は深刻な副作用がある,ということでしたね。病の背景をなす様々な課題を無視しがちだからです。脳の病のモデルは,人々の運命を,当事者から奪い去り,問題解決を,医者や保険会社の手にゆだねてしまうことになります。
この30年以上,精神病薬は,私どもの精神医学の会の主流になりましたが,様々な怪しい結果が出ています。抗不安剤のケースを考えてみましょう。抗不安剤は,私どもが信じたような効果が実際に出せたならば,うつ病はもう,アメリカの社会では,小さな課題になっていたはずでしょう。でもそうはならずに,いくら抗不安剤の服薬量が増えても,うつ病で入院する人の数は減りません。うつ病を治療している人の数は,ここ20年で3倍になりましたし,アメリカ人の10人に1人は,いま,抗不安剤を服用していますから。
新世代の抗精神病薬,アビリファイ,リスペダール,ジプレクサ,セロケールは,アメリカで一番売れている薬です。2012年には,1,526,228,000ドル(およそ,1,500億円)の公費が,アビリファイに注ぎ込まれました。その金額は,他の薬よりも多額でした。ナンバー3は,サインバルタで,何百万ドルも売れた抗うつ剤でしたが,プロザックみたいな,以前からある抗うつ剤の勝っているものではありませんでした。というのも,プロザックは,もっと安いジェネリック医薬品が手に入るようになっていますから。メディケイドという連邦政府による貧困世帯向けの保険制度は,他の社会階層の薬消費よりも,抗精神病薬にたくさんの公費を支出しています。2008年,キチンとしたデータが揃うもっとも最近の年には,1999年,165億円であった支出が,360億円に増えています。
このように,製薬会社と医者の儲けは,貧しい人と国家の財布の中身を,圧迫しています。
薬は莫大な利益を製薬会社と医者にもたらします。
薬は患者にとっては,害が大きいです。
ですから,薬は製薬会社と医者のために存在するといえます。
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