猟師になっちゃる
害獣被害
私がワナ猟をはじめたのが2002年ですので7年あまりになります。 獣による農作物への被害があまりにひどくて、反撃に出たわけです。これは正解でした。まず、被害が減りました。近隣の農家からもたいへん喜ばれました。もう一つよかったと思うのが、精神的に楽になったことです。猟を始める前は一方的にやられっぱなしでした。毎日、不安と怒りで胃潰瘍にでもなるのではないかと心配するような、悶々とする日々でしたが、反撃できるようになってからは精神衛生上とてもよい状態になったと思います。頭が禿げるスピードも落ちたように思うのです。
画像:ぐるぐるとトタンで囲った里山の田圃
毎年々、お米を栽培する田圃を襲撃されました。稲がみのってくると、気が気ではありません。必ずイノシシに襲撃されるのです。周りに杭を打ちトタンを打ち付けます。それだけでは高さが足りないためさらに防御ネットをはり巡らします。
こうして書いてくるとみなさん、おそらくすらすらと読まれることでしょう。イノシシ等に襲われる田圃というのは主に山間部の田圃です。街の真ん中で農作物にイノシシ被害がでたというのは聞きません。
山の田圃はほとんどが小さい面積の段々になった棚田と呼ばれる田圃です。山の斜面を切り開き、石垣を積みあげて作り上げたものです。ですから、段々になった上の方は面積が小さく、下がるに従い広くなります。広いと言ってもせいぜい5~6アール、てっぺんでは一跨ぎできるような田圃もあります。
こうした田圃ですから大型の機械は入りません。せいぜい耕耘機や歩行しながら操作する田植機、稲刈り機です。田圃の畦や石垣、山側の斜面には雑草が生えます。一ヶ月に最低2回は雑草を刈り取る必要があります。草刈り機をぶんぶんと回して汗にまみれて草刈りです。田圃の面積が広いのか草刈りする面積の方が広いのか判らない、これが私の住む里山の田圃の風景です。
早春、谷から水を引き込み田起こしからはじまります。肥料を撒き、耕耘機で隙間無く土を耕して肥料をまんべんなく混ぜ込みます。縦、横と最低二回は田圃の全面を耕します。雑草、落ち葉等もいっしょに混ぜ込みます。数週間そうした混ぜ込んだものを土になじませたあと田植えの2~3日前に代掻きをします。田起こしのときよりももっと念入りに耕耘します。そして土が落ち着いたら田植えです。
植え付けた苗が活着したころ除草剤を散布します。稲刈りまで何度も周りの雑草を刈り取りながら、害虫が発生すれば重たい撒粉機を背負って農薬の散布です。こうした農作業を行い、台風等の自然災害がないことを祈りつつ、やっとお米の収穫ということになります。
平野部の農作業と比較すると山間部の農業というのは数倍の手間と労力がかかります。しかし、コストが随分かかっているので作物を高く販売できるかというとそれはできません。お米はどこでつくってもお米なのです。
サラリーマンですと1ヶ月に一度、労働力の対価として給料をもらって生活をしているのですが、農民はほとんど1年がかりで作物を育て収穫して、その収穫物を販売あるいは自家消費して生計をたてます。
猪はこの大切な収穫物を一夜にして台無しにしてしまうのです。
画像:ほぼ全滅の稲田。稲はイノシシがヌタをするため全て倒伏状態。稲穂はシゴイて食べるためモミがなくなっています。
画像:この田にあったイノシシの足跡(60キロ以上とみました)
猪の被害が出始めた初期の頃の対策は簡単でした。猪も「ウブ」で田んぼの周りに散髪屋さんで貰ってきた髪の毛をまくことで、ヒトの匂いを嫌う猪の侵入を防ぐことができたのです。だんだん猪の個体数が増え、ヒトとの付き合いに馴れてくるとどんな対策をたてて防御しても防ぎきれなくなってきました。学習能力の高い彼らは、数日すれば新たな防御策にも馴れ、弱点を見つけて侵入するのでした。
私の集落では、1990年代から2003年頃が被害のピークでした。この頃、集落のほとんどの農家が米作りを放棄してしまいます。まるで毎年々、猪のために苦労しながら餌作りをするような有様になっていたのです。農家が米を買って生活することになりました。
耕作放棄地とよばれる田畠が拡大していきます。
夜、妻と花火を鳴らして田んぼの周りを歩きました。田圃の周りは2重の柵をはりめぐらしてあります。家にあるトラクター、軽四、ラジオなど総動員していつも猪の侵入する場所に置き、一晩中エンジンをかけ、ライトをつけ、ウインカーを光らせ、ラジオのボリームを最大にして防ごうとしました。それでもダメでした。
その頃、猪の箱ワナが流行していました。箱ワナというのは鉄筋やアングルを溶接してオリをつくり、餌を入れ、猪が入ると扉がしまり閉じ込める仕掛けです。電気溶接機を買い、材料を購入し、見様見まねでその仕掛けをつくり、道路のすぐ下の自分の土地に仕掛けたのです。そこは数年作物をつくっていない畑で草が生い茂っていました。そこを通って猪は田圃を襲撃していました。猪は同じ所を通るのでそこには彼らの道ができています。
イノシシは人間よりもエライ?
箱ワナをしかけてから数日すると、近所の方が「猟友会が違法ワナじゃき、警察へうったえてあんたを括るいいゆうきに早うのけちょき」というのです。私は頭に血が上りました。
「毎日々、イノシシに稲を襲撃されてその犯人を捕まえるのが悪いがか」というのが私の言い分でした。あんまりではないですか!
人間社会には「正当防衛」という決まりがあります。
************************************************************
「正当防衛」不正、不法な侵害がある時であること
他人から暴行を加えられ、殺されようとしている時や、何かを盗まれようとしている時に自己防衛のためにする行為が違法であっても罪になりません。
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イノシシと人間の間では、この「正当防衛」という道理が通用しないのです。これでは、人間よりもイノシシのほうがエライではないですか。この時わたしは「括って牢屋にでも入れてもらおうではないか。裁判でこの不当な法を広く世間に問いかける」と息巻いたのですが、知人の猟師から「おれも百姓じゃきにおんしゃの気持ちはよう判る。けんど法律じゃきにしかたがない。どこか見えん所へ移いちょけ」と、言いながら「これをオリへ付けちょけ」と標識を貸してくれました。狩猟の標識というのは、有資格者が、網やワナで猟をする場合、住所、氏名等を記載したもので、標識を付けることが義務づけられているのです。ちょうどその時、害獣駆除が行われていたのでした。こうした知人の行為も違法なのかもしれませんが、誰がこれを咎めることができるでしょう。違法だとしても、もう時効だと思いますし、もし、私が捕まってたとえ拷問をうけても、しゃべることはありません。
当時は、箱ワナであっても狩猟免許を持っていないと、たとえ毎日被害にあっていても、また、自分の土地に仕掛けていたとしても違法なのでした。被害がひどくて多くの声が上がったからでしょう、現在は、狩猟期間中、もしくは害獣駆除の許可が下りている期間であれば自分の作物をまもるためにしかける囲いワナ(天井のないもの)は認められています。
この時私は、一人で猟ができるワナの狩猟免許をとって、猟師になる決意をしました。
「イノシシめ、みよっちょれ、この集落の周辺のヤツラは皆殺しにしちゃる」。
こうして私はワナ猟師になりました。
被害を受けている農民の皆さん、是非、黙ってないでワナ猟の免許をとりましょう。黙ってやられていては、たまったものではありません。先に書いたように反撃すると被害が減るばかりではなく、精神衛生上たいへん有益です。おまけに美味しい肉を手に入れることができます。
しかし、イノシシの暴れ方は恐ろしいものです。かれらの反撃に高をくくっているとひどい目にあいます。先輩猟師に教えてもらって安全に気をつけて憎き害獣どもをギャフンといわせましょう。
害獣被害
私がワナ猟をはじめたのが2002年ですので7年あまりになります。 獣による農作物への被害があまりにひどくて、反撃に出たわけです。これは正解でした。まず、被害が減りました。近隣の農家からもたいへん喜ばれました。もう一つよかったと思うのが、精神的に楽になったことです。猟を始める前は一方的にやられっぱなしでした。毎日、不安と怒りで胃潰瘍にでもなるのではないかと心配するような、悶々とする日々でしたが、反撃できるようになってからは精神衛生上とてもよい状態になったと思います。頭が禿げるスピードも落ちたように思うのです。
画像:ぐるぐるとトタンで囲った里山の田圃
毎年々、お米を栽培する田圃を襲撃されました。稲がみのってくると、気が気ではありません。必ずイノシシに襲撃されるのです。周りに杭を打ちトタンを打ち付けます。それだけでは高さが足りないためさらに防御ネットをはり巡らします。
こうして書いてくるとみなさん、おそらくすらすらと読まれることでしょう。イノシシ等に襲われる田圃というのは主に山間部の田圃です。街の真ん中で農作物にイノシシ被害がでたというのは聞きません。
山の田圃はほとんどが小さい面積の段々になった棚田と呼ばれる田圃です。山の斜面を切り開き、石垣を積みあげて作り上げたものです。ですから、段々になった上の方は面積が小さく、下がるに従い広くなります。広いと言ってもせいぜい5~6アール、てっぺんでは一跨ぎできるような田圃もあります。
こうした田圃ですから大型の機械は入りません。せいぜい耕耘機や歩行しながら操作する田植機、稲刈り機です。田圃の畦や石垣、山側の斜面には雑草が生えます。一ヶ月に最低2回は雑草を刈り取る必要があります。草刈り機をぶんぶんと回して汗にまみれて草刈りです。田圃の面積が広いのか草刈りする面積の方が広いのか判らない、これが私の住む里山の田圃の風景です。
早春、谷から水を引き込み田起こしからはじまります。肥料を撒き、耕耘機で隙間無く土を耕して肥料をまんべんなく混ぜ込みます。縦、横と最低二回は田圃の全面を耕します。雑草、落ち葉等もいっしょに混ぜ込みます。数週間そうした混ぜ込んだものを土になじませたあと田植えの2~3日前に代掻きをします。田起こしのときよりももっと念入りに耕耘します。そして土が落ち着いたら田植えです。
植え付けた苗が活着したころ除草剤を散布します。稲刈りまで何度も周りの雑草を刈り取りながら、害虫が発生すれば重たい撒粉機を背負って農薬の散布です。こうした農作業を行い、台風等の自然災害がないことを祈りつつ、やっとお米の収穫ということになります。
平野部の農作業と比較すると山間部の農業というのは数倍の手間と労力がかかります。しかし、コストが随分かかっているので作物を高く販売できるかというとそれはできません。お米はどこでつくってもお米なのです。
サラリーマンですと1ヶ月に一度、労働力の対価として給料をもらって生活をしているのですが、農民はほとんど1年がかりで作物を育て収穫して、その収穫物を販売あるいは自家消費して生計をたてます。
猪はこの大切な収穫物を一夜にして台無しにしてしまうのです。
画像:ほぼ全滅の稲田。稲はイノシシがヌタをするため全て倒伏状態。稲穂はシゴイて食べるためモミがなくなっています。
画像:この田にあったイノシシの足跡(60キロ以上とみました)
猪の被害が出始めた初期の頃の対策は簡単でした。猪も「ウブ」で田んぼの周りに散髪屋さんで貰ってきた髪の毛をまくことで、ヒトの匂いを嫌う猪の侵入を防ぐことができたのです。だんだん猪の個体数が増え、ヒトとの付き合いに馴れてくるとどんな対策をたてて防御しても防ぎきれなくなってきました。学習能力の高い彼らは、数日すれば新たな防御策にも馴れ、弱点を見つけて侵入するのでした。
私の集落では、1990年代から2003年頃が被害のピークでした。この頃、集落のほとんどの農家が米作りを放棄してしまいます。まるで毎年々、猪のために苦労しながら餌作りをするような有様になっていたのです。農家が米を買って生活することになりました。
耕作放棄地とよばれる田畠が拡大していきます。
夜、妻と花火を鳴らして田んぼの周りを歩きました。田圃の周りは2重の柵をはりめぐらしてあります。家にあるトラクター、軽四、ラジオなど総動員していつも猪の侵入する場所に置き、一晩中エンジンをかけ、ライトをつけ、ウインカーを光らせ、ラジオのボリームを最大にして防ごうとしました。それでもダメでした。
その頃、猪の箱ワナが流行していました。箱ワナというのは鉄筋やアングルを溶接してオリをつくり、餌を入れ、猪が入ると扉がしまり閉じ込める仕掛けです。電気溶接機を買い、材料を購入し、見様見まねでその仕掛けをつくり、道路のすぐ下の自分の土地に仕掛けたのです。そこは数年作物をつくっていない畑で草が生い茂っていました。そこを通って猪は田圃を襲撃していました。猪は同じ所を通るのでそこには彼らの道ができています。
イノシシは人間よりもエライ?
箱ワナをしかけてから数日すると、近所の方が「猟友会が違法ワナじゃき、警察へうったえてあんたを括るいいゆうきに早うのけちょき」というのです。私は頭に血が上りました。
「毎日々、イノシシに稲を襲撃されてその犯人を捕まえるのが悪いがか」というのが私の言い分でした。あんまりではないですか!
人間社会には「正当防衛」という決まりがあります。
************************************************************
「正当防衛」不正、不法な侵害がある時であること
他人から暴行を加えられ、殺されようとしている時や、何かを盗まれようとしている時に自己防衛のためにする行為が違法であっても罪になりません。
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イノシシと人間の間では、この「正当防衛」という道理が通用しないのです。これでは、人間よりもイノシシのほうがエライではないですか。この時わたしは「括って牢屋にでも入れてもらおうではないか。裁判でこの不当な法を広く世間に問いかける」と息巻いたのですが、知人の猟師から「おれも百姓じゃきにおんしゃの気持ちはよう判る。けんど法律じゃきにしかたがない。どこか見えん所へ移いちょけ」と、言いながら「これをオリへ付けちょけ」と標識を貸してくれました。狩猟の標識というのは、有資格者が、網やワナで猟をする場合、住所、氏名等を記載したもので、標識を付けることが義務づけられているのです。ちょうどその時、害獣駆除が行われていたのでした。こうした知人の行為も違法なのかもしれませんが、誰がこれを咎めることができるでしょう。違法だとしても、もう時効だと思いますし、もし、私が捕まってたとえ拷問をうけても、しゃべることはありません。
当時は、箱ワナであっても狩猟免許を持っていないと、たとえ毎日被害にあっていても、また、自分の土地に仕掛けていたとしても違法なのでした。被害がひどくて多くの声が上がったからでしょう、現在は、狩猟期間中、もしくは害獣駆除の許可が下りている期間であれば自分の作物をまもるためにしかける囲いワナ(天井のないもの)は認められています。
この時私は、一人で猟ができるワナの狩猟免許をとって、猟師になる決意をしました。
「イノシシめ、みよっちょれ、この集落の周辺のヤツラは皆殺しにしちゃる」。
こうして私はワナ猟師になりました。
被害を受けている農民の皆さん、是非、黙ってないでワナ猟の免許をとりましょう。黙ってやられていては、たまったものではありません。先に書いたように反撃すると被害が減るばかりではなく、精神衛生上たいへん有益です。おまけに美味しい肉を手に入れることができます。
しかし、イノシシの暴れ方は恐ろしいものです。かれらの反撃に高をくくっているとひどい目にあいます。先輩猟師に教えてもらって安全に気をつけて憎き害獣どもをギャフンといわせましょう。