画像:2009年2月28日、仕留めたイノシシの解体を始めましたところです。毛抜き処理がほぼ終わった所で仕上げに入っています。相棒の左のイノシシの腹のキズはナイフで心臓を一突きし仕留めた傷痕です。右足の赤い擦り傷はこの足首をワナのワイヤーで括っていたため暴れたときに木に激突したり擦り傷ができたりした傷痕です。
山から降ろしてきたイノシシはまず、体毛の処理を行います。その方法は毛剃りをするか、皮を剥ぐか、毛を抜くか、毛を焼き取るかいづれかになります。
高知県では皮も食べるというのが主流ですので皮を剥ぐという方法はあまりやらないようです。皮は歯ごたえがコリコリ、モチモチとした食感でとても美味しいものです。
当地では毛剃りが一般的です。方法ですが最初に水で身体や毛についた泥をよく落とします。イノシシはワナにかかると興奮し鼻で土を掘り返しよく大穴を掘っています。近づく人の気配を感じるとこの深く掘った穴の中に隠れていることが多くあります。また、ヌタ場でヌタを打ち泥を身体中にぬたくりまくっています。こうしたことから、体中に泥がこびりついているのが普通です。この泥をよく落とさないで毛剃りをするとナイフの刃もちが悪くなります。私がナイフにこだわったのはこうしたことから刃持ちの良いナイフが欲しかったからです。
狩猟を始めて数年はこの毛剃りだけでやっていたのですが、ある日、本山町の猟師たちが仕留めたイノシシの処理をする現場に立ち会うことがありました。すでに毛の処理がされいて解体現場だったのですが、その時の一番の驚きがイノシシの身体が、皮膚が真っ白だったことです。これほど肌の白いイノシシを見たことがありませんでした。
毛剃りだとどれほど念入りにしても毛の色がうっすらとみえます。ヒゲの濃い男性の顔を思い浮かべて下さい。また皮膚の色自体が違います。
「どうやったらこんなにきれいになるぜよ?」と質問すると「湯をかけて毛を抜かあよ」という答えでした。よく聞くと70度ほどの湯をかけながら抜くと簡単に毛抜きができると言います。あまり熱い湯をかけすぎたり、必要以上に長い時間かけすぎると今度は逆に毛が抜けなくなるそうです。70度ほどの熱湯が長時間使える湯沸かし器が一番いいということでした。
私が毛抜き処理を始めたのはそれからです。熱湯をかけると毛だけではなく一皮むけるのです。適度に熱湯を使うと掴める範囲の毛が一度に簡単に抜けます。その時一緒に上皮がぺろりと毛について剥けてしまうのです。上皮と書きましたが、垢や汚れの膜のような気もします。毛剃りですとこれが残ります。そのため皮膚の色が違って見えるのです。イノシシの肉を煮始めるとアクがすごく出るのですが、血とともにこの「まく」がアクとなってでるのです。ですので美味しく料理をするためには最初に徹底したあく取りが肝心です。
私は風呂や台所などに使う灯油が燃料の給湯器の湯を利用しています。本山町でいっしょに見学し、湯を使った毛抜きを初めてやった友人は電気の深夜料金で湯を沸かす湯沸かし器の湯を使ってやったそうですが、その晩は家族から大変怒られたそうです。湯を全部使ってしまったため風呂に入れる湯がなくなっていたそうです。
毛抜き処理を始めて以来、毛剃りはすっかり止めました。これほど出来の違いを見るともう他の方法でやる気がおこりません。とにかく真っ白できれいに仕上がるのです。