明鏡   

鏡のごとく

『爆弾低気圧』

2015-10-01 21:05:08 | 詩小説
今日の夕方、爆弾低気圧がくるという。

急激な発達を遂げて、等圧線がぐるぐる巻きになるという。


ここ何年かで、ゲリラ豪雨やら、爆弾低気圧やら天気はえぐいほどの凶暴さが増幅され、駆り立てられている。

狐の嫁入りやらお天気雨やらの牧歌的な風情は、微塵も見当たらない。





子どもらが、公園の噴水の周りを、ただ友達の車輪と背中を追いかけて回っていた。

爆弾低気圧のように、等圧線を描きながら、妙な圧を持って。

男の子特有の、意味もなく動きまわる衝動に任せて、ぐるぐる回っていた。


ちいさな男の子から、長靴と傘と服を奪ったトラが木の周りをぐるぐるまわってバターになってしまい、最後にはパンケーキになって焼かれて喰われてしまうほどではないが、水のマニ車を回す、風の馬にでもなったように、ぐるぐるぐるぐる回っていた。


男がじっと見ていた。

競技用の自転車に乗って。

前車輪だけで走ったり、回ったりしながら。

一人で。

ぐるぐるその場で回っていた。

黒いBMXは、男の身体の延長のように、四肢を拡張された、死ぬ前の昆虫のように、檻もないのに狂ったように動きまわる赤い帽子を被らされたマスクをつけた熊のように、その場をぐるぐる回っていた。


子どもたちは、帰る時間になったので、横で回っている男のことは気にもせずに、休日の公園でマラソンをしている人のマラソンコースに踊り出て、今度は自転車競技のように、一列になって、風を切って走りだした。


先頭を走っていた子どもの前に、さっきの男が立ちふさがった。

子どもたちは、何がおこったか、分からなかった。

なぎ倒され、急激に圧をかけられ、首を締め付けられている先頭の子どもだけは、わかっていた。


爆弾低気圧がやってきた。

目の前が回り始めた。

家に帰り着けるだろうか。と。