明鏡   

鏡のごとく

「茅葺への道」

2016-11-24 21:22:58 | 詩小説
茅葺屋根の事務所の棟上げがあるということをお聞きし、取り急ぎ駆けつけた阿蘇への道すがら。

朝の6時頃に、地震の緊急速報がラジオから鳴り響いた。

アナウンサーの方が、30分おきくらいに声が変わっているようであったので、声の出る限り出し続け、交代しながら、高台に逃げるようにと、福島県沖の津波の警戒を呼び掛け続けていた。

どうか、無事で。と思うほか出来ないジレンマと、4時から車を飛ばしている体は、緊張が内からも外からも押し寄せてくるようであったが、ただひたすら、福島の海で慰霊のための花火を見届けたいがために目指して走っていた時のように、まだ暗い道の上を、走り続けていた。


8時頃、茅葺屋根が見えてきた。

あそこにはまだ消えない何かがあるという安心感のようなものが、目の前に現れてきた。

ここにたどり着くことで、内からも外からも津波のようにやってくる、暗闇のような逆流する黒い水を和らげることができた。


すでに、棟上げ寸前のところまで茅葺屋根は出来上がっていた。

最初の軒を作るところを拝見させていただき、その後の途中の茅葺作りはお写真などで拝見していたのであるが、もう直ぐ出来上がる棟上げを見届けることができることは、私の茅葺屋根を作る行程の一つのクライマックスを迎えることでもあった。

新潟の魚沼においては、最初と最後を拝見することはできなかったので、阿蘇において、その過程を拝見できたことに、喜びとともに、そのような機会を与えてくださった、すべての方々に感謝してもしきれなかった。

いつも、優しく迎えてくださり、丁寧に指導していただけたことはもちろん、本当に、茅葺がお好きな方々に出会えて、よかったと心底思った。

茅葺愛は、茅葺そのものを作る方々の丁寧な職人魂によって一つの完成を見るのである。

息のできる、本物の愛情のようなものが、そこここに、詰まって重なって、出来上がるのが茅葺屋根なのである。