超人日記・俳句

俳句を中心に、短歌や随筆も登場します。

#俳句・川柳ブログ 

賢治の少年短歌を読む

2022-08-22 05:00:20 | 無題
「アルカリ色の雲」―宮沢賢治の青春短歌を読む・佐藤通雅編著(NHK出版)を開く。
主に盛岡中学時代、盛岡高等農林学校時代の習作である。各首の後に評者の説明がある。
〇中の字の徽章(きしょう)を買うとつれだちて なまあたたかき風にふれたり
父親と盛岡中学の中の字の徽章を買おうと連れ立って出て行き、生暖かい風のなかに出た。
日常描写から、異世界へ行き当たる感覚がある。
〇ひがしぞら かがやきませど 丘はなほ うめはちそうの夢をたもちぬ
夜明けの光に東空は輝いているが、梅鉢草の自生する丘にはまだ、花が眠れるほどの夜の暗さが残っている。
〇ひとびとは鳥のかたちによそほひて ひそかに秋の丘をのぼりぬ
鳥になれない人々は鳥に装い、金色に輝く丘を登っていた。鳥のかたちによそほひては、文学的空想なのか、民俗に根差した習慣なのかわからないが、幻想的な一首である。
〇せともののひびわれのごとくほそえだは さびしく白きそらをわかちぬ
すっかり葉を落とした樹の下から見上げる空は細い枝によって、確かにたくさんのひびが入ったように見える。枝を瀬戸物のひびと見る眼が、風景を幻想へ引き込んでゆく。
〇雨にぬれ 桑つみをれば エナメルの雲はてしなく北に流るる
桑を摘んでいる自分を描いたのち、上空の広い景色に眼を転じている。雨に濡れてしまったあと、雲が果てしなく流れて行くようすに眼を奪われている。
〇はだしにて よるの線路をはせきたり 汽車に行き逢へり その窓明し
裸足で夜の線路を走ったら、汽車に行き逢った。その窓は明るかった。
ここから「銀河鉄道の夜」が始まりそうな、賢治の原風景。習作だけに、後の夢の萌芽が一杯詰まっている。
習作だが、賢治らしい感受性が随所に見て取れる。「近代短歌、最後の秘境」と帯にある。

八月の列車で賢治を去るときに車窓に見えた花火現つか(私の作)
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赤黄男百句を読む

2022-08-21 06:09:55 | 無題
「赤黄男百句」創風社出版、を読む。
以下、赤黄男の句。
〇貝殻の青き肌に雨くるよ
解説によると、官能的な句であるという。
〇ガラス窓壊れてしまふよい天気
秋晴れの日の、心象風景だという。猛暑の話かと思ってしまった。
〇賑やかなカルタの裏のさみしい絵
カルタは骨牌、裏は裏面と記してある。表記をわかりやすくした。
〇少年の雲白ければむく蜜柑
こんな清々しい俳句を書けたらいいな。
〇夕焼の金をまつげにつけてゆく
美しいが、飄々とした句。おもしろい。
〇美しきネオンの中に失職せり
さらりとしているが、言っている事実は重い。
〇一本のマッチをすれば湖は霧
湖はうみと読む。寺山の「マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや」の元歌。
〇蜂の巣に蜜のあふれる日のおもたさ
おもさと書かずにおもたさと書いて、鬱然とした感じを出しているという。
〇早春の鶴の背にある光の輪
日舞の一場面を思い出す。

山向う誰が汗する羊雲
湖の水面を抜けて呼吸する(私の作)

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イスラム音階のピアノ独奏

2022-08-19 08:27:30 | 無題
職場のステレオが壊れたので、置いてあった秘蔵のCD
を持ち帰る。
これが大変貴重な音源で、ムスタファ・スカンドラニ
という人のピアノで、「イスティクバルと即興」
というアルバム。
これが、スペイン南部のアンダルシアのイスラム音階のピアノ曲集で、
何とも言えず素晴らしい。
シタールみたいな旋律を、ピアノで静謐に奏でるのである。
イスラム的な旋律が、静かにピアノ独奏で流れて来る時の
感動は筆舌に尽くしがたい。
スペイン南部のアンダルシアには、モスクが多く、イスラム王朝時代も
領土下に置かれたので、このような特異な文化が
生まれ、今も続いている。
そういう背景に思いを馳せながら聞くと、
喜びもひとしおである。
ピアノの人は、スーツを着て、ネクタイを締めた
壮年の紳士である。紙ジャケットで、所々に
イスラム圏の文字がスラスラと書いてある。
ラジオで聞いて、すぐ買ったが、今では入手困難と思われる。
いろんな意味で秘蔵の音源で、大事に聞いている。
追記
youtubeのリンクを貼っておきます。

https://www.youtube.com/watch?v=3uKVNqQqb2Q



短歌
絶妙なイスラム圏の音階を独奏ピアノで静謐に弾く
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加藤繁樹著・短歌で旧約聖書を読む

2022-08-17 06:15:05 | 無題
加藤繁樹著「短歌で読む旧約聖書」を久しぶりに手に取った。
同じシリーズで「短歌で読む新約聖書」もある。
以下、加藤繁樹作の旧約短歌である。

七日目に全ての御業治まりて 宇宙の仕組み整いにけり

主の神は男に似合う助け手を あばら骨とり造り給えり

誘惑に負けてこの世の罪を受く アダムとエバは神にそむけり

弟のアベルごろしの魔のカイン エデンの東においやられけり

万物を消し去りしあとをまかすべく 全きノアを主は選びけり

主によらぬバベルの塔のいたけだか 神来たりきて たしなめ散らす

モーセの手 杖をかざせば潮ひきて 海の真中に陸地あらわる

神よりのお告げを受けて山を下り モーセは民にしらしめにけり

というふうに、旧約聖書の要所要所を加藤繁樹氏は短歌で詠んでいる。
結構、感動的なので、「短歌で読む新約聖書」とともに、愛読している。
もっと評価されていい、壮大な仕事である。

主の神は天地創造なしおえてエデンの園に人を憩わせ(私の作)
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歳時記俳句・残暑見舞い

2022-08-10 12:43:54 | 自作俳句
八月の七夕今宵会えぬ人
両親も遠くで笑う盆供養
立秋に帰る当てなく行く燕
汗を拭き啄木鳥響く緑樹園
街並みに薄く実が生る七竈
あの日から白粉花の便りなく
黒髪に挿した鬼灯盆踊り
生まれ島義賊の芝居苦き瓜
減量に効く汗だくの唐辛子
残暑にも老眼進む夏休み
朝里川湯浴みの後に盆の月
耳を切る頃の絵筆に星月夜
月寒の空に今年も天の川
知らぬ人幼子を抱き水も澄む
若き日のあの人と見た絵灯籠
憂き世だと言うには早い法師蝉
オルガンと賢治の楽譜天の河

オルガンと賢治の楽譜天の河 椅子残された地人協会









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