「先生、随分大きくなったなあ」、ここにお掛けと寝たきり爺さんがベットの脇の隙間をポンポンと叩く。確かに九十過ぎのあなたから見ればうんと若いけれども、もう孫も居る前期高齢者ですから、そんな小さな場所には座れません。ええっ、寝ろですって、冗談もほどほどにしてください。昨晩はここは何処だと騒いでお嬢さんを困られたそうじゃあないですか。ベットの柵を揺すって大声を出すなんて、プロレスラーのつもりですか。親子は似ているので、娘さんも遂に怒り出し、空手チョップをお見舞いしたようで、すわ虐待ではとケアマネが騒いでいるようですが、私はそうは思いません。これは痛み分けです。
そうやって3年半、掛かりつけ医に往診を断られお鉢が回ってきた私がお引き受けし往診で面倒を見させていただきましたが、今度はあなたの奥様、お嬢さんのお母さんが倒れられ介護が必要になったので、お嬢さんも限界で遂にあなたは施設入所になるようですね。かの有名な患者を選別する老人病院に入院許可が下りました。競合施設が出来てきたので合格ラインが下がったとの噂です。
新しい所は最初は慣れなくて大変かもしれませんが、24時間の対応が出来ているようですから、暴れず優等生でお願いします。私はもう往診にはゆけませんが、お嬢さんはお見舞に行かれると思います。どうぞお大事に、ごきげんよう。