ポロポロポロ・・なんだか目覚ましにしては早いなあ、午前4時55分、電話か。
「もしもし、**ですが」。
「はい」。
「朝早くからすいません、父が亡くなったようです」。
「すぐ、行きます」。
そっと着替えをして、一応簡単に朝の身づくろいをして車庫に向かう。音のしないように着替えたせいか隣の人は熟睡の様子、微かに寝息が聞こえる。天才的医者の妻だな、電話が聞こえないらしい。
五時過ぎの街はまだ暗く、車はまばら、僅か十五分で到着する。不在のように静かな患家の玄関を開け軋む廊下を踏んで、客間のふすまを開けると娘夫婦がベットの脇に突っ立っており、奥さんは炬燵に入って、ぼんやりしていた。患者さんはベットで身じろぎもせず、僅かに口を開けて眠っているように亡くなっていた。型どおり心停止瞳孔の光反射消失を確認し、時刻を確かめて、死亡宣告をして頭を下げる。
「思ったより、早かったですね」。
「苦しまなくてよかった」。
「痛いと言うと入院させられると思って言わないんですよ」。
「家で亡くなって良かったです」。
未だ誰も居ない診察室で、コーヒーを飲みながら死亡診断書を書く。八*歳、*癌・・・。
長いこと持病だった胆のうの痛みも、痴呆にかかってからはまったく痛がらず、病院へアルツハイマーの進行を抑えるためには通いましたが、後半それも嫌がり、自宅で好きな事をやっておりました。
好物を食べて「うめの~。」と嬉しそうに笑う顔が思い出されます。残された人間は大慌てでしたが、自然のままに人生を終えるのを私も幸せだと思います。