駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

早い目覚まし

2013年01月31日 | 診療

     

 ポロポロポロ・・なんだか目覚ましにしては早いなあ、午前4時55分、電話か。

 「もしもし、**ですが」。

 「はい」。

 「朝早くからすいません、父が亡くなったようです」。

 「すぐ、行きます」。

 そっと着替えをして、一応簡単に朝の身づくろいをして車庫に向かう。音のしないように着替えたせいか隣の人は熟睡の様子、微かに寝息が聞こえる。天才的医者の妻だな、電話が聞こえないらしい。

 五時過ぎの街はまだ暗く、車はまばら、僅か十五分で到着する。不在のように静かな患家の玄関を開け軋む廊下を踏んで、客間のふすまを開けると娘夫婦がベットの脇に突っ立っており、奥さんは炬燵に入って、ぼんやりしていた。患者さんはベットで身じろぎもせず、僅かに口を開けて眠っているように亡くなっていた。型どおり心停止瞳孔の光反射消失を確認し、時刻を確かめて、死亡宣告をして頭を下げる。

 「思ったより、早かったですね」。

 「苦しまなくてよかった」。

 「痛いと言うと入院させられると思って言わないんですよ」。

 「家で亡くなって良かったです」。

 未だ誰も居ない診察室で、コーヒーを飲みながら死亡診断書を書く。八*歳、*癌・・・。

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 渡辺vs橋下論争は掘り下げて | トップ | 昔は怖かった、何が変わった... »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
幸せだったと思います。 (cake)
2013-01-31 09:42:45
私の母も、「病院では死にたくない。」と申しておりました。眠ったままに旅立ちました。私もそうなれたらと思います。
長いこと持病だった胆のうの痛みも、痴呆にかかってからはまったく痛がらず、病院へアルツハイマーの進行を抑えるためには通いましたが、後半それも嫌がり、自宅で好きな事をやっておりました。
好物を食べて「うめの~。」と嬉しそうに笑う顔が思い出されます。残された人間は大慌てでしたが、自然のままに人生を終えるのを私も幸せだと思います。
返信する
http://plaza.rakuten.co.jp/camphorac/ (柳居子)
2013-01-31 16:38:34
 生と死の狭間 人一人の決着と言うのかゴールのテープと言えば良いのか、 その場所に佇むお仕事なのですね。 朝早くから ご苦労様でした。
返信する
静かにそっと (arz2bee)
2013-01-31 16:39:34
 亡くなられたご本人の気持ちまでは分かりませんが、自分も自宅で家族に看取られてそっと旅立ちたいと思いますね。
 
返信する
昔に比べれば (arz2bee)
2013-01-31 17:07:23
 家でという気持ちは多分死ぬと言うことが個人的なことだからだろうと思います。私のしていることは百年も昔から開業医のしてきたことですし、昔に比べれば楽なもんですよ。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

診療」カテゴリの最新記事