教団「二次元愛」

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わたしの愛したマシンたち(エンジン編)

2009-08-28 06:03:26 | 科学
本記事は「わたしの愛したマシンたち」というシリーズの第3弾である。
各話ごとに完結しているので、前のはまあ別に読まなくてもいいが。



今回はエンジンの話、とくにロータリーエンジンについて熱く語りたい。

・・・とはいえ。
あらかじめ言っておくが、実はロータリーエンジンはあまり褒められたシロモノではない。

とにかく燃費が悪い。
排気量が5倍以上あるアメ車のシボレーコルベットより燃費が悪い。

とにかく低回転トルクが無い。
排気量が半分しかない軽自動車より低回転トルクが無い。

とにかく発熱が大きい。
サーキットに持っていったらエンジンの熱で周りの部品がどんどんおかしくなる。

とにかく繊細な扱いを要求する。
プラグなんか8000kmくらいですぐ使い潰してしまう。

おまけに使えば使うほど消耗する。
他の国産エンジンではちょっとお目にかかれないほどの勢いで圧縮が低下する。

こんな腐ったエンジン、いったい誰が買うというのか?

いやいや待たれ。
わたしはそれでもいいから買ったのだ!!

アホみたいな悪い燃費に泣かされてカネは次々にガソリン代に消えてなくなる。
低回転トルクが全然ないから交差点なんかでのゼロ発進で2呼吸も出遅れる。
サーキットに持っていったら不可解なトラブルに悩まされるのは宿命であると天を仰ぐ。
買ったら最後、イヤでも多少は自分でメンテをするのを覚悟する。
そして今日使った分だけ明日はエンジンを消耗していることに身を切られる思いをしながら乗り続ける。

しかし!

それでもロータリーエンジンしか出せないものをかのエンジンは持っている!
そしてそれは、先の全てと引き換えにしなければ決して得られないものなのだ!!

先の全てを引き換えにしてようやく得られるもの、それは高回転の回り心地の良さである。
ロータリーエンジンを高回転までぶん回したとき、ドライバーは他のエンジンでは到底到達することのできない原始の脳を直撃する快感を謳歌することができるのだ。



よく言われるメリットとして次のようなことが語られる。

通常のレシプロエンジンは、ピストンを往復運動させ、その動力を回転力に変換して取り出す。
これでは構造上のムダが出る。
ところがロータリーエンジンはピストンそのものが回転運動しており、ほとんどそのまま動力を取り出すことができるようになっている。
これは幾何学的に美しい。

通常のレシプロエンジンは、ピストンとクランクシャフトはコンロッドで直結している。
別にこれは悪いことではない。
ところがロータリーエンジンはロータリーピストンをギヤで2/3に分周して取り出す。
これは単純計算で1.5倍は回転数を上げやすいことを意味する。

通常の4サイクルのレシプロエンジンは、クランクシャフト2回転あたり1回しか燃焼が行われない。
これでは動力をたくさん取り出しにくい。
ところがロータリーエンジンは1気筒で部屋が3つあり、それぞれで別の工程の仕事ができるので、ロータリーピストン1回転あたり3回(クランクシャフト1回転あたり2回)の燃焼を行うことができる。
これは動力をたくさん取り出しやすいことを意味する。

通常の4サイクルのレシプロエンジンは、吸気/排気を行うのにバルブを開け閉めしなければならず、これもベルトを使ってエンジンの動力を使って駆動させている。
これはかなり部品点数が増える要因になる。
ところがロータリーエンジンはロータリーピストンが回転することで勝手に吸気/排気がなされるので、穴さえ空けておけばあとは勝手にやってくれる。
カムシャフトやバルブやタイミングベルトすら存在しないという究極に簡素化された美しい構造をとる。

これらのことは何を意味するか?

コンパクトでシンプルで軽量でハイパワーで、かつ高回転までツルツル回る理想のエンジンが出来上がるのだ。

実際、ロータリーエンジンの高回転までツルツル回るフィーリングは、他のエンジンでは絶対に出ない至高の乗り味を出している。
一度ロータリーエンジンの車に乗ってしまうともうダメだ。
他の車に乗ってエンジンぶん回してみても、ムリクリ回しているような詰まったような印象を拭いきれなくなってしまう。
なんというか、
「エンジンがんばってまっせ!!」
とごり押しされているような印象を受けてしまう。
しかし、ロータリーエンジンならば、どこまでも勢い良くぶん回るんじゃないかと思うほど、静かにそしてエレガントに回るのだ。

ごり押しではない、エレガントに高回転でハイパワーをもたらすそのエンジンに触れたとき、ひとは自分の魂の奥底に秘めていた戦いのドラムに炎が灯り、熱くたぎる濃い血液の循環するその刹那の瞬間に心の底から浸っていることにあとで気付く。
静かな熱狂、まさにそう言うのがふさわしい。

いままでわたしはエンジンの音を心地よいと思ったことはなかった。
だが、ロータリーエンジンの愛車を運転することになると話がひっくり返った。
エンジンの音がじつに心地よい。
みずからの魂の奥底に秘める炎の強さに呼応して吠えるエンジンの鼓動の音、この音があるからこそ、魂はさらに熱狂へと向かう。



冷静に考えて、ロータリーエンジンはおすすめすることはできない。
幾何学的に美しいが、それゆえに欠点もあり、それを克服することができない。

まず、ロータリーピストンが回転することから、燃焼室はどうしても平べったくなり、表面積が増えてしまい、熱が逃げやすくなってしまう。
それに燃焼室はどうしても平べったいということはシールの全長もかなり長くなり、圧縮が抜けやすくなることも意味する。
またそれは燃え残りが増え、HCの排ガスが増えやすいことも意味する。
それに回転運動することからシールの動く速度が高いので消耗しやすい。
バルブが無いのもすばらしい事だが、バルブが無いからバルブタイミングをコントロールすることが非常に難しく、小細工して制御の腕前で性能を改善するようなことをやりにくい。
それにエンジンの中心にクランクシャフトが来るのでクランクシャフトの位置が意外に高い。
XY方向へはたった2気筒でバランスするが、2ローターではすりこぎ運動の方向へ力が加わって磨耗を促進してしまい、これは4ローターのようなバケモノエンジンにするしか改善策がない。

キホン的に世の中のテクノロジーは、理論的に美しいものは何か致命的な欠陥があって実用化しにくく、逆に一癖も二癖もある厄介なものを巧く使いこなすほうが良いモノが出来上がる事のほうが多い。
そしてロータリーエンジンは理論的にも幾何学的にもとても美しい事は誰しもが認めるところであろう。

だが、その理論的に美しいたぐいのものは、何かとある1点でとてつもない高い能力を発揮する。
そしてロータリーエンジンの高回転のきもちの良さは何にも変え難い。

ただの道具として使うために必要な多くのものを犠牲にしている車を買うのは苦渋の決断を要する。
だが、ロータリーエンジンはその決断をしてあまりある見返りを贈ってくれる。
人には勧められないが、わたしが人生のひとときをロータリーエンジンと共に過ごしたことは、一生忘れられない強烈な思い出として年老いてなお残り続けるに違いない。



追伸:

いちおう同シリーズの前のもリンクを記しておく。

わたしの愛したマシンたち(エスプレッソマシン編)
http://blog.goo.ne.jp/beamtetrode350b/e/a249c805d2c678289fe38a4b958cedea

わたしの愛したマシンたち(ヘッドフォン編)
http://blog.goo.ne.jp/beamtetrode350b/e/75f6d1171b331ff9e10619ec2921dac6