このことは、旧白岩郷関係者の中でも、まだまだ一部の人にしか注目されていないようです。まして全国では、ほとんど注目されていないでしょう。藤沢周平氏自身が、白岩一揆に、どれほどの関心を持っていたかも定かではありません。
しかし、氏の庄内酒井家をテーマとする小説の多くで、白岩一揆が背景として重要な役割を担っているのではないでしょうか。
この『長門守の陰謀』という小編でも、長門守の次のような回想の一節があります。
「ふん、馬鹿どもが!
回想はいつものように、自分を追い出した白岩の百姓たちに対する呪詛から始まる。・・・江戸に長門守を訴え、同時に国元では一揆勢数百人が城を襲う騒動となった。城方ではこの一揆勢との戦いで、家老が首を討ち取られるという醜態を演じて、天下の注目を浴びた。・・・幕府は長門守の多年にわたる失政を咎めて、領地を没収してしまった・・・」
氏の時代小説に登場する海坂藩の藩内抗争、その黒幕のモデルがこの長門守ではないかと言われています。
白岩一揆の因(もと)となった酒井長門守忠重の過酷なまでの政治、そして、白岩郷民の生命を捧げてまで闘わざるを得なかった苦しみの数々。これらを頭の片隅におきつつ、藤沢小説の世界を楽しまれてはいかがでしょうか。
また一味違ってくるのではないでしょうか?