◆ 広がり続ける肉牛の放射能汚染
稲わらの放射能汚染による肉牛の汚染問題は、心配されたとおり、より広範囲に、より深刻になっている。
7月21日の朝日新聞は報じている。
「岩手県は20日、一関市と藤沢町の畜産農家5戸のわらから(国の)基準の約2~43倍のセシウムが検出されたと発表した。」「一関市と藤沢町はともに宮城県境で、第一原発から約150キロ離れている。」
前日の20日付け朝日新聞では、「(宮城)県によると、いずれも第1原発から100キロ以上離れた大崎市、登米市、栗原市の4業者が・・・福島、山形、新潟、青森、茨城、群馬の6県に出荷した。」「このうち、3業者が販売した分の一部で基準値を超えたことが確認されている。」と報じられたばかりだった。
すでに、放射能に汚染された肉牛は沖縄を除く46都道府県に出荷されたという。
それらの肉牛は消費者の口に入っているものも多いはずだ。保育園や小学校の給食に使われたとの報道もある。
◆ 放射能は、どこまで広がったのか?
さらに心配なのは、放射能の専門家ではないので詳しいことは分からないが、セシウム検出の数値の高さと土壌汚染の広がりだ。
福島県郡山市のわらからは「1キロあたり50万ベクレルのセシウムを検出」(7月17日付朝日新聞)。
宮城県産の「福島県に出荷されたわらからは1キロあたり3万4千ベクレルが検出された」(7月20日付朝日新聞)。
原発からさらに離れた岩手県のわらからは「1キロあたり2560~5万7千ベクレルのセシウムを検出した」(7月21日付朝日新聞)。
国の基準値は、1キロあたり300ベクレルというのだから、深刻な放射能汚染が、私たちの想像を超えて、福島県どころか宮城県、岩手県まで広がっているのだ。
安心はどこへいってしまったのか?
何を信じ、何を基準に、考え、行動すればよいのか!
◆ 悪いのは農家なのか?
新聞各紙からは、農家の呻きが聞こえてくる。
「福島の畜産は存亡の危機・・・JA福島の庄條会長談」(朝日新聞)
「何年もかけて築いた信頼やブランドが落ちるのは一瞬だ・・・肥育農家」(朝日新聞)
「安全でおいしい牛肉を食べてもらいたいと頑張ってきたのに悲しい。牛たちにも申し訳ない・・・山形県の畜産農家」(山形新聞)
農家は、まさか稲わらが汚染されているとは思っていなかった。知るための情報が隠されていたのだ。
福島県の畜産業者は言う、「宮城県から仕入れたわらで、汚染されているとは夢にも思わなかった。」(朝日新聞)
山形県の畜産農家は「(わらを仕入れた大崎市は)原発からも遠い。疑いもせずいつも通り牛に与えていた。それが突然汚染されていると言われても、まさかという思いしかない。」(山形新聞)
宮城県や岩手県のわらが汚染されているなどとは思いもよらずに、畜産農家に出荷した稲わら販売業者が悪いのか?
放射能で汚染された肉牛と知らずに市場に出荷した畜産農家が悪いのか?
汚染されているとは知らずに、牛肉を消費者に販売したお肉屋さんが悪いのか?
何も知らずに「おいしい、おいしい」と食べてしまった消費者が愚かだったのか?
◆ 主たる原因は何か?
新聞、テレビなどは、この深刻な肉牛汚染問題の原因に迫っているだろうか?
朝日新聞(7月16日)は『「事故発生前に刈り取ったものだけを使う」という農林水産省の指導が、現場に徹底されていなかった』と言っている。
それもそうに違いない。
さらに、同じ日の朝日新聞は「県の(わらなど飼料についての)指導はどうなっているのか。行政の怠慢だ」との酪農家の怒りを報じている。
「事故後にわらを放射能測定していれば、こんなことにはならなかった」という稲わら販売業者の憤りもある(7月20日、朝日新聞)。
これらの指摘が間違っているとは思わない。
それはそうだが、これらが主たる原因なのか、と思う。
最大の問題は原発というものの爆発にあるが、その次に問題なのは、政府と東電の“事故隠し” “汚染隠し”ではないのか?
3.11地震直後の原発の爆発はチェルノブイリ級だったのではないか!
放射能は爆発直後に一気に広がっていったのではないか!
ところが政府は、原発から10キロ圏、20キロ圏と、危険区域を小出しに設定していたのだ。
とっくに放射能が拡散してしまった3月24日時点でも、政府は20キロ圏内を「避難指示」とし、30キロ圏内を「屋内退避指示」にしていた。そして「屋内退避指示の在り方を見直す方向で検討に入った」(3月25日、山形新聞)。
それも、枝野官房長官は「放射能の影響の問題とは別に、社会的な要請への対応だ。危険がさらに広がったのかとの間違ったメッセージにしてはいけない」とも強調したのである(同)。
「政府の対応が後手後手だ・・・」と非難されているが、私はそうは思わない。
「後手後手」というよりも、政府・菅内閣は、問題の巨大さに恐れをなして、躊躇し、右往左往していたのだ。真実を隠し、対策を小出しに小出しにし、その日暮らしをしていたのだ。
戦争論でいえば、「戦力の漸次的投入」の愚である。
その結果、地震と原発の爆発という災厄だけでなく、その後の2次的、3次的な災厄を招いてしまったのだ。
今回の肉牛汚染問題は、その典型的な具体例である。これは政府によって引き起こされた“人災”ではないのか?
国民に、今回の原発爆発の真実が、直ちに、できるだけ正確に周知されていれば、一時的なショックはあったに違いないが、こんな稲わら汚染による肉牛汚染問題など、起きるはずもなかった。
誰も、爆発後に屋外で放射能に汚染された稲わらなど使わないのだから・・・。
◆ まとめの代わりに3題:
① 『胎児や乳幼児「影響心配ない」 産科学会「遠ければ」』
『日本産科婦人科学会は16日、妊娠・授乳中の女性への放射線被曝の影響に関する見解を学会ホームページで公表した。福島第一原発で爆発事故が起きた15日に、同原発から5キロ以上離れた場所にいた場合、被曝量は人体に影響を与えない低レベルのもので、本人や胎児、母乳を飲んでいる乳幼児への「悪影響について心配する必要はない」としている』(3月17日、朝日新聞)。
産科学会もそうだが、これを無批判に報道した朝日新聞も、恐ろしい。
② 最近、小さく扱われていたが、きわめて重大な記事を見つけた。
7月17日の朝日新聞に「柏崎刈羽の経験生きず、中越沖地震から4年」と題した記事があった。それは、次の一節でまとめられていた。
『中越沖で保安院の対策委は、情報の正確性より迅速性を優先すべきだと指摘したが、今回も東電や政府の発表は混乱し爆発や炉心溶融の認定も遅れた。「パニックを恐れた」(細野豪志原発担当相)ため、放射性物質の拡散予測は最も必要な時期に公表されなかった。』
これを書いた記者は凄い、勇気がある。問題の本質に肉薄していると思う。最後に署名入りの記事となっていた。
「佐々木英輔」と。
③ 須賀川市の藤沼ダム決壊現場を調べに行った7月17日、途中の郡山市三穂田町の県道沿いで撮った写真です。
あまりに青々とした田んぼが美しかったから、ついシャッターを切った。農家の方たちの苦労が無にならないことを念じつつ。
この米さんたちは大丈夫か?
政府の対策が今のような状態で進めば、秋には大パニックがやってこないとも限らない。
消費者も、米農家も、どうなるのか?
少なくとも、政府は直ちに、放射能汚染の実状を公表し、米の出荷ができない地域を定め、その補償を明らかにすべきだ。
あわせて、すでに始まっているという米の青田買いを禁止し、罰則をもって速やかに取り締まるべきだと思う。