今から5500万年前、始新世(Eocene:約5580万年前~3390万年前)の初めには地球上の大気に2テラトン(2兆トン)の二酸化炭素が放出されたと言われている。
原因としては、底層水温の上昇、海底の地すべり、マグマの貫入による海底のメタンハイドレードの分解によるメタンガスの増加や(メタンハイドレード仮説、Dickens et al.1995)、火成活動の活発化による温室効果の影響(Owen and Rea 1985)などがあげられている。
これによって温帯から寒帯にかけて約8℃気温が上昇し、熱帯における気温上昇は約5℃であった。
そして生物生産や海洋湧昇が元のレベルに戻るのに20万年の歳月を必要とした。
(ただし松岡ほか(2006)によると、生物生産や海洋湧昇が回復するのに10万年程度かかるが、炭素同位体比が元のレベルに戻るのに20万年以上かかるようである)
一方、20世紀から21世紀にかけて、始新世のほぼ半分にあたる1テラトンの二酸化炭素が大気中に放出されている。
両者の違いは、5500万年前には約1万年かけて徐々に放出された二酸化炭素が、現在ではわずか200年でこの数値に達したことである。
このような短い時間内での変化が、特に地球上の水圏生態系に与える影響は大きい。
なぜなら、陸上生物に比較して、水中の多くの生物(特に貝類)は環境変化に適応するのに時間がかかるからである。
また、5500万年前の太陽は0.5%ほど温度が低かった(Sagan and Mullen 1972)。
そして、この時代には農業はおこなわれていなかったので、自然植生が人為的な制約なしに気候に適合することができた。
現在の大気にはエアロゾルが含まれており太陽光を反射したり雲によって吸収したりしているので、気温を2℃から3℃を下げる役割を果たしている。
大気からの除去速度は、エアロゾルで数週間なのに対して二酸化炭素は50年から100年かかるので、急激に化石燃料の燃焼を抑制しても気温上昇を招く可能性を指摘している。
一方で、現在の急激な気温上昇は、地球上の動植物が好適に生存する環境を消失させ、2050年までに15%から37%の生物が絶滅する可能性もある(Thomas et al., 2004)。