DALAI_KUMA

いかに楽しく人生を過ごすか、これが生きるうえで、もっとも大切なことです。ただし、人に迷惑をかけないこと。

謎(1)

2014-02-26 18:31:13 | ButsuButsu


男は考え続けていた。

いつからこの深みにはまりこんだのだろう。

ずっと長い間考えている気がするが、実はそんなに長くもないのかもしれない。

どんよりとした思考の深みは、決して不快なものではなかった。

ただ出口の見えない思いは、胎動のように心の中にささやきかけていた。

「もうよいのかもしれない」

目覚めてもよい頃だった。

「ここはどこだ」

問いかける心の中に、かすかに水の音が聞こえた。

「今は朝なのか」

そう言えば、太陽のような光が忽然とまぶたに差し込んできた。

「音がする」

そう、波が頭上を駆け抜けていくようだ。

自分が水の中にいて、ゆっくりと浮遊しながら流れに身を任せている状態が知覚された。

「もうよいのかもしれない」

再び思ったとき、四肢に力がみなぎる気がした。

「起きよう」

手足をのばし、縮め、再びのばし、そして泳ぐことを始めた。

少しずつ、しかし確実に進み始める。

「もう始まったのだろうか」

何かが変わろうとしていた。

そのことを、ずっと昔から知っている気がした。

だからこそ、考え続けてきたのかもしれない。

泳いでいく先に何かが待っている気がする。

「遅れてはいけない」

目指す場所はわかっていた。

湖の深み、いまだ誰も訪れたことのない場所だった。

男も初めて訪れるのだが、妙に懐かしい思いがした。

緩やかな下りを過ぎると、ごつごつとした岩が現れてきた。

岩肌にはべっとりと生き物が張り付いている。

「ビワオオウズムシ」

思いついたように男はつぶやいた。

絶滅危惧種Ⅰ類に指定されている琵琶湖の固有種だ。

「しかし、それにしてもこの多さはどうだ」

何かが急激に変わりつつあるようだ。

「急がないと」

男はまた泳ぎだした。

2月25日(火)のつぶやき

2014-02-26 08:26:19 | 物語