「ホモ面って知ってる」
女が聞いた。
「モホロビチッチ不連続面」
と男が答える。
「地震波速度の境界面だ」
「そうね。地殻とマントルの境界面で、この面の上と下とでは地震波の伝搬速度が異なる。この性質を利用して、地殻の厚さを知ることができる」
女が、ウィキペディア的に説明した。
それによると、琵琶湖の地殻は少々厚いらしい。
この部分が陥没しているのだ。
上層の密度が2.6g/cm3ほどで、下層の密度が3.1g/cm3程度である。
琵琶湖の地殻の厚さは40kmほどで、周辺が32kmである。
つまり約8kmにわたる陥没がある。
この結果、琵琶湖の重力は小さい。
いわゆる負の重力異常地帯だ。
なぜこのような不連続な陥没ができているのかというと、フィリッピンプレートの潜り込みが原因らしい。
そうすると、古琵琶湖の移動も説明できそうだ。
「琵琶湖は水平的な応力が大きな場所で、歪みを受けやすいのでは」
女はそう話すと、何かを考えるそぶりをした。
「そもそもなぜこの場所でプレートが潜り込むのか」
「湖は結果であって、原因ではない」
男はそう言った。
「このことと湖底で見つけたベントと何か関係があると思わない」
女の質問に男は答えた。
「これだけではわからない。もう少し調べないと。ただ面白い話だ」
二人は膨大な文献を検索し、情報の収集を開始した。
こうして2009年は終わり、2010年の春を迎えた。