春には冬の重しが取れて、湖面には華やいだ風が吹く。
何か頑張って仕事をしたくなる季節だ。
そんな季節を、男は好んでいる。
2010年4月25日から28日にかけて、再び琵琶湖の湖底に潜る。
昨年よりベビーベントの数が増えている気がする。
注意深く観察する。
時として魚による巻き上げと間違うことがあるからだ。
まっすぐ進んで魚がいなことを確認する。
7.6㎞ほど進んで、ベントらしいものを7個発見した。
視界はあまりよくない。
底泥の巻き上げで、水が濁っているのだ。
男は最近読んだ論文を思い起こした。
琵琶湖の沈み込みはなぜ起こるのか。
2003年のKudoらの論文だ。
濃尾平野と琵琶湖に、大きな負の重力異常が存在する。
彼の説によると、東南海トラフで潜り込んだフィリッピン海プレートが琵琶湖の下で沈降し、その時に地殻を引きずり込むのだそうだ。
ただ、それだとなぜ濃尾平野と琵琶湖の2か所で負の重力異常が発生するのかが説明できない。
そのこととベントとは直接関係ないかもしれない。
しかし完全に否定もできない。
もしプレートの沈み込みの場所に琵琶湖ができているとするのならば、420万年前には古琵琶湖があったと言われる伊賀上野で沈み込んでいたということなのだろうか。
そう考えるより、沈み込みの場所は現在位置と同じだが、地殻が押されて伊賀上野の場所まで移動したと考える方が理にかなっているのではないか。
こう考えることとの不都合はあるのだろうか。
男の潜水は続く。
春のけだるさの中で、意識もかすんでいく。