カトマンドゥを離れ、50人ほどが乗れる小さなプロペラ機でポカラへ飛ぶ。
右手の窓からヒマラヤ山脈が見える。
絶景かな、というほどはっきりは見えない。
どの山がエベレストなのかももちろんわからない。
30分ほどでポカラに着き、トレッキングガイドと合流する。
ガイドのDさんはネパール語のほかに自分の民族のことばであるネワール語、さらにヒンディー語と英語、そして日本語をとても流暢に話す。
現在、中国語も勉強中というからおどろく。
英語すらおぼつかないわたしは穴があったら入りたい気持ちになる。
きょうはDさんの案内で標高1600メートルにあるダンプスという村まで登る。
もっとも登山口のあるフェディという村は標高1100メートルだから、自分の足で登るのはわずか500メートルほど。
ダンプス村というのはヒマラヤ山脈の西側に位置するアンナプルナ山脈の足もとにあたり、ネパール側からエベレスト登頂をめざす人たちが最初に通る関所のようなところだ。
なぜ関所なのかというと、アンナプルナに登るにはネパール政府の発行する入山許可証と500万ルピー(日本円で約600万円!)が必要だから。
ただし3000メートル程度の足もとをトレッキングする分には2500ルピー(約3000円)でよいらしい。
わたしたちはその爪先あたりしか歩かないので、もちろん許可証も入山料もいらない。
そびえ立つアンナプルナの山々を一目見ようと登りはじめたものの、雨が降ったり止んだりで、残念ながら雲に覆われて見えなかった。
8月は1年間でもっとも雨の多い時期で、本格的なトレッキングのシーズンは秋から冬にかけて。
3時間足らずでダンプス村に到着。
きょうから2日間お世話になる「月の家」という山小屋は、日本のある旅行会社を通じてトレッキングツアーに申し込んだ人専用の宿泊施設だ。
つまりここに泊まる客のほとんどは日本人ということになる。
だがこんな時期に訪れる客は少なく、「2名以上で決行」というこのツアーは結局わたしたち2人だけであった。
日本人客向けにつくられたのであろう五右衛門風呂に入って、きょうの疲れを癒す。
夜はこの地方独特の粟からつくった地酒と、代表的なネパール料理ダルバートタルカリを右手でいただく。