元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「007/慰めの報酬」

2009-02-06 06:34:26 | 映画の感想(英数)

 (原題:Quantum of Solace )何やら勘違いをしているとしか思えない出来だ。まず釈然としないのは、この映画が前作「カジノ・ロワイヤル」の明確な“続編”になっていること。

 本来、このシリーズの観客は各作品を“連続したドラマの一環”として捉えてはいない。もちろん、ボンドはどういう職務の人間でどんな使命を帯びて立ち回りを演じるのかは、シリーズ全体の“お約束”として観る者に知ってもらわなくてはならないが、それぞれの作品は一話完結であり、言ってみればフラリと映画館に入って2時間ばかり浮き世を忘れて楽しみ、観た後には全然引きずらない単純明快な娯楽映画の体裁を取っていたはずだ。しかし、本作は前作を観ていないと話に入っていけない。ハッキリ言ってこういうシリアルな作り方は別の映画でやってほしいのだ。

 さらに、ストーリー自体に“余裕”がない。ひたすらタイトに活劇場面を繰り出すばかりで、一服できるところがあまり見当たらない。これは監督がアクション大作を撮った経験のないドイツ人のマーク・フォースターであることも大きいのだろう。また脚本に硬派ネタを得意とするポール・ハギスが参画しているのも愉快になれない。題材も南米の石油利権がどうのという、まるで愛想のないものだ。

 確かに出演のダニエル・クレイグはこういうタッチに合っていると言える。身体の切れ具合もかなりのものだが、色気も愛嬌もなく、ジョークの一つも飛ばせないばかりかオルガ・キュリレンコ扮するボンドガールとよろしくやる場面もない(ついでに言うと、胸毛もない ^^;)。冒頭の手に汗握るカーチェイスと、イタリアのシエナの街中を跳んだりはねたりの活劇場面は見応えがあるが、それ以外はめぼしいアクションシーンが見当たらない。シリーズではお馴染みの新兵器・珍兵器も一切無し。とにかくシリアスに攻めるばかりだ。このアプローチはすでに「007」映画の路線を逸脱して「ボーン・アイデンティティ」シリーズの類似品か何かの印象しか受けない。

 そもそもはクレイグが主役に収まった時点で、若い頃のボンドを描くならば舞台設定も原作に近い50年代~60年代に置くべきではなかったのか。そして悪の権化である“スペクター”とのバトルを賑々しく描けばそれで良かったのだ。ヘタに現代の国際問題なんかを正面から捉えようとするから、拭いがたい違和感が横溢することになる。このままでは次作は石油利権に絡む国際シンジケートやテロリストといった生臭い連中を相手にせねばならず、ますます従来のボンド映画とかけ離れるばかり。早期の軌道修正を望みたい。
コメント
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