元・副会長のCinema Days

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「ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち」

2019-10-18 06:28:57 | 映画の感想(は行)

 (原題:THE HUMMINGBIRD PROJECT )題材は面白そうだが、話の組み立て方が上手くない。実話を基にしているというのなら、その実話自体があまりスマートではないと結論付けられるのではないか。本筋とは関係のないモチーフが挿入されているのも、あまり愉快になれない。本国では批評家からの評価は平凡なものに留まっているらしいが、それも頷ける。

 2008年、リーマン・ショック後の政府の規制強化により、アメリカでは各金融機関はハイリスク・ハイリターンの投資に専念することが難しくなった。一方で超高速で株や債券の取引を実行させる高頻度取引が台頭。投資会社に勤めていたヴィンセント・ザレスキと従兄弟のアントンは、カンザス州にあるデータセンターとニューヨーク証券取引所の間を直線距離で最新の光ファイバーを敷設することにより、従来より0.001秒早い売買が可能となることを思い付き、退職して新会社を立ち上げる。

 大手スポンサーも見つかり、事業は順調に進むものと思われたが、元の会社の幹部による妨害工作や、土地買収の不調などにより、予定通りの進捗が難しくなってくる。さらにヴィンセントが病に倒れ、計画の実現性自体が不透明になる始末だ。

 工事予定地域には名義不明の土地や、施工が著しく制限される国立公園のエリアがあることは、事前に調べればすぐに分かるはずだ。そういう重要事項を棚上げしたまま見切り発車式に工事を始め、いざトラブルに直面してから大騒ぎするというのは、どう考えても頭が良いとは言えない。そもそも、通信速度を0.001秒短縮出来るという確証が得られないまま事業を始めるというのは、まさに噴飯ものだ。

 これではドラマは盛り上がらないと思ったのか、アーミッシュの居留区を登場させたり、主人公たちの出自を強調したりと、環境問題や人種差別問題を織り交ぜて話に奥行きを持たせようとしているが、いずれも取って付けたようで不発に終わっている。金融システムに関する説明も不十分なまま、ラストで悟りきったようなポーズを見せられても、観る側は脱力するばかりだ。

 キム・グエンの演出は平板で、盛り上がりに欠ける。ただ、キャストは健闘している。ジェシー・アイゼンバーグは口八丁手八丁のベンチャー企業家を上手く演じているし、敵役のサルマ・ハエックも憎々しくてよろしい。そして圧巻なのは、アントンに扮したアレキサンダー・スカルスガルドだ。猫背で禿げ頭の、いかにも神経質なオタク野郎が「ターザン:REBORN」(2016年)での颯爽とした二枚目ヒーローと同一人物とは思えない。役柄の広さを見せたことは、今後の仕事にプラスになることは必至だろう。
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