直木賞作家の肩書きを持つ辻村深月の作品は今まで何冊か読んでいるが、いずれもピンと来なかった。とにかくキャラクターの掘り下げも題材の精査も浅く、表面的でライトな印象しか受けない。とはいえ、私がチェックしたのは初期の作品ばかり。最近は少しはテイストが違っているのかと思い、手にしたのが2019年に上梓された本書。だが、残念ながら作者に対する認識は大きく変わることはなかった。
東京で小さな会社を営む西澤架は、30歳代後半になって本格的に始めた婚活が実を結び、坂庭真実との挙式を半年後に控えていた。だが、ある日彼女は忽然として姿を消す。かねてよりストーカーの存在を疑っていた真実の態度を思い出した架は、彼女の故郷である群馬県まで足を伸ばし、真実の過去の交際相手たちと面会する。
小説は二部構成で、前半は架の視点から、後半は真実を主人公にして進められる。第一部はまだ興味深く読める。失踪した婚約者の行方を追う中で、架は彼女の意外な経歴と人間的側面を知ることになる。地元でどういう職に就いていたのか、家族との関係はどうだったのか、なぜ上京したのか等、今まで彼が関知しなかった事柄が次々と判明する。また、当の架も婚活に踏み切った動機が幾分不純であったことが示される。
まあ、ここまでは語り口は少し下世話ながらミステリーとしての興趣は醸し出され、けっこうスリリングだ。しかし、第二部になるとヴォルテージがダウン。真実の立場やメンタリティというのは“この程度”なのかと落胆するしかなかった。とにかく、愚痴めいた言い訳の連続で、ひょっとしてこれが女性の本音として一種の普遍性を保持しているのかもしれないが、読んでいて面白いものではない。もっとエンタテインメントとして昇華するような工夫が欲しかった。
そんな調子で気勢が上がらないままページが続き、やがて脱力するようなラストが待っている。主人公2人以外に共感できる者がいればまだ救われたが、どいつもこいつも愉快ならざる面子ばかり。真実の母親や過去のお見合い相手、架の女友達など、よくもまあ付き合いきれない人間ばかり集めたものだと呆れてしまう。
もっとも“類は友を呼ぶ”という諺があるように、考えの浅い人間の周りにはそれなりのレベルの者しか寄ってこない傾向にあるというのも本当のことだろう。しかし、欠点だらけの者と傑出した人間との邂逅も実際は有り得るし、それを面白く描くのも小説の在り方だ。あられも無い本心ばかり垂れ流すだけでは、物語の体を成さない。とにかく、辻村の作品とは距離を置いた方が良さそうだ。