元・副会長のCinema Days

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「トリとロキタ」

2023-04-22 06:20:22 | 映画の感想(た行)
 (原題:TORI ET LOKITA)ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督作品らしい厳しいタッチが横溢しているが、これまでの彼らの映画に(程度の差こそあれ)必ずあった“救い”というものが見受けられない。それだけシビアな現実をリアルに活写していると言えるが、それで映画としての面白さ喚起されているかは別問題であろう。

 アフリカから地中海を渡ってベルギーのリエージュまでたどり着いた少年トリと年上の少女ロキタは、他人同士ながら本当の姉弟のように支え合って生きていた。特にロキタは情緒不安定で、しっかり者のトリとしては目が離せない。未成年の2人はビザが無いため、ドラッグの運び屋をして金を稼ぐ毎日だ。ロキタは何とか偽造ビザを手に入れるため、さらにヤバい仕事に手を染めることになる。



 アフリカでの辛い生活から逃れるためにヨーロッパに渡っても、別の意味での苦界が待っている。いくら主人公たちが子供でも、容赦しない。看過できないのは、たとえEUの本部があるベルギーのような国でも、麻薬汚染をはじめとする治安の劣化が避けられないことだ。一見何の変哲もないレストランの厨房でドラッグの取引が展開されていたり、郊外の工場がアヘンの精製所になっていたりと、実態は本当にエゲツない。

 それら社会のダークサイドにとって、トリとロキタのような年若い異邦人は絶好の餌食になる。工場で働かされているロキタをトリが探し出すパートこそミステリー的な興趣はあるが、あとはひたすら暗鬱な現状のリポートに終始する。作者はこの有様に怒りを覚えて本作を撮ったのだろうが、出口の見えない筋書きは、映画として重苦しくもある。同監督の「息子のまなざし」(2002年)や「少年と自転車」(2011年)のような、終盤に一縷の光を見出すような建付けにした方がより喚起力が増したと思われる。

 この監督の作品に出てくる若輩者たちは素人同然であるケースが多いが、この映画のパブロ・シルズとジョエリー・ムブンドゥも同様だ。しかし、存在感は格別である。アルバン・ウカイにティヒメン・フーファールツ、シャルロット・デ・ブライネ、ナデージュ・エドラオゴといった他のキャストも好演。2022年の第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、75周年記念大賞を受賞している。
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