元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「成れの果て」

2023-10-20 06:13:58 | 映画の感想(な行)
 2021年作品。先日観た加藤拓也監督の「ほつれる」との共通点が多い。2本とも男女間の恋愛のもつれを題材にした舞台劇の映画化であり、上映時間が80分台と短い。そして何より、両者とも登場人物すべてが人間のクズであることが印象的だ。しかし、映画のクォリティは圧倒的にこの「成れの果て」の方が高い。作り手の力量により、似たようなネタを扱ってもこれだけの差が出るものなのだ。

 東京でファッションデザイナーの卵として暮らす河合小夜は、故郷で暮らす姉のあすみから近々結婚する旨の連絡を受ける。ところが、その相手は8年前に小夜を酷い目に遭わせた布施野光輝だった。思わず逆上した小夜は、男友達の野本エイゴを連れて帰郷する。事前連絡無しの小夜の出現に狼狽するあすみと光輝だったが、戸惑っているのは光輝の先輩である今井や、幼なじみの雅司、居候の弓枝も同様だった。そして事態は思わぬ方向へと転がってゆく。



 小夜が被った災難に関しては具体的に言及されていないし、そもそもあすみが過去に妹とトラブルを起こした男と一緒になろうとする明確で切迫した動機が分からない。しかし、本作ではそれが作劇上の瑕疵になっていない。事の真相を明かすことよりも、それに関わった者たちの言動を描くことによって、その一件の外道ぶりを観る者に想像させようというあくどい作戦だ(苦笑)。

 物語の中心である姉妹はもとより、光輝や今井(およびその恋人の絵里)、雅司に弓枝にエイゴに至るまで、見事なサイテーぶりを披露する。ただし、ダメ人間たちを漫然と映しただけの「ほつれる」とは違い、わくわくするような面白さを醸し出しているのは、登場する連中のダメさ加減の描写が尋常ではないからだ。

 何より、誰もが心の奥底に持っているであろう負の感情に共鳴してしまうことが秀逸だ。結果として、スペクタクル的な興趣を呼び込み最後まで目が離せない。元ネタは劇作家のマキタカズオミによる同名戯曲だが、これを「ほつれる」のように原作者が映画の演出にまで手を出していないことも大きいのだろう。監督の宮岡太郎の仕事は堅実で、インモラルな題材を前にしても決してスタンドプレイに走らない。

 小夜を演じる萩原みのりは近年台頭してきた若手女優の中では、その硬質な手触りと強い目力が特長だが、ここでもその魅力は十分に発揮されている。柊瑠美や木口健太、田口智也、梅舟惟永、花戸祐介、秋山ゆずき、後藤剛範ら他のキャストは地味だが曲者揃い。皆楽しそうにクズを演じきっている。ロケ地はどこなのか明示されていないが、山に囲まれた小さな町で、それが各キャラクターの心理的鬱屈を象徴している。岡出莉菜による音楽も良い。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする