昨日、4月14日(土曜)は、慶應MCC、竹中講座のセッション2の日でした。
テーマ: 〈政治機能の改革〉 ガバナンス危機の解剖
モデレーター: 竹中平蔵先生
講師 : 船橋洋一先生 (福島原発事故独立検証委員会プログラム・ディレクター)
A.福島第一原子力発電所事故
ポイント1
a.危機が本物だった。
b.“mission impossible” の危機 (=任務遂行が不可能な危機)であった。
c.経済活動に関わる基盤そのものをゆるがせにするような危機。
ポイント2
a.認識を得る材料。
b.意思決定。
c.実行力。
他国の例
a.アメリカ
生きるか死ぬかの局面でダブルネガティブの表現はアメリカ軍では禁止されている。
ピックアップ事例
ここでは、事態を明瞭にするために、同時進行で行われた、ベント作業、電源復旧作業の記述はカットし、冷却水のみの問題を取り上げます。
a.1号機炉心冷却水の海水注入 (1)
ア)3月11日、15:37~15:42の間に1~5号機の全交流電源喪失、1・2・4号機の直流電源喪失。
イ)水位計、温度計、圧力計が機能不全に陥(おちい)り、原子炉の状態が把握不能となる。
ウ)非常用炉心冷却装置注水不能(16:45頃報告)。
エ)ディーゼル駆動消防ポンプか消防車の動力を使って、原子炉へ注水するよう指示(17:10頃、吉田所長)⇒1号機ディーゼル消防ポンプ起動(17:30頃)⇒注水ライン構成(18:30頃)。
オ)IC(Isolation Condenser 非常用復水器)は機能喪失(1号機)状態であり、炉心への注水能力はなかった。
カ)上記のような冷却の状況がつかめない中で、原子炉水位が低下し、燃料棒が露出して、炉心損傷に至った(独立検証委見解)と見られている。
キ)しかし、独立検証委の記述では、エ)の注水ラインがその注入口はどこであり、ラインはどのようなものであったか不明であり、炉心損傷は注水ライン構成前には既に起こっていたのかどうかは不明である。
ク)だが何れにせよ、溶融した燃料の発熱を抑えるために注水は必要であった。
b.1号機炉心冷却水の海水注入 (2)
ア)3月12日、原子炉圧力の低下が認められたたため、消防車を使用して(消防車の保有水量)約1tを注水(2:45)⇒消防車と消防ホース(2本)を使用して、1号機タービン建屋前の防火水槽から、消火系ラインへの連続して注水することが可能となる(5:46)。(全電源喪失から約14時間後)
イ)自衛隊の消防車2台(6:00~7:00)、柏崎刈羽原発の消防車1台(10:52)到着。
ウ)防火水槽枯渇(14:53)、(累計80tの淡水を注入)⇒海水注入を指示(14:54 吉田所長)。
エ)この時、高圧電源車を使用した1、2号機の電源復旧作業と、ホウ酸注水系を使用する注水準備が進んでいた。
オ)1号原子炉建屋で水素爆発と思われる爆発が発生(15:36)。
カ)海水注入作業中止。仮設(電源)ケーブル損傷。放射線量の高いガレキが散乱。
キ)海水注入開始(19:04)。
ケ)(海水+ホウ酸)注入開始(20:45)。
c.1号機炉心冷却水の海水注入 (3)
ア)この海水注入をめぐっては、菅内閣はその危機回避の意思決定プロセスにおいて混乱を見せ、東電本店は責任回避の曖昧(あいまい)な態度を示したことが伝えられています。
イ)3月12日、海江田経産相が東京電力に対して、口頭で炉内を海水で満たすよう命令(17:55)。
ウ)菅氏入室(18:00)、海水注入の問題点、再臨界の可能性の有無を糺(ただ)す。
エ)斑目(まだらめ)氏が、「再臨界の可能性はゼロではない」と回答。また武黒氏がホース損傷により注入には1時間半かかると報告。
オ)菅氏、ホウ酸投入など注入の再検討を指示して散会。
カ)散会後、原子力安全委の斑目氏、九木田氏、経産省の柳瀬氏、東電の武黒フェロー、首相秘書官等が集まり、対応を協議。早急な海水注入が必要であるという認識で一致。菅氏に説明する上でのリハーサルを実施。
キ)菅氏を交えて会議再開(19:40)⇒菅氏、海江田経産相に海水注入を指示(19:55)。
ク)この間、東京電力では、官邸の武黒フェローから現地の吉田所長に電話で、「首相の了解が取れていないから、注入は待ってほしい」と連絡が入り、吉田氏が本店の武藤副社長らに対応を相談されると、本店も一時中断やむなしという判断であったと言われます。また、「試験注水」という話にもなったようです。
ケ)しかし、吉田所長は、事態の重大な緊急性から、自らの責任で注水の継続を指示されました。
コ)この一連の経過は、マスコミ等の報道によってよく知られた通りです。
問題
1.この経過に対して、船橋先生から「日本のメディアは吉田氏を持ち上げるが、それで本当に良かったのか」というご発言がありました。
ご発言の真意は、アップスケールして行く危機に対する、
a.中央の実行力の不在
b.政府対応のガバナンスの弱さ
c.責任範囲の明確性
を詳(つまび)らかにし、ガバナンス危機を、刺激的な「下剋上」という言葉を使って、述べられようとされたものだと理解しています。
2.しかし、この先生のご発言には、出席者から、アップスケールして行く危機に対する、a.中央政府の実行力の不在、b.政府対応のガバナンスの弱さゆえに、吉田氏の行動は支持されるという反論が出ました。
3.逆に言えば、a.政府の実行力が明確かつ的確であり、b.政府ガバナンスが筋の通ったものであれば、一度出した命令と同じ命令を出すのに、検討と称するものに2時間も要せず、少数の会話で、吉田氏の判断は信頼に足ると判断される筋合いのものだと考えられるからです。
以下、次週。
桃
同
山吹