日々楼(にちにちろう)

古今東西・森羅万象の幾何(いくばく)かを、苫屋の住人が勝手御免で綴ろうとする思考の粉骨砕身記です。

法と正義 2

2011年11月27日 | 日記

今日は、マイケル・サンデル氏の ”JUSTICE What’s the Right Thing to Do?”(『これからの正義の話をしよう ―いまを生き延びるための哲学』 早川書房 2010.5)を俎上に上げて考えて見たいと思います。

A.俎上に上げるにあたって、次のことは押さえておきたいと考えます。
それは、a)書かれた内容はアメリカというコミュニティを対象にしたものであり、彼はその構成員に対して「為すべき正しい事とは何か」と問いかけていることです。
換言すれば、ここで扱われている内容には、基本的に、アメリカ以外のコミュニティ(例えばイスラムコミュニティ)で「為すべき正しい事とは何か」という問いかけを含んでいないということです。私達の向かうべき作業は、世界を一つのコミュニティとしてこれをやり遂げることにあります。

次に、b)サンデル氏は「正義=道徳的真理」(同書 p41)と述べていますが、前回見ましたように、正義は人間の(正しい)義による行動を意味し、人・時・場所によって異なります。例えば、日本の幕末の勤皇の志士達の義は「尊皇攘夷」・「倒幕」にありましたが、その上位の実現すべき現実は「日本の独立」にありました。
ちなみに、「攘夷」とは排他的な考え方のように捉えられがちですが、それは誤りです。攘夷とは夷=非合理を攘(はら)うという意味で、きわめて合理性に富んだ思考方法であったと考えなければなりません。この素地があったからこそ、倒幕後に、西洋の考え方の受容が一気呵成に行われました。

B.上記の留保をつけて同書を読むと、氏は、アメリカ社会が今後合意すべき規範と現実を語っています。しかし、アメリカの現実には、日本人が読んで疑問に思い、肯定できないものもあります。

a) 暴走する路面電車:この話は、ブレーキの効かない暴走する路面電車があり、前方には5人の作業員がいますが、待避線には1人の作業員しかいないシーンで、運転手はどちらの側に電車を導くか?という設問と、待避線はありませんが、事故直前の様子を目撃している読者とその傍(かたわ)らには太った男がいて、その男を橋から突き落せば電車が止まると設定されている場面がある場合、読者であるあなたが、「男を線路上に突き落すのは正しい行為だろうか?」と、問いかけます。

b) アフガニスタンのヤギ飼い:アメリカ海軍特殊部隊の秘密偵察隊4名が、任務の途中で大人のヤギ飼いと少年に遭遇しました。4名はヤギ飼いと少年を殺すか開放するか投票し、2対1(1名棄権)で解放しました。ヤギ飼い達の解放後、1時間半余で彼らはタリバン兵80~100名の部隊に包囲され、3名が戦死し、救援部隊のヘリコプターが撃墜され16名が戦死しました。

c-1) 広島・長崎への原爆の投下をアメリカが合理化するとき、a)の論理は必ず持ちだされる話です。「原爆の投下と日本の降伏によって、第3、第4の原爆投下というもっと大きな犠牲が避けられた。尊いアメリカ兵の犠牲が避けられた」。この論理には、「道徳のジレンマ」も「歴史に対する葛藤やジレンマ」も何もありません。氏は、旧日本軍の慰安婦の事実(但し、日本人の多くはこの事実を知りません)と謝罪と賠償について書き、旧日本軍の関与を日本政府が認め、謝罪することをアメリカ議会が決議したことを書いています。

c-2) この問題を含め、日本人の多くは、明治以降現代までの日本の歴史に対してジレンマと葛藤を持ち、歴史に対して誠実でありたいと願っています。そして私は一介の市井人でありますが、日本人は世代を継いでこのジレンマと葛藤を、中国・韓国・朝鮮・東南アジアの人々と共に解決していくだろうと考えています。

c-3) その前に、アメリカは何を語るにしても、日本人に対して先の大戦で犯した人道に反する罪の謝罪が必要だと思うものです。これも、アメリカ大統領が謝罪されるまで、私達日本人は求め続けます。

c-4) そしてアメリカには、”The power produces justice.”というアメリカ開拓史に由来するであろう考え方と、自己の描くシナリオに相手を従わせるという自己過信の考え方の双方があり、この態度は、先のAPECでも、TPPに関するホワイトハウスが発表した「すべての物品およびサービスを自由貿易化交渉の対象に含める」旨を野田首相が明らかにしたとするステイトメントに対し、日本の外務省がそのような発言の事実はなかったことを申し入れ、アメリカも「発言がなかった」ことを確認したことにも表れています。

c-5) アメリカも協調が必要です。その上で共有され、語られる未来があります。

d) b)の話は、アメリカ人に作戦中に遭遇した民間人は敵の仲間であると思え、そして殺せということを教えます。事実、これに類したアパッチヘリによる攻撃は、日本のテレビでも流れました。YouTubeにこの映像がありましたので張っておきます。(クリックしてください)。
これは正義の行使と言わず、非道と言います。

 

 

 

 

 

 


                         

                                       街の中の紅葉

                         

                                          

 

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