日々楼(にちにちろう)

古今東西・森羅万象の幾何(いくばく)かを、苫屋の住人が勝手御免で綴ろうとする思考の粉骨砕身記です。

「消費税廃止と200兆円の国債発行」発言の再考をお願いします

2022年01月22日 | 日記

「消費税廃止と200兆円の国債発行」発言の再考をお願いします

 

1.今年の1月9日(日曜日)、NHKの“日曜討論”で、日本の政党の代表者を招き、新年に当たってそれぞれの党が2022年の日本の課題にどのような方針で臨むのかを

問い、代表者が答えるいう番組が放送されました。

 

2.この中で、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症され、現在、自らの生命活動を今は参議院議員として発信していらっしゃる、れいわ新選組の副代表の舩後靖彦氏が登場されました。舩後氏は、消費税の廃止と、(消費税を廃止した上で彼らの政策を実施するうえで必要となるであろう補填財源として)、つい昨今アメリカにおいて話題になった

「自国通貨の発行権を持つ国はいくら借金(国債の発行)をしても破綻しない」という俗論に依拠されてであろう、200兆円の国債発行を語られました。

 

3.こうしてこのことを取り上げなければならないこと自体、とても悲しむべきことで、発言の中で舩後氏が示された気概に、私は、日本を人権大国、科学技術大国、環境大

国、そしてGDPを増加させる豊かな国にするという政治目標を掲げさせていただいております身として、理解を示させて頂くものではありますが、これは日本の社会のあり方

に係(かかわ)ります大事な論点であります故、申し上げさせて頂きます。

 

4.日本政府は、厳密に言えば、自国通貨(法貨)「円」を紙幣で発行することはできません。紙幣(銀行券)の発行は日本銀行(以下、日銀)が行います。但し、政府は、貨

幣(硬貨)を作り、日銀を通して発行することはできます。そしてここでは論点を分かりやすくするために、先ず、紙幣に限定して考えます。政府(内閣)は、年度の予算を組

み、税収に対して不足する金額を国債費として計上し、国会での審議と承認を得て、その予算を執行します。この時、この国債を日銀が引き受けることは原則としてできませ

ん。日本の財政法第五条が禁じているのです。市中で国債を買ってもらって調達します。但し、同じ財政法第五条は、特別の事由がある場合、国会の承認を得た範囲で日銀が直

接引き受け、借入に応じることを認めます。このことと、政府が貨幣(硬貨)を作り日銀を通して発行することができることを併(あわ)せて考えれば、日本政府は自国通貨

「円」の発行権を持っていると言えます。

 

5.とは言え、日本政府が限度をこえて借金を重ねますと、(例えば、現在の予算収支から消費税を廃止し、200兆円の国債を発行しますと)、この200兆円はどうやって

返済するのだという問題が生じます。廃止した消費税の収入は、物品税や他の税の新設で補わなければなりません。令和3年9月末の国債(1067兆205億円)と国庫短期

証券(152兆1954億円)の残高は1219兆2159億円です(財務省速報値)。貸し手(国債保有者)は次のようになっています。日銀:537兆9020億円、銀

行:197兆9168億円、生保損保:219兆9934億円、公的年金:44兆8029億円、年金基金:30兆7148億円、海外:163兆6522億円、家計:13兆

680億円、その他:9兆928億円、公的年金を除く一般政府:2兆730億円。シンプルに考えて、ここに200兆円が加算されます。その前に日本の家計と企業の資産

(貯蓄+株式等の金融資産)状況を見ましょう(2021年第3四半期〔9月末〕)の資金循環 速報 日銀調査統計局)。家計:1999,8兆円、企業:1250兆円。同じ

く負債を見ます。家計:362兆円、企業:1901兆円です。資産-負債は、家計:1637,8兆円、企業:-651兆円となります。企業の体力は思うほど頑強ではあり

ません。新型コロナウイルスによる影響が出ているものと思われます。次に、家計(世帯)の所得分布を見ます(厚労省、所得の分布状況〔平成21年調査〕)。平均所得が5

47万5千円で、中央値が427万円です。但し、日本の所得分布は、中央値より少ない方に山がある分布が続いています。その分布は、100万円未満:6,6%、100~

200万円:12,7%、200~300万円:13,9%、300~400万円:13,3%です。この所得分布は、何年か前に書いた所得分布と何も変っていません。40

0万円未満の所得に日本の家計(世帯)の46,5%が分布しています。400~500万の所得分布が、10,0%です。この所得分布で、日本の世帯の実に56,5%が5

00万円未満の収入でやり繰りし、この中の400万円未満の世帯の生活の姿が見えてきます。その様子を思うと悲しみを覚えます。私の発言の基盤もここにあります。国民は

豊かにならなければなりません。

 

6.次に、消費税の廃止を考えます。現在の政府予算から消費税を廃止した場合、如何に政府予算が縮小して行くかを示した計算は、既にこのブログの2021年11月30日

の記事「選挙と公約」において行っています。舩後氏は、200兆円の国債を、(放送時間が短かったためと思いますが)、どのように発行するか、例えば単年度で発行するの

か、数年度に亘(わた)って分割するのか、返済はどうするのか、その財源はどうするのか、語っていらっしゃいません。現在の通貨「円」は信用通貨です。この信用が衆目一

致して認められるためには、政府予算の収入と支出は均衡していなければなりません。通貨の信用は、その国が生み出す財とサービスの生産力に裏打ちされています。このこと

を別の言葉で示しますと、日本で作る1万円の財とサービスはアメリカで作られる100ドルの財とサービスと等価である生産能力が時間的継続性を持って維持できることが必

要だということです。この均衡のためにも、政府は信用されていなければならず、予算は均衡している必要があるのです。舩後氏の200兆円は、この均衡を破るものにしか私

には思えず、再考をお願い申し上げます。

 

7.フリードマンという著名な貨幣供給と経済成長の関係について研究をされたマネタリストの学者がいらっしゃいます。フリードマンは、「貨幣供給量と経済規模は相関関係

にある」という自説に基づき、毎年、貨幣を一定の割合で供給する「X%ルール」を説かれました。日本のアベノミクスは、貨幣供給量を増加させる(政府予算の増額)という

点で、マネタリズムと金融政策をミックスした政策であるだろうと、私は考えています。しかし、貨幣供給のバランスを欠いた過多が続くことは、第一次大戦後のドイツを思い

起こさせます。ドイツは超インフレとなり、ここからナチスが台頭いたしました。アベノミクスは、家計の資産(2021年第3四半期〔9月末〕の1999,8兆円の内訳、

現金預金:1072兆円、証券:335兆円、保険・年金・定型保証:539兆円、その他:54兆円)を増加させました。しかし、所得分布は変えませんでした。ここでこの

所得分布の底上げを図(はか)るために一つの思考実験を行って見ましょう。これはフリードマンの発想によるもので、今では「ベーシックインカム」として知られているもの

です。先の5で見ました日本の所得分布において500万円未満の世帯に年間100万円をベーシックインカムとして給付を行うとしたらどうでしょう。日本の世帯数は202

1年で約5950万(総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」)です。この56,5%がベーシックインカムノの対象となります。約3362万世帯です。

必要な給付額は約33兆7000億円となります。そして、この給付金の使途は、貯蓄や投資に回してはならず(但し、自衛隊と海上保安庁の隊員、保安官、学生、生徒は除き

す)、保育園、幼稚園、中学、高校、各種学校、高専、大学、大学院等の学資を含む消費(財・サービスの購入)に充(あ)てるものとし、一年での使い切りとします。20

21年11月30日の「選挙と公約」で書きました日本の税収は60兆8216億円です(計算を容易にするために60兆8000億円とします)。60兆8000億円-33

兆7000億円=27兆1000億円が政府の正味予算となります。国債の償還費23兆7588億円は国債の発行で充当します。何れにしても政府を小さくせざるを得ませ

ん。これでGDPを増加させることができるのでしょうか? 消費は増えます。消費が増えれば生産も増えます。その前に、不労人口が増え、生産人口が減る、働くことに対す

るモチベーションが失われる、生産人口が不労人口を養っているようなものだ、というような声が上がることでしょう。しかし、大切なことは、この制度が、国民の合意を得

て、持続可能な社会として定着するかにあります。この制度での政府予算は、防衛・文教科学振興・公共事業費を除く社会保障・地方交付税交付金・その他の金額は小さくなり

ます。これに耐えられない人もいらっしゃるでしょう。しかし社会は確実に変わります。そしてこの社会に課せられたもう一つの大切なことは、人々が、次の社会を生みだす

化・科学、技術、システム革新と創造に取り組み続ける動機と情熱を持ち続けられるかにあり、地方を活性化できるかにあります。そしてこの精神風土を持ち続けることにあり

ます。

 

8.今日は、HNK討論で舩後氏が発言された「消費税廃止と200兆円の国債発行」に対して、異なった視点の論点を提出させていただきました。この論考では、消費税の廃

止はできませんと申しております。そして再考をお願い申しております。皆様にこの論考を深めて頂きますようお願い申し上げます。

 

 

                 青空の月(1月)

 

 
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