日々楼(にちにちろう)

古今東西・森羅万象の幾何(いくばく)かを、苫屋の住人が勝手御免で綴ろうとする思考の粉骨砕身記です。

中学生、高校生のための自由主義講座 15 -用兵を考える-

2018年08月27日 | 日記

用兵を考える

 

A.用兵って何だ?

 

1.用兵とは戦いに勝つための戦力の使用方法です。戦いに勝つとは、敵に勝(まさ)る火力・兵力で

敵を撃破し、敵の火力・兵力を分散させ、常に敵に勝る火力・兵力を集積して、標的とする敵を撃破し

続けることです。用兵とはその方法です。そして、その原則は、今書いたように、とてもシンプルなも

のです。

 

2.「中学生、高校生のための自由主義講座」としてこのことを書くのは、日本の八月は先祖供養の盆

と先の大戦での敗北が重なり、鎮魂の八月となり、戦争の悲惨さを悼む月なりますが、日本全体が悲し

みや悔恨に留まり、それ以上を語ろうとする人は少ないと思うからです。

 

3.用兵の原則に立てば、日本が仕掛けた先の大戦は、如何に無謀なものであったかが分かります。

旧日本軍が展開した延び切った戦線は、その補給路を断つことは容易であり、補給路を断たれた軍事拠

点は、相手にとって容易な集中攻撃の対象となり、撃滅の対象となります。こうして旧日本軍は次々と

「玉砕(ぎょくさい)」して行きました。兵士たちにとって、それは、自分は死ぬための戦いであり、

生存(生きることの全て)を託したのは故国の妻子、親や兄弟でした。「特攻」もそうでした。私たち

は、自由主義者として彼らの思いを託された存在であることを知らなければなりません。また同時に、

私たちは、旧日本軍が行った戦争行為や用兵、「特攻」のような用兵を許してはならないのです。

 

B.スポーツにおける用兵の例

 

1.スポーツにおける用兵の例として、今年の8月11日に行われた第16回世界女子ソフトボール選

手権準決勝の日本対アメリカ戦を取り上げます。

 

2.この試合において、日本チームは、先発ピッチャーは藤田投手で、3回終了時にはアメリカチーム

のエースを打ち崩し、3対0で3点リードしていました。

 

3.日本チームは、この試合に勝てば明日夜の決勝に進み、順位は2位以上が確定します。負ければ、

明日午後の3位決定戦に回り、3位決定戦に勝って、同日夜に行われる決勝戦で、再びアメリカチーム

と対戦することになります。

 

4.用兵の原則に従えば、日本チームはこの試合に戦力の全てを注いで勝ちに行かなければなりません。

しかも、日本チームには、相手打線を抑えることのできる上野投手がいます。上野投手も投球練習を行

っていました。他にも勝股、浜村と言った若い投手がいます。しかし、試合は、藤田投手の続投で進み、

延長戦に入った8回に1点を失い、3対4で負けてしまいました。対するアメリカチームは、エースの

アボット投手が打ち込まれて3点を失った後は、投手を総動員し、短いイニングで交代する戦法を取り、

日本チームの打線を0点で抑え込みました。

 

5.ここには、日本チームの用兵の誤りがあります。第一に、試合は3点リードしており、藤田投手か

ら上野投手、勝股、浜村投手に継投すれば、勝てた試合であったこと。第二に、この試合に日本チーム

が勝てば、翌日はアメリカチームが3位決定戦に回り、アメリカチームはその試合に勝って再び日本チ

ームと対戦することになり、日本チームの各ピッチャーの疲労は、アメリカチームの各投手の疲労に比

べて少なくて済み、決勝において有利であるにもかかわらず、この機会を失ったこと。

 

6.3位決定戦は、上野投手が先発完投し、カナダチームに3対0で勝ちました。同日夜に行われた決

勝では、再びアメリカチーム相手に、上野投手が登板力投し、疲労の蓄積が目に見えて分かる上野投手

が最後に3点を失い、6対7で負けました。ここにも日本チームに用兵の誤りがあります。第一に、同

一の対戦相手に対して、勝つ機会のあった前日の試合に上野投手を登板させず、二連投となる翌日の

14:00からと19:00からの2試合続けて上野選手を登板させ、負けが決まるまで連投させてい

ること。これではどんなスーパースターでも、国を背負った国際試合で優勝を争うような相手チームに

対しては、打ち込まれてしまい、上野投手の心身に疲労が蓄積するリスクの方が大きいこと。これに対

して何らかの方策がとられる様子は全く見えなかったこと。第二に、日本チームは先攻で、6回に同点

に追いつき、8回と10回にそれぞれ1点と2点を取り、その裏のアメリカチームの攻撃を抑えれば、

勝つという勝機はあったにもかかわらず、上野投手以外のピッチャーを投入しなかったこと。そのため、

10回の裏に上野投手が3点を打ち込まれて、日本チームは準優勝に留まったこと。対するアメリカチ

ームは、決勝も準決勝と同様、投手の細かい継投で、日本打線をしのぎ、上野投手を打ち崩すという戦

法を取ったこと。そして優勝しました。

 

7.用兵という視点でソフトボールを見ても、アメリカの方が日本より遥かに長じていました。この講

座で用兵と言えば、これは軍国主義者だと言いたがる人たちがいるのも事実だろうと思います。しかし、

自由主義者の用兵とはどのようなものであるか、私たちは考えなければなりません。用兵という考え方

は、社会や国家が危急存亡の時を迎えようとする時、それを未然に防ぎ、合理的選択や方策を施すにあ

たっての一助ともなります。

 

8.用兵という視点が諸君の思考の一助になればと思い、戦後73年の夏にこれを記します。

 

 

付記:日本女子ソフトボールチームは、現在、インドネシアで行われているアジア競技大会において、

優勝されました。おめでとうございます。

 

 

                                            8月9日 長崎原爆忌の日に

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