日々楼(にちにちろう)

古今東西・森羅万象の幾何(いくばく)かを、苫屋の住人が勝手御免で綴ろうとする思考の粉骨砕身記です。

安倍総理に申し上げます

2016年08月17日 | 日記

安倍総理に申し上げます

 

謹啓

1.総理は、第25代自民党総裁に就任されまして以来、四回を数えました国政選挙にはすべて勝利され、平成24年12月26日には2度目の総理大臣に就任され、以来、その赴かれるところは世

界に及び、日本を牽引されて来ました御活躍は誰しも認めるところであります。

 

2.日韓関係は、昨年の末(12月)には、慰安婦の問題につき、日韓両政府は「最終的かつ不可逆的解決」の合意を得ました。韓国が設立する元慰安婦の人たちを支援する基金への日本の拠出金・

10億円も8月中に支出できると報道されています。日中関係は、習近平総書記が、安倍総理に、「2度会うときは友人だ」(平成26年11月の首脳会談、於・北京人民大会堂)と言われるまでに

なり、2015年4月には、再び、ジャカルタで会談を行われ、今後、両首脳が会談を行われる命脈は保たれています。また、他の中国首脳との命脈が保たれていることは言を待ちません。

 

3.しかし、日中間には新たな懸案が生じたと、私は考えております。それは、8月1日に組閣されました防衛大臣人事です。この人事は、総理が今まで積み上げられてきました外交上の功績を水泡

に帰し、日本が今後も自国とアジアの歴史認識をめぐり、中国をはじめとするアジア諸国から、そこに生じたひとつひとつの事実をめぐる問題の責任を問われる――これを、歴史の呪縛と呼ぶなら

ば、――この呪縛が、再び、日本の発展の阻害要因として作用する新たな火種となるであろうと、私は思っています。

 

4.どのように言上申し上げるか、申し上げるべきではないかと、非常に思案致しましたが、迷った末に、やはり阿呆の役回りに徹すべきだろうと存じ、申し上げさせて頂きます。

 

5.日本に「100人斬り訴訟」というのがあります。この訴訟は、日本国内の訴訟ではありますが、舞台が中国本土であります故に、中国の歴史認識と抵触します。そして、中国からすれば、容れ

られないものです。中国の立場に立てば、中国は、アヘン戦争(1840年)後から続いた苦難の歴史の中で、中華民国成立(1912年)後も、国内を1928年まで統一することができず、その

後は、第2次国共合作(1937年)前の国民党政府と共産党との内戦期に入ります。このような中国の混乱期の中で、1931年、柳条溝(湖)事件(満州事変)→1932年、清朝最後の皇帝、

溥儀氏を執政(後に皇帝)とする満州国建国→1932年1月、上海事変→1937年7月、盧溝橋事件(日中戦争の始まり)→1937年12月、日本軍の南京入場と、日中間の軍事衝突が続きま

した。「100人斬り訴訟」の対象である「100人斬り競争」の報道は、このような日中間の軍事衝突の最中(さなか)である1937年12月13日、東京日々新聞に掲載されました。そして、

これを書くにあたって私は、東京日々新聞の記事となり、中国の地で、日中の平和を願い犠牲となられた野田少佐、向井少佐(共に復員時の階級)はお気の毒だと思い、67年余の日を経ても尚、深

い哀悼の意を表します。と同時に、旧日本軍の犠牲となり呻吟しておくなりになった当時の中国の人々に対し、深い哀悼と悲しみの気持ちを心より表します。そして、現在の「侵華日軍南京大

虐殺遭難同胞記念館」のホームページの「歴史的写真資料」に掲載されている野田少佐、向井少佐の写真を撤去することを、ご遺族のお気持ちへの人道上の配慮から、中華人民共和国政府に求めま

す。

 

6.当時の当事者は中華民国です。現在は、中華人民共和国が引き継いでいます。現在の中華人民共和国に残っている、当時の日本軍が南京を攻略した時の状況を示す写真は少ないものと思われま

す。しかし、中華人民共和国にとって、東京日々新聞の記事は、当時の敵国日本が戦場を中国本土において、そこに臨む軍人と従軍記者の意識の在り様を伝えるものであり、貴重な戦争資料となって

いることは否めません。現在の中華人民共和国の歴史認識は、このようなもろもろの旧日本軍から被(こうむ)った被害の意識に併せて、中華民国に勝利し、中華民国に認められていた対日戦争勝者

の地位を自らが引き継いでいるという意識によって構成されています。

 

7.今まで、「100人斬り訴訟」が外交上の問題となったことはなかったと記憶しています。しかし、今般、この訴訟を弁護主張された弁護士が防衛大臣の職に任ぜられました。

中華人民共和国は、これを、自らの歴史認識に対する挑発と受け留めるでしょう。

 

8.事実、中華人民共和国は、組閣日の8月3日、230隻の漁船と、3隻の巡視船を尖閣列島の領域に送り込み、それ以降、巡視船の数を増やして常態化させています。北朝鮮は、8月3日、ノド

ン級ミサイルを秋田県沖の日本の排他的経済水域内に着弾させました。

 

9.「100人斬り訴訟」について更に言を重ねます。本訴訟の弁護団の弁護の主旨は、東京日々新聞の記事は創作であるという所にあります。記事は創作であり、創作の記事を掲載することによっ

て、野田少佐、向井少佐と御遺族の名誉を傷つけたという論旨です。そこで私は、この論理を少し敷衍(ふえん)してみようと思います。日本は日中戦争から南下を続け、第2次世界大戦へと突入し

て行きます。そして、戦局が悪化してからの大本営発表は、国民を欺くものが多かったことはよく知られたところです。では、この大本営発表と、大本営発表を国民に伝えた全ての報道媒体は、戦死

者、及び、開拓民、引揚者、空襲犠牲者、沖縄地上戦の犠牲者、そして国民の名誉を棄損したという論理は成立しましょうか? そうはならないと思います。国民の意識もそうなって来ませんでした。

 

10.しかし、大本営はだらしない、新聞、ラジオ、全ての報道媒体は虚偽を伝えて、結果、国土は焦土と化し、引揚者は辛苦の限りを尽くし、空襲や沖縄地上戦では幼い無辜の命がその命を全(ま

っと)うしないまま犠牲となり、そして、国民は極貧に陥り、国民の名誉は著しく棄損されたと、考える人がいるかも知れません。その人は次にどのような国家を作ろうと考えるのでしょうか?それ

は誤らない国家、完全無欠の無謬国家の理想像が一つの選択肢として考えられます。それは現実には存在しないプラトンのイデアに似た超国家です。このような国家は存在しませんが、頭の中には存

在させることができます。そしてこの超国家の魂を靖国神社の英霊に求めることができます。英霊主義国家の出来上がりです。お断りいたしますが、これは、こういうことも考えられるという、私の

思考上でのひとつの試みに過ぎません。また、私が、この超国家の英霊主義者である訳ではありません。私は自由主義者です。そして、これを私は、私達が前へ進んで行くためのひとつの材料として

提出しています。

 

10.超国家英霊主義の道は、日本が孤立して行く道です。これを避けなければなりません。しかし、中華人民共和国の指導者たちには、日本はこのような道を歩もうとしていると考える人がいると

思われます。それ故、繰り返し歴史認識の確認を求めてきます。韓国もそうです。指導者はこれに誠意を尽くして応じられなければならないと、私は思います。

 

11.日本は一国では存在し得ません。自明の理ですが、日本ではしばしばこの自明の理が忘れられた振る舞いがしばしば見られます。苦難を負うのは国民です。これをお忘れいただいては困りま

す。

 

12.安倍総理に御願い申し上げます。

ア.現在、自民党では安倍総裁の3選を可能とする論議が出ています。これをお止めいただき、残りの任期に全力を注いで頂きたく存じます。そして、後継者を指名されるこや、総裁候補として特

定の議員の名を挙げられることもお止めいただきたく存じます。総理は、組閣前、入閣が取りざたされている議員について報道陣が行った質問に答えられて、「総裁候補であり、(総理と)(思想)

信条が近い」と述べられました。これなどは、総理が、一国の総理の戒めを忘れられ、兜の緒をゆるめられた証左とお見受けいたしました。

 

イ.中華人民共和国との対話を開いて頂きたく存じます。彼らはおそらく拒むでしょうが、彼らと善隣友好の道を歩むことを、対話を通じて共通の意志として頂きたく存じます。一夜にして状況が変

わってしまった今では、これは、総理が果たされなければならない仕事になったものと存じます。

 

ウ.失礼を顧みず申し上げております。御寛恕いただきたく存じます。

                   謹白

 

文責:前田子六(正治・まさはる)

e-mail : shouji_zen@ybb.ne.jp

 

 

                                                           

                                                           夏の青空

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