日々楼(にちにちろう)

古今東西・森羅万象の幾何(いくばく)かを、苫屋の住人が勝手御免で綴ろうとする思考の粉骨砕身記です。

中国の一帯一路

2017年06月23日 | 日記

 中国の一帯一路

 

A.中国の一帯一路構想

 

1.この構想はとてもスケールの大きいもので、このデザインは、中国習近平氏の着想

と共に、今まで中国が改革開放によって市場経済と外国資本を取り入れ、都市の古い

街並みをモダンな外観の高層ビル群へと一新させた発展の実績をベースに語られている

構想です。換言すれば、中国の、失敗も多々ある中での成功体験に基づく構想と言え

ます。

 

2.こういった構想は何も目新しいものではありません。昔、世界が帝国主義の時代に

あった時、列強諸国は世界中に植民地を求め、世界を自国の経済圏にブロック化して

行きました。日本も「大東亜共栄圏」という構想を持っていました。しかしこうした

「構想」は、第二次世界大戦後は誤りであると世界の人々が気付き、植民地の人々は

次々と独立し、国連に加入し、現在の国連を形作りました。

 

3.現代の中国が描く「一帯一路構想」と、昔の帝国主義諸列強が描いた経済圏「構

想」とは、違いがあるのでしょうか? また、「一帯一路構想」の経済プロジェクトを実

施する経済主体はどの国、或いは、誰なのでしょうか?考えてみましょう。

 

4.先ず、現代と昔の帝国主義時代の工業生産力には格段の差があります。この生産力

の差=現代の巨大な生産力が現代世界の形(在り方)と性格を決めていると言っても

過言ではありません。現代の巨大な生産力は、世界をブロック化して閉鎖的な市場とす

ることを困難とします。中国の改革開放の成功と現在のGDP世界第2位の地位はこ

の世界の巨大な工業生産力があって可能となりました。同時に忘れてならないのは中国

を「世界の工場」とまで言われるまでにした中国国民の能力の寄与です。現代の工業

生産力が生み出す製品群は、流通に制限がある閉鎖的な市場を好みません。そのため、

アメリカにアメリカ第一主義を掲げ、保護主義的な政策を掲げるトランプ大統領が誕

生した途端(とたん)、かって社会主義国であることを標榜し、実際にもそうであった

中国が自由貿易の擁護を口にし、自由貿易の旗手として振る舞おうとするには、理由

があるのです。お分かりのように、昔の帝国主義時代の経済圏「構想」は、工業生産力

に限度がある時代のもので、その市場は閉鎖的なものへ向かわざるを得ませんでし

た。現代の広域経済圏構想は、この教訓を生かしてデザインするものでなければなりま

せん。

 

B.ロイターのリポート

 

1.今年(2017年)、6月16日にロイター(Web)が、パキスタンの同国初の

高圧送電網建設について、その概要をまとめたDrazen Joric記者のリポ

ートを載せています。それによれば、プロジェクトの概要は、南部(海岸線から150

kmほど入った所)のマティアリ近郊に発電所を建設し、そこから約878km離れ

た北部のラホール地域に給電するというもので、この配電網を中国の国有企業である

「国家電網」が現地企業と合弁を組み、1260億ドルで受注、この内、変電所の建設

費は12,6億ドル、工期は27か月というものです。

 

2.また、変電所の建設は、GE(ゼネラル・エレクトリック社)が8億ドル、工期4

8か月で見積り、それに対し国家電網の当初見積りは17億ドル(受注時の価格は1

2,6億ドル)、工期27か月であったが、パキスタン政府は工期の短さを選好し、国

家電網を選んだというリポートでした。

 

3.そして、リポートは、①.「建設費用は、国家電網が利用者から料金を徴収す

る」。②.「パキスタン政府は料金にかかる7,5%の源泉徴収税を25年間免除す

る」という契約の内容を伝えています。

 

 C.疑問

 

1.この契約は、パキスタン政府と中国の国有企業・国家電網の契約です。また、ロイ

ター記事からは、工事に伴うパキスタン政府と国家電網による工事代金の借入、支払

い等の資金の流れの明細は不明です。しかし、にもかかわらずここでは疑問が生じま

す。それは、中国の企業である国家電網がパキスタンの利用者から料金を徴収するとい

う点です。パキスタンは主権国家です。そこにあって、電気という公共財の使用料金を

パキスタン政府が工事を発注した中国の企業が徴収するというのは、昔、植民地にあ

って宗主国がやったのと同じ構図ではないかと思うのです。

 

2.だがしかし、日本でも電力事業への参入を自由化し、参入した事業者は、自分が供

給する電気の料金を利用者から徴収します。これと同じなのでしょうか?

 

3.どうも違うように思います。広域間経済協定として、私達はTPPを知っていま

す。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)は、現在、アメリカのトランプ大統領が

離脱を表明しましたが、何年もかけてアメリカを含む12か国が交渉し、取りまとめた

政府間の協定(契約)です。RCEP(アールセップ、東アジア地域包括的経済連

携)もありますが、こちらはまだ合意に至っていません。これらと中国が提唱している

一帯一路を比較すると、一帯一路構想は、その多国家間の協定交渉が行われたという

ことを私達が知らない(ということは、多国間交渉が行われていないということを意味

します)という点で、異なります。

 

4.いろいろと考えての結論として、中国の一帯一路構想は、中国の開発計画であると

言ってよさそうです。そのために中国は二国間交渉をやっているようです。先日は、

インドが、自国の主権にかかわる問題で、先月(5月)北京で行われた一帯一路国際会

議に出席しなかったというニュースがありました。また、カザフスタンとの国境、新

疆ウイグル自治区の都市ウルムチから西へ約590kmの所には「国際経済貿易特区」

であるホルゴスという町を作りました。

 

 D.日本のスタンス

 

1.総じて日本は、中国の一帯一路に対して、相手国の主権を尊重し、相手国の産業を

育成し、人材の育成に貢献する社会デザインを提示する二国間交渉に臨むというスタ

ンスを取ることで良さそうです。また、「ユーラシア大陸パートナーシップ協定(仮

称)」(当然、中国、ロシアを含みます)のような協定を取り結ぶ交渉を呼びかけても

良いと思います。そしてTPPは、離脱を表明したアメリカに現在の地位を保全し、再

加入すれば条項変更の提案権を持つ特別オブザーバーの地位を与える条項を作り、協

定発効の条項を変更して、協定を発効させるべきです。アメリカの新しい産業を作り出

す能力とその工業生産能力の高さを考えれば、アメリカは必ず戻ってきます。

 

 

                 

                                     6月の夕光   

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする