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トヨタのリコール放置問題と「行政処分」

2006年07月21日 21時48分11秒 | 法関係
最近非難の多い企業不祥事ですけれども、トヨタも同じ道を辿ってしまいました。これについては、まあ色々とあると思いますが、今回の一件は行政庁のとった措置はどうであったのか、ということについて考えてみたいと思います。


Yahooニュース - 毎日新聞 - トヨタリコール放置 国交省が業務改善指示

(記事より一部抜粋)

トヨタ自動車(愛知県豊田市)がレジャー用多目的車「ハイラックスサーフワゴン」のリコール(回収)を放置したとして幹部ら3人が書類送検された業務上過失傷害事件で、国土交通省は21日、トヨタの滝本正民副社長を呼んで業務改善を指示した。社内の安全情報の共有に問題があったことが明らかになっており、リコール担当部署と他部署との連携強化などを求め、8月4日までに再発防止策を求めた。




これを取り上げたワケは、各種報道では「業務改善指示」という風に伝えられていた為、「おや?」と思ったからです。
『指示』ですか。「命令」ではなく。これって、どんな違いがあるのかな?と思いました。そこで、まず根拠を調べることにしました。

国土交通省の(ちょっと探し難い)HPで見たら、ありました。
「欠陥車関連業務に係る業務改善指示について」ですと。


これによれば、「道路運送車両法第63条の4」によるものとされています。で、条文は次の通り。


(報告及び検査)
第六十三条の四  

国土交通大臣は、前二条の規定の施行に必要な限度において、基準不適合自動車を製作し、若しくは輸入した自動車製作者等若しくは基準不適合特定後付装置を製作し、若しくは輸入した装置製作者等又は前条第一項の規定による届出をした自動車製作者等若しくは同条第二項の規定による届出をした装置製作者等に対し、その業務に関し報告をさせ、又はその職員に、当該自動車製作者等若しくは装置製作者等の事務所その他の事業場に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。

(以下略)


この条文の主な意味は、他の色んな法律にもある「報告を徴したり、(立入)検査したり、質問したり」できる権限を規定するものであり、金融庁の銀行検査や保険会社検査とかも同じようなものですね。そういった「行政庁の権限」を規定しているものと思います。ですので、「報告させることができる」という権限に基づいて、自動車会社に「報告せよ」という「行政処分」を下したということになると思います。でも、ちょっと変ではないかと思いました。「報告させる」のと、行政庁が改善の為の「指示」を行うことは全く別の行為ではないかと。少なくとも、「第63条の4」の規定は、行政庁が「指示」するということには関係ないと思われます。


「欠陥車~業務改善指示について」の文中に出てくる、1と2がありますが、「~その後の市場監視を行うこと。」「~強化すること。~取り組むこと。」という風に、行政庁が企業に行為を求めている訳で、これは報告・立入検査・質問権限とは別でしょう。報告の提出を命ずる処分であるならば、「~~について、報告すること。」(上の段の方に「~8月4日まで報告されたい。」と出てますね)だけで済むはずです。このように、付随する意見を付けるやり方というのは、どういうことなんだろうか?と思いますよね。


金融庁などの場合には、会計監査法人とか銀行、保険、貸金などに軒並み「業務改善命令」を出した訳ですが、これらは法律に基づく「命令」であって、行政手続法「第2条の八号のイ」に規定される「処分」ということであると思われます。近頃は、これが大体多いんですよね。ところが、「報告の提出を命ずる処分」というのは、行政手続法の適用除外となる規定とされており(行政手続法第3条十四号)、今回報告の提出を求めた国土交通省の「業務改善指示」がこれに当たると思われます。何で、「業務改善命令」を出さなかったのか?何故「指示」だったのか?という疑問が湧いて来るのですね(笑)。まあ、先に答えを言えば、「どうせトヨタだからさ」、と思ったわけです。


実際にどういった措置があるか見ると、次の条文がありました。

(改善措置の勧告等)
第六十三条の二  

国土交通大臣は、前条第一項の場合において、その構造、装置又は性能が保安基準に適合していないおそれがあると認める同一の型式の一定の範囲の自動車(検査対象外軽自動車を含む。以下この項及び次項並びに次条第一項から第三項までにおいて同じ。)について、その原因が設計又は製作の過程にあると認めるときは、当該自動車(自動車を輸入することを業とする者以外の者が輸入した自動車その他国土交通省令で定める自動車を除く。以下「基準不適合自動車」という。)を製作し、又は輸入した自動車製作者等に対し、当該基準不適合自動車を保安基準に適合させるために必要な改善措置を講ずべきことを勧告することができる。

2  国土交通大臣は、前条第一項の場合において、保安基準に適合していないおそれがあると認める同一の型式の一定の範囲の装置(自動車の製作の過程において取り付けられた装置その他現に自動車に取り付けられている装置であつてその設計又は製作の過程からみて前項の規定により当該自動車の自動車製作者等が改善措置を講ずることが適当と認められるものを除く。以下「後付装置」という。)であつて主として後付装置として大量に使用されていると認められる政令で定めるもの(以下「特定後付装置」という。)について、その原因が設計又は製作の過程にあると認めるときは、当該特定後付装置(自動車の装置を輸入することを業とする者以外の者が輸入した特定後付装置その他国土交通省令で定める特定後付装置を除く。以下「基準不適合特定後付装置」という。)を製作し、又は輸入した装置製作者等(自動車の装置の製作を業とする者又は外国において本邦に輸出される自動車の装置を製作することを業とする者から当該装置を購入する契約を締結している者であつて当該装置を輸入することを業とするものをいう。以下この条、次条第二項から第四項まで及び第六十三条の四第一項において同じ。)に対し、当該基準不適合特定後付装置を保安基準に適合させるために必要な改善措置を講ずべきことを勧告することができる。

3  国土交通大臣は、その原因が設計又は製作の過程にあると認める基準不適合自動車又は基準不適合特定後付装置について、次条第一項の規定による届出をした自動車製作者等又は同条第二項の規定による届出をした装置製作者等による改善措置が講じられ、その結果保安基準に適合していないおそれがなくなつたと認めるときは、第一項又は前項の規定による勧告をしないものとする。

4  国土交通大臣は、第一項又は第二項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた自動車製作者等又は装置製作者等がその勧告に従わないときは、その旨を公表することができる。

5  国土交通大臣は、第一項又は第二項に規定する勧告を受けた自動車製作者等又は装置製作者等が、前項の規定によりその勧告に従わなかつた旨を公表された後において、なお、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかつたときは、当該自動車製作者等又は装置製作者等に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。



非常に長々と条文には書いてあるんですけど、大雑把に言うと次のようなことです。

まず第一項は、「基準不適合自動車」(リコール対象になってしまうような自動車ということ)のおそれがある場合には、改善措置を講ずるように「勧告」できる、ということです。要は、メーカーに「ちゃんと直しなさいよ」と勧告することができるということです。

第二項は、自動車に取り付ける後付装置の基準に関して、不適合となるおそれがある場合に、同様に「勧告」できるということです。この二つの規定によって、メーカーに「直して下さい」と行政庁から言うことができるのですね。

問題は第三項で、次条(第六十三条の三)の届出(=リコールの届出)規定によって届けているメーカーが、改善措置(リコールして、全部修理する、ってこと)を講じた結果、保安基準に適合するようになる(=全部直った)ならば「勧告」はしませんよ、ということです。企業が自ら申し出て、修理を済ませば、「勧告」は逃れられるんですよね。

で、第四項では「勧告」に従わない場合には「公表」するぞ、第五項は、「公表」されてもまだ逆らって無視してるなら「命令」できるぞ、ということです。つまり「勧告」に至らない場合には、「公表」や「命令」になることはない、ということになります。


解釈の問題もあると思いますが、第三項の届出している場合に、「おそれがなくなったと認めるときは、勧告しない」ということですので、「(修理が全部済んでおらず)おそれのある間」は「勧告」してもいいのではないか、とも思えます。もしも「勧告」すると、「届出したのに何でだよー!」とメーカーからは恨まれる可能性がありますが(笑)。


初めに戻って、今回の「業務改善指示」というのは何なのか、ということになりますが、「指示」という行政処分(?)の明確な規定は発見できないのでよく判りません。が、強いて推測を言えば、「行政指導」の一種ではないかと思われます。「行政指導」は、行政手続法第2条の規定によれば、「行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。」とあり、一定の作為を求める「指導」「勧告」「助言」「その他の行為」のうち、「指示」がいずれかに該当しているのではないかと思われます。「勧告」だと第四・五項規定に連結していくので、「指示」は「勧告」とは違うかもしれませんけど。上記第63条の規定からすると、「勧告」一歩手前、みたいな感じだろうと思います。


他の色々な法律にもありますが、「~必要な措置を命ずることができる」とか「~改善を命ずることができる」という、行政処分のうち執行強制力の働く「命令」が道路運送車両法にはないんですよね。あるのは「勧告→公表→命令」という不服従の流れに乗ってる場合のみ。本法の命令規定は、「報告・検査・質問」規定だけなんですね。従って、「報告せよ」という「命令」を出して、一緒に「業務改善指示」という曖昧な表現にしているのは、「行政指導」の単なる「お願い」と同じ扱いではあるけれど、(出してる方の)気分は「命令」に近いと思われます。一見「指示」というと、強い口調みたいな感じがあるからなのかもしれませんね。「監督の指示に従え」みたいな使われ方ですし。これでも、強制力は一切ないんですけど。


因みに、リコールの届出をすると自動的に報道されているし実質的に「公表」と同じですので、「勧告→公表→命令」というのは無効なのと同じではないかと思ったりしますけど、どうなんでしょうか?リコールの届出をしないと「勧告」を受けてしまうかもしれませんが、別にいきなり「公表」される訳でもないんですよね、元々の制度的には。現実的に考えると、行政庁による「指示」(お願い)よりも、報道などで公表されてしまうことで「会社の信用に傷がつく」という方が、強い強制力として働いているかもしれませんね。


国土交通省が、(癒着関係の)自動車業界とかトヨタに遠慮したのかも(笑)、と思ったのですが、本当は命令規定が無かった、ということなんですね。勉強になりました。調べなければ、「あ~あ、どうせトヨタさんだからでしょ?ワザとらしいんだよ!」とか思ってしまうところでした。暫く前に、ランクルのリコールとか「コソーリ」出てたしね。目立たないようにしてたのに、今度ばかりはダメだった、ということですね。