ある地方紙にこんなコラム記事が載っていた。
「 円安に揺さぶられる輸入依存」
主食の米も、野菜も卵も、肉も魚もなにもかも値段が上がって、家計支出に占めるエンゲル係数は上がりっ放しである。スーパーに行くとレジでの支払い時の感覚が以前よりも明らかにおかしいし、そんなに買ったっけ? といつもレシートを覗き込む。各商品が軒並み値上げを繰り返しているだけでなく、そこに厚かましく消費税10%(1割)がのしかかるのだからたまったものではない。食料品だけではない。ガソリンや電気代も高止まりして、軽々と遠出はできないし、室内では暖房温度も例年より2~3度下げたり、夜間は消して布団に潜り込んだり、近所にはコタツのみでしのいでいると話すお年寄りだっている。ほんとうに世知辛い世の中である。 物価高だけがひどいものになり、それに対して賃金上昇はまるで追いついていないためにみなが悲鳴を上げている。家計所得は失われた30年をひきずってデフレ下のまま、すなわち低賃金のままなのに、急激な円安で輸入品の価格だけは上昇して物価高となり、輸入依存の弊害がもろに露呈している。円安によって儲かっているのは自動車大手などの輸出企業だけで、日本国内で暮らす者には物価高というしわ寄せがおしつけられているのである。 十数年前の民主党政権時期には80円台を推移していた円ドルの為替相場は、アベノミクスの異次元緩和の影響もあってグングンと円安に傾き、いまや150円台後半である。その間に円の価値は半減し、ドルの価値は倍増したことをあらわしている。インバウンドで訪れる外国人が爆増しているのも、たとえばインフレがひどいアメリカと比較しても日本が安いからであって、物価の安い後進国で豪遊する感覚なのだろう。物価高であえぐ日本国民とはまるで感覚も異なるのだ。逆に日本人が海外旅行をするとハンバーガーが4000~5000円(日本円換算)というような現地の物価高に目がテンとなり、いまどきは海外留学など余程の富裕層の子息ぐらいしか経験できない時代にもなっている。 輸入や貿易は基軸通貨のドルで決済がおこなわれる。輸入企業にとって、1㌦=80円と1㌦=160円では、同じ1㌦で買えるものが円に換算すると倍額になるわけで、仕入れ値の上昇分を商品の価格に転嫁しなければ利益は出ない。ジワジワと値上げがくり返されるのはそのためで、商品の原材料を輸入に依存すればするほど抜け出せない構造にもなっている。 米やキャベツ、卵などの昨今の価格高騰は、国内の生産者の減少や産地の衰退、その年の気象条件、あるいは鶏インフルエンザで大量にニワトリを殺処分したことによる生産逼迫など、それぞれに特異な事情もある。しかし、いずれにしても物価高、なかでももっとも身近な食料について考えた時、食料自給率が38%で6割以上を海外に依存しているもとで、こうして円安に揺さぶられ、なにか海外で事があれば食べ物を手に入れることすらできない環境のなかでわたしたちは暮らしている。実は脆い構造のうえに“食”が成り立っているのである。この解決のためには国内における自給体制を強める以外にはない。 |
かなり以前から「食料安保」ということが叫ばれ、たとえば農水省はこんな提言(?)をしていた。
「食料安全保障強化政策大綱のポイント」(農水省)
さらに内閣府でもこんなたいそうな資料を発表している。
「食料安全保障強化政策大綱の改訂について」
しかし残念ながらすべて官僚が作成した「絵描き餅」の類で予算確保の「省益」がにじみ出ていて、いまだに効果がでていない。
そんな体たらくなので、こんな事態になっている。
「『エンゲル係数』43年ぶり高水準の衝撃…故・安倍元首相は「生活スタイルの変化」と持論を展開していた」
「生活きついですよね。にもかかわらず政治は何をしているんだと」 元兵庫県明石市長で弁護士の泉房穂氏(61)が7日放送のラジオ番組「泉房穂の情熱ラジオ」(ニッポン放送)で怒りの声を上げていたのが、43年ぶりの高水準となった日本の「エンゲル係数」についてだった。 「エンゲル係数」は家計(消費)支出に占める食費の割合。所得の低い人ほど割合が高くなる傾向にあるとされ、国民の「生活のゆとり」を示す指標でもある。総務省が同日発表した家計調査によると、2024年の「エンゲル係数」は28.3となり、1981年以来、43年ぶりの高水準となった。 泉氏はラジオ番組で各国の「エンゲル係数」を紹介。ドイツ(19%)や米国(16%)、韓国(12%)を挙げつつ、「2割超えてない国はいっぱいある。日本だけがどんどん上がっている。3割に近付いているから異常ですね」とコメントしていた。 円安進行による輸入品、食料品の価格急騰、天候不順に伴うコメや生鮮野菜の高騰など、家計に占める食費の割合は増えるばかり。泉氏の指摘する通り、「政治は何をしているのか」と言いたくなるのも当然だ。 ■国会議員にはカツカツの庶民生活など理解できない ちなみに「エンゲル係数」について物議を醸す発言をしていたのが故・安倍晋三元首相だ。 例えば2017年2月の衆院財務金融委員会。野党議員が第2次安倍政権発足前の2012年と、発足後の2016年の「エンゲル係数」を比較し、「食料品価格の上昇、これは円安と消費税増税が影響を与えている(略)安倍政権のもとでエンゲル係数がここまで上がってきていることについて、安倍政権の政策がこの一因になっている。こういう受けとめ、認識はございますか」と質問。 すると安倍氏は「エンゲル係数の経年変化については、物価変動のほか、食生活や生活スタイルの変化が含まれているものと承知をしております(略)エンゲル係数が上昇した背景としては、天候不順などの影響による生鮮食品の価格高騰などの物価上昇のほか、高齢者世帯や夫婦共働き世帯の増加を背景に、外食や総菜など調理食品への支出志向が高まっていることなどによるものと認識」と発言した。 安倍氏は2018年1月の参院予算委員会でも、「2人以上の世帯のエンゲル係数は2005年を底に上昇傾向にありますが、これは物価変動のほか、食生活や生活スタイルの変化が含まれているものと思います」と答弁。ネット上では《「エンゲル係数」の上昇は「生活スタイルの変化」か?》《外食や調理食品への支出でエンゲル係数が上がるのか?》などと意見が飛び交った。 安倍氏の持論に沿えば、「エンゲル係数」が3割近くにも上昇した日本の飲食店はウハウハだろうが、帝国データバンクの調べによると、24年の飲食店の倒産件数は過去最多を更新だ。 結局、高級クラブで飲み歩きしている自民党国会議員にはカツカツの庶民生活など理解できないのだろう。 ◇ ◇ ◇ |
消費税が5→8%になる時、「今まで105円のものが108.15円になります」とTVで言ってたヨ。
— あをによし (@yokyaon) February 10, 2025
こんな馬鹿を8年もトップに担いだ政党に投票し続けた人達、責任取れヨ!
「エンゲル係数」43年ぶり高水準の衝撃…故・安倍元首相は「生活スタイルの変化」と持論を展開していた https://t.co/wuAKJED0OS
日本のエンゲル係数が28・3%の高水準になったとのニュース。フランス24%、英国22%、ドイツ19%、米国16%、韓国12%なのに、日本だけがどうしてこんなにも高いのか。庶民は食べ物すらまともに買えない状況になりつつある。国民よ、こんな政治をともに変えていこう! https://t.co/4Z8gHfedvh
— 泉 房穂(いずみ ふさほ) (@izumi_akashi) February 7, 2025
日本のエンゲル係数が28・3%の高水準になったとのニュース。フランス24%、英国22%、ドイツ19%、米国16%、韓国12%なのに、日本だけがどうしてこんなにも高いのか。庶民は食べ物すらまともに買えない状況になりつつある。国民よ、こんな政治をともに変えていこう! https://t.co/4Z8gHfedvh
— 泉 房穂(いずみ ふさほ) (@izumi_akashi) February 7, 2025
ヤッパリ 結論は・・・
ついにバレちゃった
— れいわ動画チーム (@Reiwanokirinuki) February 6, 2025
123万円の壁より
消費税廃止の方が
✨✨✨✨✨✨✨✨
✨手取りが増える!✨
✨✨✨✨✨✨✨✨
年間5,000円と18万円だったら
どっちがいい?
やっぱり #消費税廃止 !#れいわ新選組 #くしぶち万里 #れいわの国会質問
編集&投稿 ritsuki0130 pic.twitter.com/kAyiIYJ6eD
こんな下々の生活にはほとんど頓着な日本のトップは、米国での首脳会談と称するトランプとの「面接試験」を事なき終えてホットしているらしい。
「アラスカからLNGを購入…ツキも実力のうち?石破総理がトランプ大統領と舌平目をつつきながら約束した「巨額投資」
■「神様から選ばれた」 事前の想定シナリオになかった石破茂首相の冒頭発言「神様から選ばれた」が、ドナルド・トランプ大統領との日米首脳会談の流れを決定づけた―。 2月7日午前11時55分~午後1時45分(米東部時間)までホワイトハウスで行われた同会談は、前半の少人数会合と後半の拡大会合(ワーキングランチ)合わせて約1時間50分間に及んだ。 石破氏発言があった少人数会合は米側:トランプ大統領、J・D・ヴァンス副大統領、ピート・ヘグセス国防長官、スージー・ワイルズ大統領首席補佐官、マイク・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)、日本側:石破首相、岩屋毅外相、橘慶一郎官房副長官(政務)、岡野正敬国家安全保障局長、山田重夫駐米大使。 では、石破氏は冒頭、何と言ったのか。トランプ氏が昨年7月の演説中に銃撃されながら奇跡的に助かった際の写真を手に、「大統領閣下はあの時、自分はこうして神様から選ばれた(that is why God saved you in that experience)と確信したに違いないと思った。(この写真は)歴史に残る一枚です」と切り出した。 首相は18歳の高校3年生時に洗礼を受けたキリスト教プロテスタント(長老派=カルヴァン派)の敬虔な信者である。一方の大統領は同じプロテスンタトのキリスト教徒を自任するが、その時々で政治ニーズによって宗派が長老派、福音派に変わるようだ。 ■「ヨイショ」にすぎない それはともかく「予測不能な(unpredictable )」トランプ氏との会談に向けて、昨年末から入念な準備のため土・日曜や祭日を含め時間を割いてきた石破氏に対し、現下の世界情勢なども勘案する外務省は、リスクマネジメントの観点から「宗教的話題」を避けるべきと繰り返し助言していたのは周知の事実である。 ところが会談当日の朝、石破氏は宿泊先の大統領迎賓館ブレアハウスで岩屋、岡野氏ら首相随行団幹部を前に、青空と星条旗を背に拳を突き上げるトランプ氏の姿に感動した自分の気持ちを表現すると宣告したという。 それが奏功したのだ。トランプ氏の表情が瞬時、穏やかになった。我々ジャーナリズムは通常、それを「ヨイショ」と言う。事実、読売新聞(9日付朝刊)は3面(総合面)にタテ見出し「持論封印 トランプ氏持ち上げ」を掲げて報じた。 もちろん、米側にも事情があった。例の中東パレスチナ自治区ガザを巡る「所有」発言が世界中から総スカンを食らっていた。4日のイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相との会談後の共同記者会見で飛び出したトランプ氏の想定外発言だった。 12日のインドのナレンドラ・モディ首相との会談が現在の同国の対中・露・米関係を勘案すると余りにもデリケート故に振り付け通りにならないとして、大統領最側近のワイルズ氏がその間にセットした石破氏との会談だけはせめて「真っ当な」首脳会談にするべく細心の注意を払ったとされる。 ツイてると言っていい。ツキも実力のうちとも言う。 ■これでディールが成功? さて、日米首脳会談関連で非公表なのが舌平目のムニエルを食したワーキングランチ(約1時間20分)の日米双方の参加者リストである。外務省は拡大会合非公開を理由に挙げる。 しかし少人数会合出席者の日米各5人以外に、米側はダグ・バーガム内務長官(兼国家エネルギー評議会委員長)が参加したのは米側報道で判明した。日本側でも経済産業省ナンバー2の松尾剛彦経済産業審議官が同行し、参加している。 |
この面子から想像できるが、石破氏が固有名詞を挙げ、数字や地名を記したチャートやグラフを見せながらトランプ氏に説明したテーマは、アラスカ州に埋蔵する液化天然ガス(LNG)の輸入構想であろう。
アラスカ北部産出の液化天然ガスを南部の港・貯蔵基地まで新設パイプラインで搬送し、同港から日本に向けてLNGタンカーで輸出するというのだ。確かに対日貿易赤字の大幅削減に大きく寄与するウィンウィン関係のプロジェクトである。
日本は中国に次ぐ世界第2位のLNG輸入大国だが、アラスカ産輸入が実現するのはまだまだ先の話である。目先のディール(取引)によって獲得できる数字(金額)に目が向くトランプ氏が強い関心を示したという。俄かに信じられないのだが……。
やはり、現実的には今後も安閑著してはいられないようである。
「トランプvs石破茂の「関税騙し合いゲーム」で手玉に取られる日本。首脳会談は友好ムードでも国内農業に大打撃の恐れ」
先の日米首脳会談を、国内主要メディアは「石破首相はそこそこよくやった」とおおむね肯定的に報じている。まずは“面接試験”に合格したという解釈だ。一方で「トランプ大統領はしばしば、ディールの相手を持ち上げた後に手のひらを返してきた」と指摘するのは元全国紙社会部記者の新 恭氏。とりわけ米側が進めたい「相互関税」は、日本にとって大きなリスクをはらんでいるという。 ■“表面的には”石破首相が成功を収めた日米首脳会談 石破茂首相がトランプ大統領との初の首脳会談に臨む前、日本のメディアでは、二人のケミストリー(相性)や石破首相の外交手腕についての不安が報じられていた。「石破総理は持論をぶつのではなく、商談だと思って臨まなければいけない」という政府関係者の指摘もあった。 さぞかし緊張の日々だっただろう。首脳会談とはいえ、石破首相にとってはトランプ大統領との関係を決定づける「面接試験」のようなものだった。だからこそ、麻生太郎氏や孫正義氏と会って「傾向と対策」についてのアドバイスを受けるなど事前準備を重ね、アピールポイントを整理して、その場にのぞんだのだ。 会談当日。石破首相は、日本が世界最大の対米投資国であることを強調し、日本企業による巨額の投資計画や石油、天然ガス輸入などを具体的に示すことで、トランプ氏に好印象を与えようとした。 表面的に見る限り、その目論見は成功した。互いに褒め合い、友好ムードのうちに会談は進み、トランプ大統領から圧力発言が飛び出すこともなかった。石破首相は9日のNHK番組で「大勢の方に努力いただき、良い結果となった」と胸を張った。政府内からは安堵の声がもれ、与党はもちろん野党からも評価する声があがったと読売新聞は書いた。 |
総じて日本のメディアは、(太字石破首相がそこそこよくやった)という論調だ。それだけ、過剰に心配していたということだろう。しかし考えてみれば、トランプ氏が石破氏に愛想よく振る舞うことに、何の不思議もない。
カナダ、メキシコ、中国に対して追加関税をつきつけたことで、すでに間接的には日本にも強烈なプレッシャーをかけているのだ。仲良くさえしておけば、日本の首相が気前よく経済的恩恵を米国に与えてくれるのは安倍晋三元首相との関係で経験済みである。初対面から石破氏に厳しい態度で接する理由など全くない。
■トランプ大統領の“本音”、日本経済に逆風も
一方、米国メディアは、トランプ大統領の本音の部分を報じている。たとえば、ワシントンポスト紙(現地時間2月7日)。
トランプ大統領は記者会見で、日本が米国からの輸入を増やす措置を取らなければ、まもなく米国から関税を課される可能性があると示唆した
関税強化は日本政府が最も恐れることだ。会談後の両首脳の記者会見のなかに、米記者がこの記事のように解釈し得る部分があるのかどうか。関税がらみの発言を抜き出してみた。
■トランプの「相互関税」に仕掛けられた“農産物の罠”
トランプ氏冒頭発言「米国は日本に対して1000億ドル以上の貿易赤字がある。それについて早急に対処する。石油とガスについてできる。我々はどちらもそれを理解している」
──日本に関税を課す計画はあるのか。
トランプ氏「関税、特に相互関税は計画しており、月曜日か火曜日に会議し、発表し、記者会見も開くだろう」
──相互関税の計画に対し、石破氏はどういった反応を示したか。
トランプ氏「関税についてはあまり協議しなかった。アラスカ州のLNGパイプラインなど多くの課題について協議した」「日本がすぐにでも(LNGの輸入を)始めることはとてもうれしい」
───もし米国が日本に関税をかけるとすれば、日本は報復関税をかけることになるのか。
石破氏「仮定のご質問にはお答えをいたしかねる、というのが日本の大体定番の国会答弁だ」
トランプ氏「とても良い答えだ。素晴らしい。彼は要領をつかんでいる」
この話の流れから推察できるのは、アメリカの貿易赤字を解消するために、日本は石油、ガスの輸入を拡大することで合意。関税については米側が「相互関税」を計画しているということだ。
相互関税とは、相手国が高い関税を課している場合、同等の関税を課す仕組みだが、実はこれ、日本にとって大きなリスクをはらんでいる。
相互関税を厳密に適用するなら、たとえば輸入自動車の場合、日本が関税を0%にしている以上、米国も日本車に対する2.5%の関税を撤廃するのが筋である。
しかし、トランプ大統領の「相互関税」発言の意図は、「米国が不利になっている」と考える分野で関税を引き上げるということであり、必ずしも公平な意味での相互関税ではない。
たとえば、「米国の自動車関税をゼロにする代わりに、日本の農産物関税を大幅に引き下げろ」とトランプ大統領が言い出すかもしれないのだ。米国が農産物に関税をかけていない一方で、日本は米(778%)、麦(252%)、牛肉(25.8%)など高関税で国内農業を保護しているのは周知の通りである。
日本が農産物の関税を下げることになれば、国内農業への影響が甚大であり、政治的な混乱は避けられない。
■石破首相率いる日本が日米首脳会談で得たもの
関税強化圧力に怯えていた石破首相は、いくつかの巨額の“貢ぎ物”を用意し、ホワイトハウスに持ち込んでトランプ大統領のご機嫌をうかがった。もちろん、それらが日本にとって、大きな重荷になるのは承知のうえだ。
“貢ぎ物”の一つは、すでに輸入が行われているテキサス州やルイジアナ州のLNGとシェールオイルの輸入量を拡大することだ。日本としては、これによって中東依存を減らし、エネルギー供給の多様化を図りたいわけだが、米国からの調達はコスト的に中東より高くつくのが現状だ。
トランプ大統領はこのほか、アラスカ州の天然ガスパイプライン建設計画への日本の支援を求めたようだ。同州北部のガス田から全長約1,300キロメートルにわたるパイプラインを建設し、南部の液化施設まで天然ガスを輸送。そこで液化天然ガス(LNG)に加工し、主にアジア市場へ輸出するプラン。総投資額は約440億ドル(約6.8兆円)と見積もられている。
ただし、環境団体からの反対や、プロジェクトの経済性に関する懸念が指摘されており、日本政府としてこのプロジェクトを支援するかどうかは今のところ不明だ。もし、パイプラインの建設にまで関わることになれば、日本の負担増ははかりしれない。
1兆ドル(約150兆円)もの莫大な対米投資を約束したのも、日本企業や政府系ファンドにとって、大きな財政的負担につながる可能性をはらむ。国内の産業競争力やインフラ投資に悪影響を及ぼしかねないだろう。
ともあれ、トランプ大統領との間で、ひとまず友好的なムードをつくれたのは石破首相にとって一歩前進だ。日本製鉄と米鉄鋼大手USスチールの買収計画についてトランプ大統領から「買収ではなく投資だ」と、これまでよりは前向きな発言を引き出したことも評価できる。
USスチールは米国を代表する鉄鋼メーカーであり、特にラストベルト(衰退した工業地帯)の有権者にとって象徴的な企業だ。トランプ氏は買収に対する労働組合や保護主義的な支持者の反発を抑えるため、大統領選の期間中は「買収」を認めない方針を表明していたが、ここへきて態度を軟化させつつある。
日本製鉄としては経営権を握らなければ投資する意味がない。そもそもUSスチールの競争力を向上させるには、日本製鉄の管理の下で技術革新や経営改革を進める必要があるというのが両社の共通認識だ。トランプ大統領はそれを承知のうえ、米国内のナショナリズムに配慮し、「投資ならOK」として話を前に進め、落としどころを探っていきたいのではないだろうか。
後日の会見でトランプ氏は、日本製鉄がUSスチールの株式の過半数を持つことはできないと語ったが、もしそうなるにしても、取締役会の構成や経営方針の策定で日本製鉄が主導的な役割を果たすことにより、経営に対する実質的な影響力を確保することが可能だろう。
■トランプの「手のひら返し」で本当の勝負が始まる
今回の首脳会談における合意は、なんとか石破首相が想定した範囲内におさまったのかもしれない。しかし、石破首相にとってトランプ大統領との本当の“勝負”はこれからだ。
トランプ大統領が交渉のための戦術として相手を持ち上げ、親密さを演出するのは多々あることで、石破首相がその恩恵にあずかったことは必ずしも長期的な友好関係を保証されたものではない。
トランプ氏は、今回の会談で日本側から大きな譲歩を引き出したのだから、その「成功」を米国内に大々的に宣伝するために友好ムードが欠かせなかった。
実際、トランプ大統領はしばしば、ディールの相手を持ち上げた後に手のひらを返してきた。「素晴らしい友人」と称えていた中国の習近平主席に対する姿勢はその一例だ。一度にすべての要求を提示せず、段階的にプレッシャーをかける。それがトランプ流だ。
GDP比2%への防衛費増額目標では満足できず「さらなる米国製兵器購入」と「米軍駐留費負担増」を日本に求めてくる可能性はきわめて高い。石破政権がいつまで続くかは不透明だが、トランプ大統領に御しやすいと思われたことは間違いない。
石破政権の存続をトランプ氏が願うなら、安倍・トランプ時代の蜜月関係のようなものが復活し、石破首相の延命に追い風となる可能性もあるだろう。「優しい人」「気配りのできる人」というトランプ観をこれから先も変える必要のない間柄が続くよう、石破首相は祈るしかあるまい。
こんなことでは、どうやら、当分の間は日本の「エンゲル係数」は下がりそうもないようである、とオジサンは思う。