選挙は地方選だろうが国選だろうが、告示や公示された時点で選挙運動は終わり、残りの期間は支持者以外の票の掘り起しといわれてきた。
脱法に近い事前運動でコアな支持者を確実に固めて基礎票を確定し、あとは当選に必要な票の上積みを図るというのが一般的な戦略らしい。
もっともこんな戦略を立て実行に移せるの莫大な資金力がある候補者である。
真っ当な、そして新人の候補者はそれどころではなく、政策よりも知名度を上げることで選挙期間は終わってしまう。
したがって余程のことが無い限り、現職は負けない。
たまに不祥事を起こした現職が立候補すれば新人が新鮮さと潔癖さを前面に出して勝つこともある。
そんな参院選挙が公示されてはやくもこんな予測記事がでている。
「自公、改選過半数の勢い 参院選、朝日新聞序盤情勢調査」
【朝日新聞より】
「参院選 序盤情勢・毎日新聞総合調査 改憲、3分の2割れも 与党、改選過半数は確保」
【毎日新聞より】
一応、ネット上の声を拾ってみる。
安部総理の嘘ベスト10
— Dr.ナイフ (@knife9000) 2019年7月6日
10:珊瑚は移植した
9:強行採決したことはない
8:お父さん憲法違反なの?
7:獣医学部の設置知らなかった
6:福島はアンダーコント?ロール
5:私や妻が関わっていたら総理を辞める
4:TPP断固反対
3:沖縄に寄り添う
2:最後の一人まで年金払う
1:原発電源喪失はありえない
#れいわ新選組 候補者#蓮池透 さんの衝撃証言
— 赤坂浪漫亭 (@akasakaromantei) 2019年7月5日
過去に安倍首相が「北朝鮮のミサイルが日本の人口の少ない所に1発でも落ちてくれればいいのに」と発言したという。
さらに驚くのは、この言葉が1回や2回じゃないとのこと。これは確信犯です。絶対に許せません??#山本太郎pic.twitter.com/9w3zmHRTMM
こちらの写真、違反しているとは知らず、写真を撮ってツイッターにアップしてしまいました。 pic.twitter.com/1WcAJ0FB7W
— 福田大誠 (@daiseifukuda) 2019年7月5日
安倍首相は、著書『美しい国へ』で「私は高校時代、日米安保条約に関して先生を論破した」と書いているが、当時の成蹊高校の先生が毎日新聞に「あそこで論破したら彼を傷つけると思った」と。情けない…。還暦近くになってもまだ高校生気分のままとは。 pic.twitter.com/eTvvlMpewY
— 盛田隆二 (@product1954) 2014年8月14日
さて、保守論客、西部邁の弟子で東工大教授の中島岳志が最新作『自民党 価値とリスクのマトリクス』(スタンド・ブックス)で、9人の首相候補政治家の言葉・著作を分析した。
この著作を基にライター・武田砂鉄と行われた対談の一部を紹介しておく。
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<「安倍首相は空虚である」自民党政治家を徹底分析して見えた「実像」>
2019.07.04 現代ビジネス編集部
■空虚だからこそコスプレセットを着込む
中島:新刊『自民党』では、安倍晋三氏、石破茂氏、菅義偉氏、野田聖子氏、河野太郎氏、岸田文雄氏、加藤勝信氏、小渕優子氏、小泉進次郎氏といった9人の首相候補政治家のインタビューや著作をもとに、彼らの発言を引用しながら、現在の自民党の姿と政治家たちの実像をあぶりだそうと試みています。
武田:『自民党』を読んでまず感じたのは、今、安倍首相がなにを考えているのか、私たちはもう何年も耳にしていないのかもしれない、という事実の危うさです。いま彼から放たれる言葉の多くは、彼自身の言葉ではない。そのほとんどが他者が用意した言葉であり、誰かを慮る言葉ばかりです。
中島:おっしゃる通り、安倍首相は自分の言葉を話していない。なんでも語っているようで、なにも語っていない。彼の言葉を表面的に理解するだけでは、見えてこないものがあります。
私が関心を持ったのは、2016年6月の吉祥寺での選挙演説です。反対派の人が押しかけて「帰れ」コールをしたのですが、今まで定式化されていたことを喋っていた安倍首相が我慢できなくなって、次のように言ったんですね。「私は子供の時、お母さんからあまり他人(ひと)の悪口を言ってはいけない。こう言われましたが、……妨害ばっかりしている人がいますが、みなさん、こういうことは止めましょうね、恥ずかしいですから」。
私は彼が口にした「お母さん」という言葉が、固められた言葉からは見えなくなっている部分で、ここに露出したナイーブな幼さと、高圧的なタカ派イデオロギーのアンバランスが、この人の本質だと思うんです。
これは安倍首相の思想と無関係ではありません。彼は母方の祖父である岸信介氏への思いが強い。自伝を読んでも、父親の安倍晋太郎氏のことは冷淡に書いていますし、父方の祖父で反戦の立場をとった政治家・安倍寛氏についてはまったく触れようとしない。
安倍首相が幼少期のころ、晋太郎氏は家を空けがちで、ほとんど遊んでもらえなかった。しかも兄のほうが勉強がよくできたため、父は晋三氏に冷たかったようです。出来の悪い息子だと言われてきた。それを擁護してくれたのが「お母さん」で、よく連れていかれたのが母方の実家、岸氏のいる家でした。その思い出が彼の根本にあるんです。
91年に父・晋太郎氏が亡くなり、晋三氏は93年に衆議院議員に初当選します。それ以前を調べてみても、政治的な考え方についての証言も、文章も出てこない。彼には固定化されたイデオロギーや思想はなかったんです。ただ、父が亡くなったときの追悼文が冷たかった。
彼が右派イデオロギーに染まっていくのは当選直後です。当時、自民党は野党でした。細川内閣は「侵略戦争であった、間違った戦争であった」と記者会見で表明し、直前には河野談話もありました。そこに反発した自民党の一部が「歴史・検討委員会」を発足し、安倍氏も参加するようになります。その後、中川昭一氏が代表を務める、歴史教科書問題や慰安婦問題を語る若手勉強会の事務局長になります。
彼はまっさらなので、スポンジのごとく考えを吸収し、あの言説が生まれていきました。吸収した背景にはもちろん岸をめぐる個人的な愛着があると思うのですが、確固たる思想があったわけではない。幼少期に持っていた屈折に、中川昭一氏らタカ派のイデオロギーが入ることによって出来上がったのが安倍さんなんです。
武田:政界に入り、その「スポンジ」の中に刺激物を注入し、自分の言説をラディカルなものに仕立てていく。彼が政権を取ったあと、彼に迎合するように生まれた右派論客の刺激物の作り方に似ています。
青木理『安倍三代』(朝日文庫)を読むと、祖父・寛氏、父・晋太郎氏の章に比べ、晋三氏が薄味で驚きます。あちこち取材に出かけても、周囲は晋三氏についてあまり覚えていない。「いくら取材を積み重ねても」「悲しいまでに凡庸で、なんの変哲もない」と書き、晋三氏の空虚さが強調されていた。
中島:彼の言説を追うと、「コスプレ」だと感じます。思想があるのではなく、右派の「憲法改正」「靖国参拝」というアイテムをコスプレセットとして身に着けている。しかもそれは「保守思想」というよりも、「反左翼」で一致されたアイテムです。
武田:量販店に行くと、流行りに合わせたコスプレセットが売られていますよね。マツケンサンバが流行れば、マツケンのコスプレセットが売られたりする。「これを全部着込めば、ひとまず忘年会のステージに立てる」というもの。ああやってアイテムを急いで着込んだ人が、長らく日本のトップにいるわけですね。
・・・中略・・・
■ヤンキー気質に応える山本太郎
中島:同じ手法で、今は野党の政治家について書いています(「中島岳志の『野党を読む』」)。その中で山本太郎氏(第3回)について書いたのですが、2年前の枝野現象と、今の山本太郎現象の同一性と差異を感じています。
同一性は、ひとりで大きなものに立ち向かっていることへの共感です。枝野氏は非常に理知的な人で、「政策新人類」と呼ばれた。そんな人が、理知的な判断ではなく「行くしかない!」と、はじめてジャンプした瞬間なんですよね。そんな姿に、人は感銘を覚えて「応援したい」と思った。
山本太郎氏も消費税減税を訴え、「れいわ新選組」をひとりで立ち上げた。その部分への共感は枝野現象に似ています。ただ面白いのは、山本氏にシンパシーを感じている層が、枝野氏を支えた層と違う。
武田:どのように違うのでしょうか。
中島:山本太郎の支持者の約4分の1は、立憲民主党の支持者です。同じ約4分の1は自民党支持者で、その背景は二つあります。ひとつは消費税増税に反対しているリフレ派の人。これは少数ですよね。私はもうひとつの、農協、青年会議所、商店街にいる地方のマイルドヤンキー層に注目しています。
TPPがあり、進次郎氏は「農協をつぶす」と言っている。消費税増税は商店街に打撃を与えます。昔から地元の自民党市議会議員を支えていて後援会にもかかわっているから、選挙では「自民党」と書くけれど、「俺たち、自民党の政策にやられているよね」と感じているのではないか。
そんな時に、あのガタイのいい山本氏が「ちょっとおかしい」「弱いものをいじめてどうするんですか」と熱く語っているのは、ヤンキー気質に応えると思うんです。この層がぐらぐらと動いている。
「山本太郎の情熱が自民党の支持層を崩してしまう可能性がある」(中島氏)
武田:れいわ選組のポスターには「みんなに忖度!」とある。「最近、自分たちの言うことを聞いてくれていない」と感じている地方の自民党支持者が、あの熱量でやってきた山本に、「おっ、こっちの話を聞いてくれるのか」と身を乗り出すかもしれない。
中島:今の自民党を崩す可能性を秘めているのは、共産党なのではないかと僕は考えていました。現在の共産党の発言は、かつての保守本流に近いですから。共産党の理知的なものが、むしろ保守的な自民党層に浸透する可能性があるのではないかと。
でも共産党は、大衆的・庶民的に見えない。Ⅱのゾーンはどこかエリート臭がするのが弱点なんです。エリートの再配分の理論は、見る人によってはキレイごとに見える。旧民主党系のリーダーになっている枝野幸男氏、玉木雄一郎氏はマルチでなんでも知っていて、あらゆる分野で提言ができる。理知的ですが、ヤンキー気質に応えるわけではない。対するⅣの強さはヤンキー気質に応えます。
山本氏は、理知的な判断よりも、むき出しの情熱が上回っているように見える。この情熱が自民党の支持層を崩してしまう可能性がある。これは新しい現象だなと思います。山本氏が正論を吐けば、ついてくる層がいる。Ⅱのゾーンに大衆政治家が現れた。
武田:これから、Ⅳの濃度が上がっていくのは仕方ないとしても、安倍政権がI~Ⅳを一応、すべて網羅しています、と言い張るときに、野党がどう勝負を挑んでいけるのか。たしかに、山本太郎氏vs岸田文雄氏という個の対決ならば、山本氏が勝ちそうな気がするけれど。
・・・後略・・・
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ライターの・武田砂鉄は書評でこう語っていた。
「会見や国会での安倍晋三の言葉が彼自身の言葉ではないことを、多くの有権者が知っている。「云々」を「でんでん」と読んだ事実がしみじみ恐ろしいのは、彼の国語力の低さだけではなく、彼が彼の言葉で話していないことを知らせたから。『どうせ官僚が書いている』との諦めが常態化すると、あっちは開き直る。『真意ではない』『一部を切り取られた』と逃避に励む。政治家は、有権者に言葉を伝えるべきである。
たとえば安倍晋三は2004年から14年までの間に共著を含めて7冊の著作を刊行しているが、その著作群で述べたことが、今、彼を支える右派論壇の苛烈な言い分と完全に一致していることに驚く。」
参議院選挙は政権選択選挙ではないが、少なくともこんな男が独裁的に振る舞って日本の政治を私物化していることに対しての意思表をできる選挙である。
自分の現在の生活がまあまあ満足なので「アベサンでいいや」と思っている多くの若者は是非、自分の将来のことも含めて判断してもらいたいものである、とオジサンは思う。