この書名や、在日2世で2004年に日本国籍を取得した著者の意図等について、人によっては問題にするでしょう。(※この本の内容については→コチラ参照。)
とりあえずそれはおくとして、1910~45年の日本統治下の朝鮮についていろんな人たちがリアルタイムでいろんなことを書いています。(日本に来た朝鮮人が書いたものもありますが・・・。)
その中で、安倍能成(あべよししげ.1883~1966)が書いた文章が7編あります。安倍能成は1926~40年京城帝国大学教授の職にあり、その当時の朝鮮についていろいろ記していますが、私ヌルボ、これまで読んだ記憶がなく、短いエッセイばかりですが今回興味をもって読むこととなりました。
その7編の中に「京城の夏」があります。文字通り京城の夏の景物、動植物や人々の衣服等について自然な筆致で書きとどめた、深い観察眼が読み取れる一文です。
この初めの方に、次のような記述がありました。(・・・と、ここから本論。)
・・・・六月になって雉子は聴かないが、閑古鳥はつい二三日前にも聴いた。月の半ば頃に蛙の声を聴いたことがある。それはメコン蛙と呼ばれるもので、日本で聴きつけたのに比べると、その鳴声が如何にも駄目をおすように尻の方にエムファシスが強い。
「メコン蛙」というのは初めて見ました。後の方にも、南山の斜面に住む人の家で「梟の声を軽く短くしたような・・・・南山蛙の声」を聴き、「朝鮮にはだめを押すようにしつこく鳴くメコン蛙というのも居るが、この南山蛙というのがどういう種類の蛙かは知らない」と記していますが、それ以上は言及していません。
さて、この「メコン蛙」とはどんな蛙なのか? たぶんないだろうなと思いつつも検索をかけてみると案の定ヒットは皆無。しかし私ヌルボ、若干の手がかりはないでなし。というのは、2012年に書いた<韓国漫画名作100選② 専門家が選んだベスト10>という記事(→コチラ)の中で漫画家ユン・スンウォンによる往年の人気漫画「メンコンイ書堂(맹꽁이 서당)」について書いたことがありました。その説明文(一部略)は次の通りです。
書堂(学塾)の先生が弟子たちに歴史を教えるという形式の、歴史学習漫画の元祖。 「メンコンイ(맹꽁이)」はアマガエルの一種のジムグリガエル。孔子(コンジャ.공자)と孟子(メンジャ.맹자)の名から1字ずつ取った「孔孟書堂(コンメンソダン.공맹서당)」が本来の書堂の名ですが、それをふざけて逆にしたもの。
【「「メンコンイ書堂」第1巻(左)と、富川市・ミュージアム漫画奎章閣にあるメンコンイ書堂の展示物(右)。】
・・・ということで、このメンコンイで間違いないですね。もしかして安倍能成センセイ(か、在朝鮮の日本人)はこの蛙をメコン川と関係があると思っていたのでしょうか?この「ジムグリガエル」で検索すると、2010年の「中央日報」(日本語版)に<ジムグリガエルの集団移住>と題したおもしろい記事が見つかりました。(→コチラ。原文は→コチラ。)
実はこの記事にメンコンイについての多角的なネタがほぼ包括されています。以下、順次韓国サイト等で知り得たことも含めて、6つの項目に分けてメモしておきます。
①昔の人も鳴き声に悩まされた!
安倍能成は「だめを押すようにしつこく鳴く」と控えめに書いてますが、「中央日報」は次のような言い伝えを記しています。
高麗の時代、契丹軍の侵略を防いだ姜邯賛(カン・ガムチャン)将軍が黄海道海州(ヘジュ)に赴任した時、その地の住民が夜昼かまわず鳴くメンコンイのため眠りにつけず悩まされていた。姜将軍は黄色い護符を取り出し、呪文を唱えて「もう泣かないでくれ」と叫ぶと静かになった。池からメンコンイを引き上げてみたら、口がきけなくなっていたという話。
ウィキペディアの<アジアジムグリガエル>の項目(→コチラ)によると分布地域は中国南部から東南アジア、インド方面で、日本も韓国も記されていません。こういった地域の人たちはその季節になると大勢不眠症になるのでしょうか? ちょいと探してみたら、バリ島とかカンボジアに行った人が「カエルの鳴き声がうるさい!」と書いてましたね。
②メンコンイという名は鳴き声に由来している。
1匹が「メン」といえば、他のメンコンイたちが「コン」と答え、まるで輪唱するように「メンコンメンコン」と鳴くところから「メンコンイ」という。
・・・ということですが、YouTubeにいくつかある動画から1つ、とくにやかましそうなのを貼っておきます。
しかし、はたして本当に「1匹が「メン~」といえば、他のメンコンイたちが「コン~」と答え」ているのかどうかは聴き取れないんですけど・・・。もちろん、「メン」となくグループと「コン」となくグループが最初から二分されているのかどうかというのも分かるはずはありません。
それ以前に、くちびるを閉じてmの音を発音できるわけでもないのに、なんで「メン」と聞こえるのか疑問です。(笑) まあイヌの鳴き声も「モンモン」と聞こえるのが韓国の人たちですから・・・。
【地面を這うメンコンイ(ジムグリガエル)。右は1979年発行の切手。】
③カエル(개구리.ケグリ)やヒキガエル(두꺼비.トゥッコビ)との違いは、小さめで丸まっこい体。体長は4~5㎝程度でヒキガエルと間違えやすいが、頭が短くて体が丸い。黄色の体に青い光あるいは黒い光柄がある。動きが鈍いので、言葉や態度がもどかしい人のことを指して「メンコンイみたいだ」という。
・・・両生綱カエル目[無尾目]の、アカガエル上科のヒメアマガエル科に属するれっきとしたカエルの仲間なのですが、足には水かきはなく、蛙跳びはできず、這い回るだけなのだそうです。
学名はKaloula borealis、英名はNarrow-mouthed Toad(またはBoreal digging frog)なのだそうですが、日本ウィキペディアの<カエル>(→E3%82%A8%E3%83%AB#.E7.B3.BB.E7.B5.B1">コチラ)と、韓国ウィキペディアの<맹꽁이과>(→コチラ)のそれぞれ最下段にある系統樹を対照してもよくわからず。カエルがこんなに細かく分類されているとは知りませんでした。韓国人でもケグリやトゥッコビとの区別がよくわからない人がふつうにいるというのもうなずけます。
人に対するニックネーム(別称?蔑称?愛称?)としては、バラエティ番組「無限挑戦」(MBC)で共同MCのパク・ミョンスが歌手のイ・ジョクに「メンコンイ」というニックネームをつけて以来それがかなり一般化しているようですよ。(→関係記事。) 顔だか体形だか動作等だか理由までは調べてませんが。
※韓国語での各種カエルの名称等を確認しようとあれこれ探したら、<日韓ちゃんぽん>というブログ中に50種以上の両生類・爬虫類の韓国名・和名・学名の対照表というのがありました。(→コチラ。) いやあ、毎度のことながら、どんな分野にも専門家(or専門家ハダシ)がいらっしゃるものです。
④南京錠のことをメンコン錠(맹꽁이 자물쇠)という。
古代ローマにはすでにあったという南京錠ですが、私ヌルボ、この日本語名は南京虫に形が似ているから(どこが!?)かな?となんとなく思ってきました。(笑) 実は、外国由来のものや珍しいもの、小さいものが<南京>を冠して呼ばれたことに由来するのだそうです。
では、韓国ではなぜ南京錠をメンコン錠(맹꽁이 자물쇠)というのか? ・・・いやあ、ちょっと調べればわかるかと思ったら、意外に難航してまだわからないのです。錠のことだけになかなか解けない、なんちゃって・・・。 続き(あと1回)までにわかればソチラで書きます。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます