愛する犬と暮らす

この子たちに出逢えてよかった。

ママが大変だ!

2009-07-30 21:08:35 | 日記
☆すぐに手術を
 昨日、ぼくは会社を定時に出て7時前には家へ戻り、そのままシェラをこの3年間お世話になっているK動物病院へと連れて行った。当然、ムギも同行した。 
 たかがイボである。病院へは土曜日に連れて行けばいいと思っていたが、女房の「痛いのかもしれないし、自分で舐めて噛み取ったりしないかなぁ」という不安全開の言葉の裏に、早く病院へ連れて行かないと女房のほうが病気になりかねないとの予兆を読み取ったからである。
 
 診察はいつもどおり素早く、説明も明快だった。
 正体はイボ。悪性の場合もあるが、可能性は低い。自然にポロリと取れてしまうこともあるからしばらく様子をみてもいい。取るなら方法はふたつ。全身麻酔で根まで含めえぐるように切除する。あるいは、部分麻酔で下地の皮膚をえぐらず、イボそのものだけを切除する方法。これだと再発することもある。
  
 三つの選択肢のうち、迷わず最後の部分麻酔を選んだ。
 何もしないのは女房のこころの負担が続く。全身麻酔はシェラの14歳の年齢から身体の負担になりかねない。
 「それじゃ、やりましょうか」
 先生はこともなげにいって立ち上がった。局部に麻酔薬を塗布すると、「10分ほどで効いてきます。お呼びしますので待合室で待っていてください」。
 
 10分後、シェラは先生にリードを引かれ、おとなしく処置室へと入っていった。ムギが不安げに見送る。ムギにとっては経験したことのない展開である。

 ほどなく、処置室からシェラの絶叫が聞こえてきた。
 泣いていた。助けを求める悲痛な叫びである。やがて、断末魔のような声……。
 女房の顔がこわばるより先にムギが処置室の扉の前へ駆け寄ると激しく吠えた。
 「ママ、どうしたの? 大丈夫なの? ねえ、どうしたの?」と、ぼくたちには聞こえる。

 処置室からシェラの声が聞こえなくなっても、ムギは扉の前から動こうとしない。必死で中の様子をうかがっている。

☆で、結末は……
 すべてが終わるまでに15分ほどだったと思う。その後、シェラはひと声とて上げなかった。 
 先生の話によると、シェラが叫んだのは処置の準備の段階(たぶん、手術台に固定されたとき)であって、手術の最中はまったくおとなしかったという。なるほど、おびえたふうもなく、ケロリとした顔でゆったりとした足取りで戻ってきた。

 豹変したのはムギだった。シェラに走り寄り、無事をたしかめると反転し、夢中で出口に急ぎ、この場から早く逃げようと焦りまくっている。シェラのほうは何事もなかったように落ち着き払った足取りでムギにつづく。左足を気にする様子さえない。
 
 切り取られたイボはぼくが想像していたよりは大きかった。先生からはイボの手術の過程と止血の方法の説明があり、万一、出血したときわれわれがやるべき措置の指示、化膿止めの薬を5日分出すなどを聞かされた。
「もし、またイボが出てきたら同じように処置しましょう。今回、わざわざ病理検査に出す必要はないと思います」

 支払いは女房にまかせ、シェラとムギをひと足先にクルマへ乗せるために病院をあとにした。やがて、晴れやかな顔で戻ってきた女房にぼくは興味津々で訊いた。
 「で、いくらだった?」
 その値段を聞いて驚いた。女房は予想どおりと言っていたが、なんと薬代込みで1万円に満たなかった。「血液検査」も「病理検査」も「レントゲン撮影」も「半日入院」もしていないから当たり前というレベルの話ではない。そんな必要はなかったのだ。
 あらためて言うまでもないけれど、わんこを飼うなら、なんとしても腕のいい、そして良心的なお医者さんとの出逢いが不可欠である。

☆もしも、ムギがピンチになったら……
 病院での出来事がほんの小1時間だったとはいえ、シェラもムギもどっと疲れが出たようで、家に戻るとゴロンと横になり、シェラなどぼくがいくら呼んでも顔さえ上げない。まったくのシカトである。
 「わたしのママの一大事!」とばかりシェラの元へ馳せ参じようとしたムギのけなげな姿に、ぼくと女房の間でムギの評価は跳ね上がった。
 
 そりゃそうだ、わが家にきて以来、ずっとシェラを頼り、いまだにシェラの庇護下にあるムギである。シェラなしでは生きていけないのをいちばんわかっているのはムギ自身のはずだ。
 
 それゆえに、ぼくたちは恐れている。年齢から言えば、シェラの寿命が先に尽きてしま可能性が高い。もし、シェラが逝ってしまったら、きっとムギはすぐに後を追うだろうという女房の憂慮がにわかに現実味を帯びた昨夜のムギの反応だった。
 
 「ところで、今日、扉の向こうで悲鳴を上げていたのがムギだったら、こちらにいるシェラはどうしただろうか?」
 ぼくは女房に訊いてみた。
 「逃げるんじゃない」
 答えが即座に返ってきた。
 ぼくもそう思う。この推量まず間違いないだろう。
 
 決してシェラが薄情なわけではない。ムギのシェラへの思い入れが深過ぎるのだ。

【写真=処置室の前で微動だにせず中をうかがうけなげなムギ】