永井隆の「長崎の鐘」の最後の二章「壕舎の客」と「原子野の鐘」を読む。廃墟となった天主堂での合同葬で信徒代表として弔辞を述べた永井隆の原稿が収録されている。原爆がなぜ長崎に、それも浦上天主堂の上に落ちたのか、なぜ天主堂で祈りを捧げていた無辜の信徒達、明治維新直後のキリシタン迫害(浦上四番崩れ)を耐えて信仰を守り抜いた浦上のカトリック信徒の末裔が、なぜホロコーストの犠牲となったのか。根源的な問いに直面したキリスト者、永井隆の言葉が記されている。
2008年、永井の生誕百周年に、プロテスタント神学者の大木英夫は、この「原子爆弾合同葬弔辞」について次のように書いている。
「ひとつひとつの言葉まで燔祭の火のように、聖なる垂直次元に燃え昇るような言葉である。..ヨブ記に堪える、いやヨブ記を超えるほどの言葉ではないか。ヨブ記を超えるほどの言葉なしにあの現実に、そして全ての人間の現実に取り組むことは出来ない。ヨブ記に堪えるということは、人生と歴史の究極の悲惨にさえも堪えることができるということ、人生と歴史の不条理をも超えることができるという事である。この言葉が右に或いは左に傾斜した理性には不可解であるとしても、天が裂けてまっすぐ垂直次元に輝く光の下では決して不可解ではない。それは啓示によって可能となる神学的認識なのである」(『人格と人権』上 50頁、教文館)
大木氏は、敗戦を契機として、軍国少年から一転して、キリスト教の洗礼を受けた神学者である。永井隆の言葉を、「弁証学のための<言葉>の獲得、原爆体験から発出した言葉」ととらえて詳しく論じている。それは、右翼や左翼の政治的言説の喧噪を離れて、原子野の虚無と沈黙のただなかから生成する「十字架の学知(scientia crucis)」の始まりを示す言葉に他ならない。
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