エピローグ

終楽日に向かう日々を、新鮮な感動と限りない憧憬をもって綴る
四季それぞれの徒然の記。

川瀬巴水展

2015年01月05日 | ポエム
昨日、日本橋高島屋まで出かけ「川瀬巴水展」を観た。



新版画の世界を切り開いた人である。
作風は、かの浮世絵師・歌川広重に似ていると云われるけれど・・・。
似ているのは人物描写ほどのものである。

けれど、彫師、摺師との息のあった作品作りは感動すら覚える。



とりわけ刷師のバレンのタッチは、生々しく迫ってくる。
本名は川瀬 文治郎(かわせ ぶんじろう)。
衰退した日本の浮世絵版画を復興すべく吉田博らとともに新しい浮世絵版画である新版画を確立した人物である。
近代風景版画の第一人者であり、日本各地を旅行し旅先で写生した絵を原画とした版画作品を数多く発表した。
日本的な美しい風景を叙情豊かに表現したのであった。
「旅情詩人」「旅の版画家」「昭和の広重」などと呼ばれるのは当然至極である。






 川瀬巴水展を見て
「木版の肌理細やかな雪の色」







中尊寺金色堂は、巴水の絶筆。
昭和32年の作品である。
展覧会のビデオによると、巴水は摺の完成した作品を目にしていないのだとか・・・。

木版画は下絵を下に、40枚以上の版木が彫られ摺師が色を重ねていく。
気の遠くなるような作業である。
色の具合、バレンのタッチ、それが全て合致して作品に昇華するのである。

三枚目の作品は、ぼくの一番好きな作品である。
「東京20景・馬籠の月」である。



食傷気味なほど、雪、雨、夕景、水面を描き続けた巴水である。
展覧会でも、観覧者は最初は丁寧に観ていくけれど後半になると、かなり大雑把になっていく。
作風が分かり始めるのである。

しかし、丁寧に観ていくと下絵の見事さ、彫師の鋭さ、摺師のセンス、それぞれが際立って光る。
それらが、総合的に川瀬巴水の作品となっていく。
総合的に、川瀬巴水の筆致になっていくのである。

鑑賞にあたって、彫師の息遣いを感じ、摺師の感性を感じたり、或はバレンのタッチを感じたりする。
その気配や佇まいを感じようとする。
その鑑賞の方法が楽しいのである。

昨日の展覧会は、眼福と言っても良かろう。
幸せな気分である。



       荒 野人