自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★続・ニュージーランド記

2006年08月22日 | ⇒トレンド探査

 クイーンズタウンという町の名は聞いただけで移民の国らしい語感がする。大英帝国の女王陛下に捧げる、あるいは立派な町にしていつか女王陛下に来ていただこう、移民たちのそんな思慕の念が読み取れそうだ。で、何人かの日本人の現地ガイドと話をすると、そんな歴史のことより、「クイーンズタウンはすごいですよ、オークンランドより高いそうですよ」と口をそろえたようにして言う。「高い」とは地価のことである。

     投資の熱狂・クイーンズタウン

 クライストチャーチを後にして8月16日はクイーンズタウンを訪れた。湖畔沿いに街がつくられ、雪のサザン・アルプスが背景に連なる。雑誌などでよく見る北欧かスイスの街のようなイメージだ。南緯45度、地球儀をひっくり返してみれば、北緯45度は日本の北海道・稚内、何となく北国であることが想像できる。が、ヨーロッパと比較するとイタリアのミラノやフランスのルグノーブルに相当し、北欧とは遠い。

  雪山が望めるのも、暖流の東オーストラリア海流の上をなめるようにして吹きつける湿った風が2000㍍級のサザン・アルプスにぶつかり、一気に上昇気流となって山頂に雪を戴かせる。つまり、クイーンズタウンの町はそれほど寒くはないのにモンブランの景色が楽しめるというわけだ。景色だけでなく、スキーヤーの姿もよく見かけた。

  クイーンズタウン郊外にはオーストラリアのメルボルンやシドニーと結ぶ空港もあり、いまや年間150万人の観光客が訪れるニュージーランドきってのリゾート地になっている。日本人ガイド氏が「高い」という理由も街を眺望して理解できるような気がした。あちこちにリゾートホテルが建ち並ぶ。リゾートホテルと言っても、高層ではなく5階から7階ぐらいの中層である。実際に泊まったホテルもモダンアートと照明に凝った、品のよいホテルだった。

  しかし、そのクイーンズタウンをめがけて資本の論理がうごめく。郊外はリゾート地にあやかってホテルや住宅の建設ラッシュなのである。中でも100戸近くはあるかと思われる開発地が目を引いた。ガイド氏の説明では、つい最近まで牧場だったところをエステート(不動産会社)がそっくり買収し、別荘用に売り出している、という。「売り地800平方㍍、18万㌦」の看板を見かけた。日本で言えば、「240坪、1370万円」(1NZ㌦=76円で換算)となる。また、リゾート用の分譲マンション、「3DKタイプで家具、プラズマテレビ付き25万ドル(1900万円)」というのもあった。

  日本人の感覚からは「安い」かもしれないが、現地のことをよく知っているガイド氏などは「オークランド近郊の話ですが、牧場を800万円で買って、6億円で売り抜けた日本人の話はニュージーランドでは有名ですよ」と。いまこの手の話はあちこちにあるらしい。現地の銀行のリーフレットを手にすると、1年ものの定期預金は利息7.35%である。いまの日本と比べれば、この金利でよく経済が回るものだ感心するくらい高い。いや、日本のバブル絶頂期を思わせる。

  リアス式海岸の景勝地であるミルフォード・サウンドでのクルージングを楽しんでホテルに戻ったのは夜だった。ホテルのバーカウンターで地ビール「スパイツ」のジョッキを片手に盛り上がっている4、5人の男たちがいた。スーツに派手なネクタイ姿はエステートの連中か、と詮索してしまった。母国の女王陛下への思慕の念を抱きつつ先祖が心血を注いだ開拓の地を投資の対象にして、人々の心が騒いでいる。かつて、どこかの国で見た光景だった。(写真は、クイーンズタウンのリゾートホテル)

⇒22日(火)朝・金沢の天気   くもり 

コメント (2)
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